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97話 扉の先は⑤

「なんでこんなところにいるんだ? 美月と家、近かったの?」

「中学校から同じだったけど、近いって程じゃないかな。駅も一駅離れていたはず」

「そっか……」


 ではなぜこんなところに? ここでは今から見るに堪えない残虐な事件が起きてしまう。テレビの中継では俺が警察に取り押さえられている姿しかなかった。いや、もしかして……。


「俺が、中野さんを殺したのか……?」


 ぽつりと、そう言葉が零れた。


「勇也、早まりすぎ。まだ時間的に早いからきっと中野さんは関係ないはず」


 美月に怒られてしまった。確かにそうだ。そもそも俺は中野さんと1回しかあったことはない。それに恨まれるようなことなんてこれっぽちもしていない。


「ごめん、早とちりしすぎた。中野さんの様子は?」

「なんか止まってスマホを見てるね。さっきから動いてない」


 美月は壁から顔をのぞかせるようにして、中野さんのことを見ている。俺も気になって、美月の肩をつかむようにして覗き込んだ。


「ホントだな……。何か検索でもしているのか」


 中野さんとの距離は20mほど。身長もあの時見たよりも高くなっており、絶対に高校生とは間違えることはないような、大人の魅力を身にまとっていた。


 俺はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。16時30分。


 その数字を見ただけで焦りが出てきた。少しずつ余裕がなくなってきている。もうすぐ最悪の事態が起きてしまう。

 そんな時、後ろから足音が聞こえてきた。誰かがこちらに向かって走ってきている。それに気づいた俺と美月は、視線を合わせて、さっきやってきた駅のほうまで一旦退散することにした。


 少し遠くの場所に戻った俺らは、息ができないほど筆舌に尽くしがたいほど悲惨な光景を目にすることになった。後ろから聞こえてきた足音は2人だった。すっと、その二人が目の前の路地を走っていく。一瞬だったから見間違えかもしれない、なんて浅はかな希望は捨ててしまった。その人物を俺は、俺たちは誰よりも知っていたからだ。


 何と言おう、その二人組は、10年後の俺と美月であった。


 10年後の俺は、以前ニュースで報道されているときにも見たが、今よりもやせていて、一瞬で分かるほど大人だった。服は半袖のYシャツを着ており、ずいぶん年を取っていると思った。美月は逆に、今よりももっときれいになっていて、テレビに出ているアイドルと遜色ないほどの美しさだった。

 俺と美月は再び視線を合わせ、通り過ぎていった二人を追いかけていく。バレないように、こっそりと。すると、さっきから立っていた中野さんと蜂合わせたところだった。


 一体何が起こっているのか、さらに近づいてみようとしたとき、辺り一帯の静かな空気をかき消すかのような叫び声が聞こえる。


「それ以上近づいたら、殺す‼」


 その声に驚いて、一瞬硬直する。到底、日常会話では聞こえてくることのない単語。

 それと同時に足音も止まった。

 ゆっくりと、覗き込むようにして、俺と美月は声のした場所を見る。


 そこには、ナイフを右手に持った中野さんの姿があった。


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