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95話 扉の先は③

 学校に着いた。夏休みだから静か、というわけでもなく、体育館やグラウンドで練習をしている運動部の掛け声が響いていた。なんなら普段より賑やかまである。

 そんな賑やかな場所から少しだけ離れていって、俺たちは旧校舎の入り口までやってきた。ここに来るのはあの時以来だ。一人で来ようかとも思ったが、そんな勇気などどこにもなかった。


「今日の目的は事件の瞬間に立ち会って手がかりを入手すること。どうして事件を起こしてしまったのか、そこが分かれば解決策も出せるかもしれない」


 淡々と説明を始めた姿は、さっきまでの気を許している美月ではなく、教室で何でもこなしてしまう学級委員長の美月であった。


「分かった。もしそこで未来の俺を止められそうだったら止める?」

「うん。だけど、それには危険も伴う。だから、よほど余裕がない限りは様子を見るだけだね」


 美月がポケットから鍵を取り出し、旧校舎の入口の扉を開錠する。あの時からずっと持っているのだろうか。


 扉を開けた旧校舎入口の昇降口は相変わらず埃っぽかった。

 そのまま階段を上って、2階に上がった。廊下を進んでいくと、教室の扉から光が漏れ出していた。あの時と同じだ。


 美月が先に扉に手をかけ、ゆっくりと開く。俺も後からつけるようにして、教室内へと入っていった。


 そこには以前見たときと同じ、高さは3mくらいあるであろう、真っ黒の扉が立ちふさがっていた。まるで俺たちのことを歓迎しているかのように、教室の中心に建っていた。


「ふぅ……」


 俺は息を吐いて、呼吸を整える。この部屋に入った瞬間、あの日のことが脳裏に蘇ってきた。嫌な思い出がたくさんある場所だが、俺と美月が初めて会話した場所でもある。お互いのことを初めて認知し、意識し始めた場所だ。


「緊張してる?」


 そんな俺を見かねてか、美月が話しかけてくる。その表情は俺なんかよりずっとリラックスしており、教室にいる時よりも緩んで見えた。


「ちょっとだけ。美月はあんまりしてなさそう?」

「んー、そんなことないよ。大事な未来がかかってるからね。緊張してるよ」


 そうは言いつつも、俺にはそう見えなかった。もしかしたら、俺が緊張しすぎて相対的に美月が普通に見えているのかもしれない。


「じゃあ、時間を設定しようか」


 俺たちは扉の裏に回り、デジタル時計とその横にボタンがついていることを確認する。

 美月がそのボタンを押すと、時間が分単位で動いていく。何十回もボタンを押して、設定が終わった。デジタル時計に表示されている時刻は 2033年4月12日 16時00分。

 前回は16時52分に行ったらちょうどニュースで事件が起きたと報道されていた。なら、それよりも前、16時に行けば、少なくとも事件現場には間に合うだろう。


「それで、事件現場はどこかわかるのか?」


 一番重要なことだ。場所がわからなければ止めようがない。


「うん。ニュースの映像を見て、私の知ってる場所だったよ。というか、私たちのだね」

「え? 俺も知ってるのか」

「あの場所は私の家の近く。学校から帰るときに通る場所だね」


 それを聞いて驚く。俺は気づかなかったが、そんな場所なら美月は見た瞬間に一発で分かったのだろう。


「大体学校から家まで3駅乗り継いで30分弱。16時半くらいには現場に着けると思うの」

「もしかしたらもう未来の俺は現場に来てるかもしれないからな。その予定で行こう」


 俺達は再び扉の表へとやってきた。美月の方をじっと見つめる。美月も初めは扉の方を見ていたが、俺の視線に気づいたのかこちらの方をじっと、揺るぎない眼で見つめてきた。


 一人ではできないことが、二人ならきっとできる。そう、確信していた。


 美月が右手をゆっくりとインテグラル錠のドアノブに手をかける。そしてゆっくりとまわして、扉を開くと、辺り一帯が眩しい光に包まれていった。目を開けるのもできなくなってしまうくらいの光量に、ゆっくりと飲み込まれていく。




 気が付けば、そこは3度目の未来だった。1回目に来た時とも、2回目に来た時とも変わらない、普通の家のリビングだった。

 俺はハッと我に返ったように、隣の美月を確認する。するとちゃんと隣にいてくれた。どうやら部屋全体を見回しているような様子だった。


「美月? どうかした?」


 俺は声をかける。


「ん……いや、ちょっと気になったことがあって。でもたぶん気のせいかも。よし、時間もないから早く行こっか」


 美月は俺の手を取って開けっ放しの吐き出し窓から外に出る。

 足元はスリッパのままなので、このままアスファルトの上を歩くと違和感がある。だけどそんなこと気にしてはいられない。

 美月に手を取られて、学校の前を通り過ぎて最寄り駅まで走る。10年後の未来でもまだ紙の切符はあるようで、普段電車を使わない俺はそこで購入することになった。


 美月はスマホをかざし、俺は切符を改札に通して抜ける。

 ホームに行くと、そこは現代と大して変わった様子はなかった。電車も空を飛んでいるなんてことはなかった。


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