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94話 扉の先は②

「マジか……」


 俺はその提案に対して、驚きを隠せなかった。それと同時に喜びの感情も少しだけあったかもしれない。

 昨日美月は俺がリードしたことに対して不満を抱いていた。今回のはそれに対するリベンジなのだろうか。


「マジのマジ。後で勇也のも塗ってあげるから、ササっとお願いね」


 そう言って日焼け止めを手渡しされる。ゆっくりと受け取り、キャップを開けた。さかさまにして何度か振ると、液体が少しだけ出てきた。俺はそれを右手て零れないように持ち、じっと美月の腕を見つめていた。


「じゃあ……塗るから」


 そう言うと美月は自分から右手をこちらに向かって差しだしてきた。

 俺は意を決して美月の腕を掴むようにして日焼け止めを塗る。ヌルっとした感触を、広げるようにして腕全体に塗っていく。なんだか、いけないことをしているみたいで、背徳感がすごい。そもそもこんなに美月の腕を触ったのは初めてだ。


「こんな感じでいいかな」


 俺はある程度塗り終わった後、そっと美月の腕から手を放してそうつぶやく。小さな部屋の中にやけに大きく響いた気がした。


「うん。ありがと。次は勇也の番ね。手出して」


 言われるがままに俺は日焼け止めを美月に渡し、右手を差し出す。すると、その手が少しだけ震えていることに気付いた。


「正直怖いのかもしれない。本当に未来を変えることができるのか、心の中では半信半疑なのかも」


 今の気持ちを、隠すことなく素直に吐き出す。そんな俺の気持ちを、美月は拒絶することなく、優しく受け止めてくれた。


「やっぱりそうだよね。私も昨日はあんなに意気揚々としてたけど、今朝目が覚めて一番最初に湧いてきた感情は恐怖だったよ」


 美月は日焼け止めを掌に出し、俺の腕にゆっくりと塗っていく。優しく、包み込むようにして。なんだかとても幸せな気分だった。


「でも、今さらそんなこと考えても仕方ないって思ったの。そうやって今まで二人でどんなことでも乗り越えてきた。目をそむけたくなるほど辛いことだって、二人なら乗り越えられた。だから、私は信じることにしたの」


 そう言ってこちらを見つめてきた美月の瞳は、澄んでいた。真っすぐとぶれることなく、目標に向かって進んでいく、そんな気概を感じさせた。


「そうだな……。確かに今まで色々あったし、乗り越えてきたもんな。やってみないことにはわからないからな」


 自分に言い聞かせるようにして言葉を放つ。何度も思っているが美月は強い。前向きになれる性格というのは、現代社会を生きていくうえで大きな武器になりうる。


「うん。よし、これでオッケーかな」


 気が付けば、美月は俺の腕にしっかりと日焼け止めを塗り終わっていた。せっかく手が触れていたのに、もっと堪能すればよかったなんて変態的な考えが浮かび上がる。

 そう思った直後、俺は美月の手を引き留めていた。一番細くなっている手首の部分をやさしくつかむ。


「どうしたの?」


 美月はちょっとだけ困ったような、そして驚いたような表情をする。


「もっと美月に触れていたいなって思って」

「……勇也ってちょっとえっちだよね」

「⁉」


 美月の口からそんな単語が出てくるとは思ってもいなかった。いくら最初のころから印象がくだけたからと言って、そんな言葉を口にするなんて思っていなかった。


「びっくりした。美月、人前じゃあんまりそんなこと口にしないほうがいいよ」

「あ……当たり前じゃん! 何言ってるの……」


 急に頬が赤らんでいき、語気が強くなる。それと同時に斜め下の視線を地面に移し、こちらを見なくなった。


「勇也ってたまに意味わかんないこと言いだすよね」

「そう?」

「うん。絶対そう」


 美月は視線をこちらに戻して、ゆっくりと立ち上がる。


「それじゃあ行こうか」

「ん、あぁ」


 さっきまでとの会話のギャップに少し動揺したが、美月の目つきが変わっていることに気付き、真剣さを感じる。ついに、この時がやってきたのだと。

 俺たちは玄関まで歩いていき、そこで歩みを止めた。


「勇也はさ、明日何がしたい?」


 美月が靴を履きながら、何気ない質問をしてくる。


「明日かぁ。昨日はおうちデートだったから、どっか遊びに行きたいな」

「例えば?」

「そうだなぁ。んー、遊園地とか?」


 デートの定番スポットといえば遊園地だろう。動物園や映画館には行ったものの、遊園地には行っていない。


「いいね。勇也は絶叫系は得意?」

「得意……なのかな。ずっと行ってないからわかんないけど、極端に苦手とかではないと思う」


 遊園地に最後に行ったのはいつだろうか。なんだか記憶がぼやけている。少なくとも母さんが死んでからは行ったことはないはずだ。


「そっか。じゃあ明日、楽しみだね」


 そう言った美月の表情は笑顔だったのだろうか、すぐに前を向いてしまったため、はっきりと見ることはできなかった。


 ゆっくりと玄関の扉を開き、8月の暑さを肌身で感じながらいつもの通学路を美月と一緒に歩いていく。


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