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83話 二人の時間⑤

 そんな走馬灯のような出来事が一瞬のように頭の中を流れていった。

 俺は後ろで待っていた美月に場所を譲る。


「何か考え事してた?」


 すれ違い際に美月に質問される。どうやら、相当長く居座ってしまっていたらしい。


「まぁ、友貴君にあった日のことだな。あれから色々あったなって」


 俺はごまかしても仕方がないので、考えていたことを素直に話す。


「色々……ホントに色々あったね」


 美月は線香を右手に持ったまま、遠くの空を見上げるようにしてそうこぼした。その眼は憂いも含んでいるように見えるし、懐旧の念が押し寄せているようにも見えた。


 そのまましゃがみこんで、線香を香炉に寝かせる。俺と同じように両手を合わせて目を瞑った。家族なのだから、俺よりももっとたくさんの思い出があるだろう。

 だけど、美月はすぐに立ち上がってこちらに踵を返した。


「じゃあ、帰ろっか」


 その言葉には優しさだけではなく、どっぷりと浸かってしまいそうなほどの甘さもあった。

 俺はその言葉に従うようにして友貴君の墓を後にした。


 帰りの電車は早く感じた。あっという間に駅に到着して、美月の家の目の前まで来てしまった。ここに来るのはあの日以来だ。車庫には車が一台止まっている。恐らくご両親のどちらかがいらっしゃるのだろう。そもそも美月は両親に俺と付き合っていることを話しているのだろうか。まぁ、あの時美月のお母さんは薄々感づいていたような気もするが。


 そんなこんなで俺は玄関の中にすでに招き入れられていた。鼻腔をくすぐるいいにおいがする。美月の性格をそのまま表したような、心落ち着く匂いだ。


「上がっていいよ~」


 さっきよりも落ち着いた美月の声が俺の鼓膜を揺さぶる。俺は脱いだ靴をそろえて美月の一歩後ろをついていく。あぁ、こっちに行くと風呂場、こっちはトイレだなど勝手に頭の中で当時の記憶が呼び起こされる。


 そのまま連れられて2階に上がってきた。階段を上がってすぐ、手前の部屋が友貴君の部屋のはずだったが、既に扉にかけてあったプレートはなくなっていた。


「友貴君の部屋は、そのままなのか?」

「う~ん、少しずつ整理している感じだね。私もまだどれを捨てて、どれを遺せばいいか分からないからみんなで少しずつ整理していってる」

「それもそっか……」


 俺は当り障りのない返事をして、友貴君の部屋の前を後にしていった。


 そして美月の部屋の前までやってきた。ふと、あの雨の日のことを思い出す。人生で初めて女子の家に上がった日。俺は平常心ではなかった。だけど、何とか普通に振る舞おうと必死に意識をしないようにした。


「お邪魔します」


 俺は恐る恐る美月の部屋に入る。中央には机が、そして壁際にはベッドが置かれていた。壁にはずらりと並んだ本が置かれている。


「物色するような勢いでキョロキョロしてるね」


 そんな俺が面白かったのか、美月は手を小さく口元に当てて笑う。


「まぁ、女子の部屋に入るなんて初めてだし、挙動不審になるくらい許してくれ……」

「……私もあの時初めてだったんだけど」


 そう小さくつぶやくと、美月は上目遣いで頬が少し上気していた。

 そうか、俺が学校をサボって美月に来てもらった時、あの時美月も男子の家に入るのは初めてだったんだ。そんな勇気を振り絞ってきてくれていたのに、俺の愚痴ばっかり聞いて申し訳ない気持ちになる。


「そっか、そうだよな。お互い初めてのことばっかりだな。だけどさ、こうして付き合うのって楽しいよな」

「どうしたの急に? 勇也って結構急にロマンチスト的な発言し始めるよね」

「そう? なんかさ、美月と出会ってなかったらこの部屋に来ることもなかったし、そもそも友貴君にだって出会っていなかった。たぶん今日は俺は家で寝て過ごしていたと思う。それがさ、こんなに充実した毎日になって、出会いってすごいんだなって」


 俺はありのままの感情をぶつけた。日頃思っているものの、あまり面と向かって伝えることは気恥ずかしい感情。それが何故だか、この場所だったらスラスラと言葉にできた。


「そうだね。でも、勇也はやっぱりロマンチストだね。でも、そーいうとこも含めて私は好きかな」


 “好き”その言葉は、簡単に発言できたとしても、中身はずっとずっと重いものだ。likeの好きもあれば、loveの好きだってある。俺はその言葉に責任を持って行動できるほどの人間にならなければいけない。美月のためにも、俺のためにも。


「さぁ、座って座って。勇也は私とお喋りがしたかったんでしょ」

「そうだった。じゃあ、遠慮なく」


 俺は真ん中に置いてある机のすぐそばに腰を下ろす。背中をベッドに預けて、楽な姿勢を取った。美月はエアコンの電源を入れると、俺の向かいではなく真横に、しかも肩があたってしまうくらいの距離に、腰を下ろしてきた。シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。

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