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79話 二人の時間②

 何もしなければ、強盗のように一瞬のうちに時間を奪い去ってしまう。かといって、楽しい時間を過ごせばそれもまた一瞬で過ぎ去ってしまう。どうせ奪われるなら後者がいい。


 好きな人と、好きな場所で、好きな時間を過ごす。美月と出会うまで気づくことができなかった生き方だ。こんなに簡単なのに、あの時の俺では一生かかっても気づかなかっただろう。


「まだ夏休みも始まってないのに、急に哀愁漂うこと言い始めちゃってどうしたの?」


 そんな俺の発言に、怪訝な表情をしてこちらを見つめてくる美月。


「いや、美月は可愛いなって思っただけ」

「意味わかんない。どうしたの勇也、今日は頭でも打った?」

「もしかしたら打ったかもなぁ」

「……ホントに大丈夫?」


 割とマジで美月に心配される。こうなってしまったのも、こんなに綺麗で透き通った青い空のせいかもしれない。この景色を見ると、全てがどうでもよくなる、はちょっと言い過ぎかもしれないが、少なくとも寛大な心を持つことができる。ちょっとした明日の不安や今日の後悔は少なくとも綺麗に拭い去ってくれる。


「一つ聞いてもいい?」

「……なんかいやな予感がするからダメ」

「じゃあやめとく」

「……」


 俺は意地悪に美月をからかう。そんな態度に怒ったのか、頬を膨らませて俺の腕をつかんできた。


「勇也の意地悪! 勇也ってあれでしょ、時間経つと愛想尽かしてくるタイプだ」

「いや、流石にそんなことはしないよ。俺が100人の美少女から告白されるようなイケメンだったら分からないけど」

「へー、私より他の子の方に行く可能性もあるってことなんだ」


 いつもよりワントーン以上低い声で、軽蔑のまなざしを向けながらそう言った。


「いやいや、冗談だって」

「ふーん」


 必死に否定するが、美月はあんまり信じていないようだった。俺は美月が寂しがるようなことは絶対にしない。この日々が、何よりも幸せだからだ。これが終わってしまえば、俺は中身の何もない空虚な人間に戻ってしまう。もっと、幸せな時間を共有したい。そう思っているし、その思いは何年・何十年経っても変わらないはずだ。


 だが、それを阻害する未来を俺は見てしまった。

 この幸せが崩れ落ちる瞬間を、この目ではっきりと見た。通常なら絶対に見ることがない瞬間を、見てしまったのだ。


 そのために明後日からは動かなければいけない。今日や明日はそのための休養日といってもいいだろう。どんなに辛いことが待っているかわからない。けど、それをすべて乗り越えなければ未来は見えてこない。


「で、聞きたいことっていうのは扉のこと?」

「ん……あぁ」


 俺が言うよりも先に、美月は何を言うのかわかっていたようだ。以前よりも俺たちの距離は見違えるほど近くなった。それは二人で歩んでいる時間が増えたからともいえる。だから、お互い何を考えているのか、分かってしまうことがたまにある。


「扉について考えるのは今はなしにしようよ。今どうこう考えたって解決するわけじゃない。そうでしょ?」

「まぁ、確かにそうだな」

「私だって色々考えてる。けど、今それを言ったところで不安が増えるだけじゃない。だからさ、まずは明日の、一番近い未来のことを考えようよ」

「……美月は強いんだな」


 素直に心の中で思ったことを口にする。俺一人だったらそんなこと考えられなかった。今にでも扉に向かっていってしまっていただろう。


「強くないよ。勇也だってこの前までの私の姿知ってるでしょ」


 この前までというのは、出会ってから友貴君の葬式までのことだろう。あの日、美月は俺に泣きついてきた。声が枯れるほど泣いていた。綺麗な顔も、ぐちゃぐちゃになっていた。でも、それは俺も一緒だった。どうすることが正解なのかわからない中で、できることはしたつもりだった。もしかしたら美月に嫌がられていたかもしれない、そんなこともずっと頭の中で渦巻いていた。


「そうだ、明日は美月の家に行く前にさ、一緒に友貴君のお墓に行ってもいいかな。俺も色々伝えたいことがあるし」

「友貴に? もちろんいいよ。私も夏休み入ったら行くつもりだったから」

「そっか、じゃあまずは友貴君に会いに行ってからだな」


 俺は友貴君に1度しか会って話したことはない。しかも、相当に嫌われていた。だけど、今になればあの態度の理由も分かった。ずっと来てほしかった姉が、何知らぬ顔をして友人を連れてきたのだ。もちろん美月が悪いわけではないが、確かにそれは友貴君にとっては怒りも湧くだろう。そこを配慮できなかった俺の責任でもある。デリケートな時期に、部外者の俺なんかが踏み込まないほうがよかったのだ。


 だけど、そのおかげで得られたものもある。美月には内緒にしているが、あの小説の束は、友貴君が生前、俺から美月に渡してほしいと言っていたそうだ。


 正確な意図についてはもう知ることはできないが、あんなに苦しい状況の中で、友貴君は俺に対しても考えてくれていたのだ。少なくとも、その俺はしっかり言わなければいけない。

 そして俺と美月の今の関係、今後の関係についても話しておきたい。


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