77話 同じ考え
「ほっ」
フリースロー対決は俺がそこそこ健闘したものの、9-5という結果で終わった。
「勇也、初見で半分も入るのはかなりすごいよ!」
「だろ」
と、自信ありげに胸を張って話していたのだが、もちろんまぐれである。バスケの才能があったとか、そういうレベルの話ではない。それに比べて美月は1本しか外さなかった。いや、彼女にとっては1本外してしまった、なのかもしれない。
京平が言う通り、美月がバスケを辞めてしまったのはやはりもったいない気もする。だけど、自分で決めた道を進むというのは他人が口出ししてよいものではない。
「美月って、バスケ以外のスポーツももしかして万能なの?」
6月の選択授業で美月は卓球を選択している。そんな俺も美月の後を追うようにして卓球を選択したのだが、いかんせん上手くならない。
「ん~、そんなことはないかな。まぁ、人並みにはって感じ」
「それってもしかして自慢してる?」
「どうだろうね~」
おどけるようにして、口角を上げながらそう言った。
こんな風に付き合い始めてからは会話が緩んできた気がする。以前の美月は、委員長で前に立って話しているときほどの威圧感はなかったが、薄い壁が一枚、確かにあった。それはカップルになったからなくなったというわけではない。俺と美月が過ごしてきた時間が、その薄い壁にゆっくりとゆっくりと溶かしていったのだ。
それとともに俺の中で美月という存在はどんどん大きくなっていって、この地球のどこかに存在していなければならない存在になっている。美月がいない世界はもう考えられない。つい2か月前までそんな世界で暮らしていたことが驚きだ。
そんな美月と出会って、俺も少し変われた気がする。親父との関係も元に戻ったわけではないが、小さな一歩を踏み出しただろう。京平との仲も、1年までと比べると確実に深まっている。美月という存在が、波紋のように広がって周りに影響を与えていく。
「美月はさ……」
俺はずっと引っかかることがあった。本当はもっと早くに相談しようと思っていたのだが、親父のこともあって今日になった。
「うん?」
小首をかしげて、急にどうしたのだろうと不思議がる。
「その、扉のことなんだけど」
勇気を振り絞って、そう切り出した。その言葉を口にした瞬間、先ほどまでの緩んだ表情がどこかに消えていってしまったように感じた。
「10年後の未来で俺は犯罪を犯してしまう。これまでは俺一人のことだったけど、美月とは高校生の間だけじゃなくて、その先もずっとずっと俺の傍にいてほしいんだ。だから、俺一人じゃなくて、美月にも迷惑が掛かってしまう」
「……」
美月は何も答えなかった。バスケットボールをお腹の下らへんで抱きかかえたまま、俯いていた。
「だからさ、どうにかして未来を変えたいんだ。もっと明るいほうへ」
俺は掌を天に掲げ、ぎゅっと掴む。ずっとこの手の中につかんでおきたいほど、大事なものができてしまった。
「私も……ずっとそのことを考えていた。勇也ともっと過ごしたいから」
視線をこちらに向け、はっきりとそう告げる。俺はその言葉が聞けただけで満足だった。
「だからさ、もう一度10年後に行ってみようかなって思うんだ」
俺はまるで投げかけるようにして話した。
「そうだね。1時間経てばこっちの世界に戻ってこられるってことも分かってるし、デメリットもないだろうからね。もちろん私も付き合うよ」
そう言ってボールを握った美月は、先ほどと同じように綺麗に弧を描くようにしてシュートを放った。が、それはリングの端にあたり、跳ね返されてしまった。
「ありがとうな。ちなみにいつくらいに行く?」
「そうだね……。急がないといけないわけじゃないから、時間がたくさん作れるときがいいんじゃないかな。夏休みとか」
「夏休み……か」
今から夏休みまでは約1ヶ月。確かに中間試験や期末試験で忙しいこの時期に無理してする必要はないのかもしれない。夏休みなら俺はもてあますほどの時間がある。最悪何度も繰り返し10年後の未来に行って書き換えればよいだろう。
「分かった。じゃあ、夏休み入ったらってことで」
「うん。私も何日でも協力するよ。絶対に、未来を変えようね」
力強い眼差し。美月は、俺以上に気合が入っているのかもしれない。そんな彼女に、俺は鼓舞される。もっと、俺も頑張らないと。扉のことだけではなく、これからの未来のことについてもだ。
「美月、もっかいフリースロー対決やろう。今度こそ俺が勝つ」
駄々をこねる少年みたいに俺は再戦を申し込む。
「いいよ。私だって負けないから」
こんな切磋琢磨しあえるような部分も、俺が美月を好きになった一つだ。彼女は完璧に見えるが、完璧ではない。そもそも、そんな人間などいないのだ。美月のそんな人間味のある部分に魅かれる。
こうしてフリースロー対決は2回連続、俺が負けるのであった。




