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72話 親父②

「二人とも、落ち着いてくれ」


 俺はなだめるようにして、取り乱している二人を落ち着かせる。


「確かに美月に何も相談しないのは悪かった、反省する」

「うん、私は勇也の彼女なんだからさ、もっと相談してくれると嬉しい」


 美月は表情こそ笑顔なものの、その奥に少しの怒りが垣間見えている。俺は将来、尻に敷かれるタイプなのかもしれない。


「分かった。じゃあ昼休みにでも詳しく相談するよ。それと京平も悪かったな。また事情が変わったら伝えるから」

「おうよ! 二人で楽しんできな!」


 さっきからにやにやと俺と美月を見ながらほほ笑む京平。恐らく、何か勘違いしているのだろう。


 というわけで、お泊りの話に関しては昼休みに美月と話すことにした。

 確かにあの時は美月に迷惑を掛けたらいけない、その一心で何も話さなかった。これはまるで、立場が逆転している。美月はこの前、隠していたことを全部話してくれた。その時に俺は「もっと話してほしい」といった。それなのに、どうして自分のことになると気が回らなくなるのだろうか。


 午前中の授業は昨日と同じように、分からないなりに必死にノートにメモを取り頭の中で考えていった。そのせいで、時間の流れはあっという間だった。

 すぐに4時間目終了のチャイムが鳴り響き、俺は席を立ちあがって美月の傍まで歩いていく。


「じゃあ、食堂行こうか」

「うん。私、おなか減っちゃった~。勇也は今日何食べる?」

「俺は……そうだな。久々にラーメンでも食べようかなって」

「ラーメン! いいね。私も食べよ~」


 相変わらずカロリーはあまり気にしていないみたいだ。部活をやめたから意外と気にしたりするのかと思っていたが、そうではないらしい。まぁ、週末はバスケもすることだし大丈夫だろう。


 食堂について、注文をして席に着く。ちょうどカウンター席で2人分空いている席があったのでそこに腰かけた。


「それで、話しなんだけど……」

「うん、お父さんと何かあったの?」

「そう、なんだよな。せっかくの機会だから、俺と親父について、少し聞いてもらってもいいかな」

「うん、いいよ」


 今までこの話をしたことがある人はいない。ずっと、心の中で鍵をかけるようにしていた。母さんとの思い出は大切な宝箱に、それ以外の思い出は一緒にまとめた小さな箱にしまっていた。


 俺は記憶をたどるようにして昔話をした。小学生より前、幼稚園の頃はもうほとんど覚えていなかったが無理もないだろう。今覚えている範囲のことをすべて、洗いざらい話した。

 母さんが死んだこと、そして親父が壊れてしまったこと、すべて話した。


「そうだったんだね……」


 美月は箸を置いており、俯くようにして聞いてくれていた。


「だからさ、ちょっと家に帰ることができなくて。美月の家に泊めてもらってもいいかな」


 事情をすべて話したうえで頼み込む。


「うん、それはもちろん大丈夫だよ。けど、一つ条件があるかな」

「条件?」


 美月は人差し指を伸ばして「1」とこちらに見せてくる。


「私としては、きっと勇也の思いがお父さんにはしっかり届いていないんじゃないかなって、思うの。もちろん、怒鳴られたりして怖いって思っちゃうかもしれないけど、一回勇也の思っていること、これからどうしたいのかをお父さんに話してみるのはどうかな」

「俺の……思っていること……。けど、それを話したからって言ってどうにもならないかもしれない」


 俺は膝の上で拳をぎゅっと握りしめる。


「それはそれでいいんだよ」


 顔を上げると、こちらを真っすぐな瞳で見つめている美月の姿があった。


「もしかしたらお父さんも、分からないで悩んでいるんじゃないかな。勇也がこれからどうなっていくのか、心配しているけど、それがうまく伝えられていない、そんな状況なのかも。だからさ、決意表明みたいな感じで、俺はこうする!っていうのをお父さんに伝えてみればいいんじゃないのかな」


 美月は指先と指先を合わせるようにして動かしながらそう話す。


「親父、悩んでいるのかな……」


 俺にはどうも親父が悩んでいるようには見えなかった。単に俺に八つ当たりをしているだけにしか。


「まぁ、大人だから仕事の鬱憤やそれこそ勇也のお母さんが亡くなったこともあって、色々ため込んでいることもあるかもしれないけど、勇也のことを少しは心配しているんじゃないかな。よく言うじゃん、怒られるうちが華って。それと一緒で、勇也のこと何も思っていなかったらどこに行ってたなんて聞かないと思うよ」


 確かに親父は昨日、あんな時間までどこに行っていたのかと聞いてきた。少しは俺のことを心配してくれていたのかもしれない。だからと言って、そのあとの行動を許せるわけではないが。


「そっか……。俺の気持ちを伝えてみるのもいいかもしれないな。分かった。取り敢えず、今日は家に帰って話してみるよ」

「うん。もしそれで出て行けって言われたら私の家にくればいいよ」

「ありがとな、美月。俺一人じゃ気づけなかった」

「どういたしまして」


 優しい声色でそう答えた。美月がいると心強い。彼女はなんて強いのだろうか。


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