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71話 親父①

 ベッドは沈み込むようにして俺の体を全身で受け止めてくれているような気がした。

 恐らく今夜も公園で寝ることになるだろう。ホテルとかも高校生だけで入ることはできないのかと思って調べてみると、親の同意が必要とのことだった。いわゆる同意書というものだ。


 そんなもの書いてくれるはずもなく、書いてくれるくらいならこの家で寝かせてくれるだろう。なので、ホテルやネットカフェの快適な空間で眠るというのは選択肢の中から消えていった。


 そうなると、友人の家をあたるしか方法はない。そこで俺は思いついた。美月の家は流石に気が引けるが、京平はどうだろうか。同性だし、最近は話す機会も増えている。京平の両親は俺のことも昔から知っているし、遊びに来たといえばもしかしたら泊まらせてくれるのではないだろうか。

 そう思って、俺はメッセージ画面を開き京平に送信した。


 急で申し訳ないんだが、今夜泊めてくれないか? 三代勇也

 6:34


 送信した後に気付いたのだが、何も今送らなくてもよかったわけだ。今から学校で顔を合わせるわけだし、そこで詳しく事情を話せばいいわけだ。少々先走りすぎたかもしれない。

 さすがにまだ起きていないのか、既読はつかない。俺は少し仮眠を取ろうと思い、部屋の目覚まし時計を7時に設定して、布団の中に潜り込む。

 肌にあたるやわらかい反発が、より眠気を誘っていった。


 目覚ましの音で起きる。30分ほどしかたっていないのだが、頭がすごくすっきりしている。やはりベッドという家具は偉大なものだ。何日も公園で寝泊まりするというのは現実的ではないのだろう。

 スマホを確認すると、京平からメッセージが来ていた。さっきの返信だろう。


 大丈夫だぜ。何日でも泊まっていきな! 藤田京平

 6:54


 何とも頼もしい返信だった。厚かましいのは承知の上だが、今の俺にはこうするほかない。親父が帰ってくれば、また怒鳴られるだろうし、親父が家にいる間は京平の家で時を過ごすのが得策だろう。

 俺は学校へ行く身支度をして、家を後にした。


 学校に着くと、既に登校していた京平が俺の席に向かってやってくる。


「よぉ、勇也。昨日は後片付けしてくれてありがとな」


 右手を軽く上げて、ニッと笑顔を作る。


「いや、いいよ。それよりさっきのメッセージ送った件、ありがとな。ちょっと家に居づらくてさ」

「そうなんか。勇也が俺の家に泊まりに来るなんて小1の頃以来だからな。楽しみにしてるぜ」

「あれ、泊まりに行ったことあるっけ」

「もう忘れちまったのかよ。小1で同じクラスになった次の週、仲良くなるためにお泊り会しただろ」

「……すまん、全然覚えてないわ。ってかよくそんな昔のこと覚えているな」


 俺の記憶の中にそんなお泊り会の記憶はなかった。


「そりゃあ覚えてるだろ。あっ、それと今日も部活あるからさ、申し訳ないけど終わるまで待っててくれるか? たぶん7時には終わると思うから」

「おう、分かった」


 7時となると授業終了から2時間ほど時間がある。その間、一人で時間をつぶしておけばいいだろう。学校ならどうにでもなる。

 と、そんな会話を京平としていると教室の後ろのドアから、美月が入ってきた。こちらに気付き、ゆっくりと歩いてくる。


「おはよ。二人とも」


 右手を挙げて挨拶してくる。


「「おはよ~」」


 俺たちも軽く手を挙げてそれにこたえる。


「どうしたの二人集まって。委員会か何か?」

「いや、そういうわけじゃ……えっと」


 これは少し困った。もちろん美月に京平の家に泊まるということは伝えていないわけで、

 何で自分の家に来ないのか、と言われてしまいそうだ。


「勇也が俺の家に泊まりに来るって話でさ。いやぁ、久しぶりだからなぁ」


 そんな俺の心配を斬るように、京平が真実をばらまく。あー、これはどうしようか。


「そう……なんだ。お泊り会、的な?」

「まぁ、そんな感じだな。勇也がなんか家に居づらいみたいでさ、それで俺の家にくるって言い出してさ」

「おいおい、喋りすぎ!」


 俺は慌てて京平の口元を手でふさぐ。どうしてこいつはこんなにベラベラと喋ってしまうのだろうか。まぁ、それが人を引き付ける長所でもあるのだけれど。


「何それ、私きいてない」


 美月はわざとらしく頬を膨らませて、俺のことをにらみつける。


「いや、その、だな。う~ん、最初は美月の家にお邪魔しようと思ったんだけどさ、色々と迷惑かなって。ほら、友貴君亡くなったばかりでご両親も疲れているだろうし……」


 仕方がないので、俺は素直に事情というか、美月に相談しなかった理由を述べる。これで少しは落ち着いてほしいのだが。


「別に私は大丈夫だよ。この前泊まった時の部屋使ってくれれば、ご飯とかは私が用意するし。相談してほしかったな~」


 相当根に持っているのか、俺の顔を鋭いまなざしでにらみつける。


「いや、ちょい待て。今石田さんこの前泊まったって言った?」


 京平が間を割るようにして、話しに入ってくる。


「うん。この前も私の家に泊まったんだ」

「お前らいつの間にそこまでの関係に⁉」


 流石の京平にもそのことには驚いたらしい。まぁ、普通に考えればやばいよな。しかもあの時はまだ付き合っていなかったのだから尚更だ。


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