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68話 通じ合う思い⑤

 それから15分ほどで掲示物の張り替え作業はすべて完了した。こんなに早く終わったのは美月が文化委員でもないのに協力してくれたおかげだ。


「よーし終わったな。じゃあ、二人ともお疲れさん。俺は部活行ってくるから。また明日!」


 それだけ言うと、京平は押しピンが入った箱を抱えてその場から走り去ってしまった。


「そっか、京平は今から部活だもんな。あいつも大変だな」

「うん。藤田君、男バスの1年と2年を纏めているからね。練習メニューとかも考えているし、実際の技術もすごいよ」

「二人ともバスケ上手いんだな。俺なんか運動音痴だからさ、うらやましいよ」


 俺には何か秀でたものはない。特に努力もしてこなかったから当たり前といえば当たり前なのだが、なんだか二人がすごく先にいるような感覚に陥った。


「そしたらさ、今週末にでもバスケ練習してみる? 近くのゲームセンターでできるところあるからさ」


 美月は両手を使って、ボールをシュートするようなそぶりを見せる。


「できるようになるかなぁ」

「いきなり上手くなるのは大変だろうから、まずはバスケのルールとかから覚えていけばいいんじゃないかな。私も身体動かしたいし」


 せっかく部活をやめて美大に向けた勉強を始めた美月の、貴重な休日を奪うのはどうかとも思ったが、本人がそういうのであれば問題ないのだろう。


「分かった。じゃあ今週末行こう」

「うん。楽しみだな~」


 美月は剥がした掲示物を集めながら、目を輝かせてウキウキしていた。

 こうして週末に予定が入った。今までだったら飽き飽きしていた週末に、彩を与えてくれる存在ができた。もう、学校に行くのも憂鬱ではないし、家に帰るのも憂鬱ではない。毎日が、この一秒が全て貴重でかけがえのないものへと変わっていった。


「半分持つよ」


 俺は美月から掲示物を半分貰い、そのまま二人で並んで廊下を歩き、教室へと帰っていった。


 時計は5時半をさしていた。俺たちは教室に戻って、カバンを抱えて学校を後にする。美月が一緒に帰りたいというので、俺は美月が電車に乗る駅まで一緒に歩いていくことにした。


「夕日がきれいだね」


 昇降口でローファーに履き替え、外に出ると、辺り一帯を染め上げるかのような茜色の空が広がっていた。いつも見る景色とは違って、幻想的だった。


「なんか俺さ、最近毎日が充実してるって感じがすごいするんだよな。美月に出会ってから」

「……私も、勇也に出会って色んなこと、もちろんつらいこともあったけど、世界が変わったような気がする。今まで纏っていた余分なものが剥がれていく感じで、本当の私をみんなに見てもらえてる気がする」


 隣を歩いている美月の瞳を覗くと、それはビー玉のようにキラキラと太陽の光を乱反射しているようだった。この茜色の夕日と同じくらい、美月の瞳も幻想的だった。


「美月ってやっぱり、すっごく可愛いよな」


 俺は改めて彼女に対して思いを伝える。


「えっ、急にどうしたの? 流石にそんな面と向かって言われると、私も照れちゃうんだけど……」


 美月の頬は、告白した時のように少しだけ赤みを帯びていた。


「なんか急に言いたくなった」

「何それ。勇也ってたまにおかしなこと言うよね」

「こちとらずっと友達という友達がいなかった人間だからな。仕方ない」

「藤田君がいたじゃん」

「京平は……また何て言うか、友達……なんだけどちょっと違うっていうか」

「?」


 美月は頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。


「京平とはずっと一緒だけど。その、悩み事を話したりとかそんな深い話しとかはあんまりしたことないんだ。それこそ今日があんな話したの初めてくらいで。だから、友達……というのはちょっと違うかなって」

「う~ん、そうなのかな。私は別に友達だからって何でもかんでも話すものではないと思うし、色んな距離感の友達がいてもいいんじゃないかな。少なくとも、藤田君は勇也のこと友達だってこの前言ってたよ」

「京平が?」

「うん」


 それは意外だった。確かに美月の言う通りかもしれない。俺が勝手に”友達”という定義を作ってしまっていただけで、はたから見れば普通の友達なのかもしれない。


 なら、俺の勝手な勘違いをしたまま何十年も京平と接していたことになる。俺はもう少し、人に対して警戒心を解いたほうがいいのかもしれない。


「そうだな。また今度話してみるよ。今日も京平の知らなかったことが一つ知れたしな」

「うん、それがいいよ。私がいなくなったら勇也、また一人になっちゃうんだから」

「えっ、美月どっか行っちゃうの?」

「違う違う。あと何十年も先の話。どっちが先に死ぬかなんて分からないじゃん? もし私が病気とかで死んじゃっても、勇也を傍で支えてくれる人がいてほしいなって。もちろん、私も勇也とずっとずっと一緒に過ごせるように健康で長生きするつもりだよ」

「……そっか」


 俺は10年後のことしか頭になかったが、美月はそれよりもずっと先の未来のことをすでに考えていた。だけど、10年後の壁はどう頑張っても立ちふさがってくる。近いうちにでも、どうにかして未来を変える必要がある。今までなら俺一人だったが、美月もいる。近いうちにでもこのことについて少し相談してみよう。


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