59話 姉として③
友貴の前では”完璧な姉”として振る舞ってきた。
だが、その”完璧な姉”は私から見た時だけで、友貴から見たら違ったのだろう。というよりも、友貴はそんな”完璧な姉”など求めていなかったのだ。私が勘違いしていただけだ。友貴はそんな”完璧な姉”なんかより、ずっと”傍にいてくれる姉”のほうが欲しかったに違いない。私は後悔する。だけど、もう遅かった。そんなことをしている暇などどこにもなかった。もう一度、人生をやり直せるならやり直したい。今度は友貴の傍にいてあげられる姉として。
ほどなくして病室のドアが開く。入ってきたのはずぶ濡れになったお母さんだった。
「友貴!」
血相を変えて、友貴に近づく。友貴はまだ反応してくれた。
「やっと来てくれた……。お母さん……」
わずかに頬が緩む。
「友貴、遅くなってごめんね」
お母さんは友貴の頭を優しくなでる。それがうれしいのか、友貴は先ほどよりも幸せそうに見えた。
「うんうん……最後にお母さんの顔が見れて嬉しいよ……。大好き、お母さん」
「友貴……」
お母さんはさらにぎゅっと、包み込むようにして友貴の頭を抱く。しばらくは、時間が止まったかのようにその時間が続いた。
「俺……幸せだなぁ……みんなに囲まれて……こうして最後まで……」
そこまで言い終えると、少し呼吸を整えて、こう告げた。
「ありがとう。お母さん、お父さん、姉ちゃん、ばあちゃん、じいちゃん……」
優しく微笑んだ口元に涙が伝って落ちていく。肩の力が一気に抜けたようになり、幸せそうに眠っているように見える。
「「友貴!」」
みんなが、友貴の名前を叫んだ。聞こえているのかは分からないけど、それでも必死に叫んだ。
雨がうるさかった。憎いくらい。それはまるで私の心の中を全世界にさらけ出しているようで、なんて憎いんだろう。
ただ、私の叫びをかき消すには雨音のノイズはうってつけだった。
私は泣き叫んだ。涙が枯れて、よくわからない液体が出てくる気がして、のどはぐちゃぐちゃになって、この世のすべてが嫌になって。
6月7日 友貴は眠ってしまった。それは起きることのない、永遠の眠りに。
まだ、中学1年生なのに。




