51話 2人で⑦
「だから夏休み前まで、3年生が引退するまでにはしっかりと決めようかなって思ってる。どっちにするにしてもね」
石田さんは視線をずらし、物憂げな表情で遠くを眺めていた。彼女なりに思うことはたくさんあるのだろう。俺が同じ立場だったとしても、どの方向に進むのが正解なのか、悩んでしまうだろう。
「俺でよかったら相談に乗るから、何か相談したいことあればいつでもメッセージくれると嬉しい」
だからこそ俺が力にならなければいけない。最終的な判断を下すのは彼女自身だ。でも、その過程に至るまではいくらでも相談に乗ることができる。少なくとも、今の俺と石田さんの関係はそれ以上のものだと自負している。
「うん。その時は頼らせてもらうね」
口元がカーブを描くようにしてほほ笑む。俺はこの笑顔が見れるなら、どうなったっていい。そんな風にさえ思えるようになっていた。
「あ、そうだ。せっかくだから何か買ってから入ろうよ。三代君ポップコーンは何味が好き?」
「そうだな……無難に塩かな。石田さんは?」
「私も……塩かな。じゃあちょっと買ってくるね!」
そう言って、売店のほうへと行ってしまった。もしかして俺の分まで買って来てくれるのだろうか。それなら後でお金を渡さなければいけない。
しばらく待っていると、抱きかかえるようにしてポップコーンを持ってこちらにやってきた。
「買ってきた。2人で食べよう」
既に石田さんはポップコーンを一つつまんで食べていた。俺も一つ貰って、口の中に頬りこむ。
「おしいい。石田さん、ありがとな」
館内アナウンスが流れ、入場が開始したことを知らせる。人気作ということもあってか、1番でかいスクリーンでの上映となっていた。
「行こっか」
「あぁ」
ポップコーンは俺が持って、二人で並んで歩いていく。入口でチケットを渡し、入場者特典を受け取る。どうやらイラストが描かれたミニ色紙のようだった。俺は吸血鬼のイラスト、石田さんは主人公のイラストだった。
スクリーンに入ると、薄暗い雰囲気で一気に静まり返る。奥行きのある空間で、その場にいる自分がすごく小さな存在に感じられる。
席は真ん中より少し前の方だ。早めに予約したこともあって、いい席が取れた。俺は自分の席を確認して座ると、石田さんも隣に座った。二人の間の肘掛けにポップコーンを置き、いつでも食べられるようにする。上映まではあと5分ほどあった。なんだか変に緊張してきた。
その理由は思った以上に石田さんが隣に座っているという感覚が大きいからだ。肩と肩の間は100cm未満。横目で見れば、すぐそばに黒くて綺麗な髪が見える。
上映開始までの5分間は体感では倍近くあったような気がする。時間になると照明のボリュームが小さくなっていって、あっという間に闇に包まれる。
最初は広告が長々と流れていた。この地域の広告や、これから公開される映画の宣伝などが流れていた。
俺はその間、30秒おきくらいにポップコーンの箱に手を突っ込み、一つ、また一つと口に入れていった。
広告も終わり、上映中の注意事項を促すCMに入ったとき、ポップコーンを掴もうとした俺の手に何か触れた。何かというのはすぐに分かった。石田さんの手だ。俺は慌てて手を戻し、しばらくの間ポップコーンを食べるのは我慢した。
エンドロールが流れ終わり、辺りが一気に明るくなる。その光に眩しさを感じつつも、俺はゆっくりと石田さんのほうを見る。
「面白かったな」
映画の内容は非常に纏まっていて、誰が見ても分かりやすいものだった。人間の町を襲ってきた吸血鬼を倒そうと、5人の強者が町に集まる。そこでその5人が吸血鬼のアジトに潜入してバトルを繰り広げていくのだが、吸血鬼にも家族がいた。そんな家族を殺してしまった主人公ヒューズは、自責の念に駆られる。彼自身、幼い時に両親を自然災害で失っており、その喪失感が理解できるからだ。そんな彼は一人で吸血鬼のアジトに行き、停戦を持ちかける。だが、そんなお願いなど聞き入れて貰えるはずもなく返り討ちにあう。人間側からも裏切者扱いされて一人監禁されるが、そこで出会った少女ユフィヤはなんと人間と吸血鬼のハーフだった。彼女の願いは今の戦いが終わって、みんなが安心して暮らせる世界になること。そんな願いを背負って、主人公ヒューズはたった一人で人間と吸血鬼に立ち向かっていく。そして最後には主人公の努力もかなって、人間と吸血鬼の共存できる世界が出来上がったのだ。そんなストーリーだった。
「うん。ユフィヤちゃんが人間と吸血鬼のハーフだったってところはびっくりしたね」
「確かに。何か訳アリなんだろうなとは思っていたけど、まさかハーフだったとはな」
俺と石田さんは感想を述べながら余韻に浸っている。辺りは続々と人が流れていき、みんな退場していった。俺たちもほとんど人がいなくなって、シアターを後にした。




