50話 2人で⑥
確かに分かるような気もする。いくら趣味で好きだからと言って、それが仕事につながるとは限らない。趣味で料理するのが好きだからって、料理人になろうと思うのはごく一部の人だろう。それと同じだ。
「まぁ、それもそうだな。でも石田さん容姿端麗だから何着ても似合いそう」
ポロっと口から本音がこぼれてしまった。流石に本人を目の前にして、こんな事言うのは引かれたりしないだろうかと、心配になった。
「容姿端麗って……、四字熟語を日常生活で使う人初めてかも。前もそうだったけど、三代君って面白いよね」
口元を抑えて笑っていた。そんなにおかしかっただろうか。
「忘れてくれ……。じゃあ、石田さんもおすすめしてくれるし、これ買ってみようかな」
「うん。さっきは脚のラインがはっきりするって言ったけど、普通にみんな気にせず履いてるから大丈夫だと思うよ。私は大人っぽく見えて好きだけどね」
そんなことを言われて心臓がドキッとする。あくまでファッションのことを言っているのだが、石田さんの口からその二文字が発せられるだけで、全身の血流が心臓に集まってくるような感覚に陥る。
「うん、じゃあ買ってくるからちょっと待ってて」
俺は逃げるようにして、レジへと向かっていった。
無事に会計を終えた俺は、店の外で待っていた石田さんのもとへと歩いていく。
「映画まであと30分くらいだね。10分前には入れると思うからそろそろ行こっか」
「だな」
昼食を食べたり、ゲーセンで遊んだり、服屋でショッピングをしたりしていると、あっという間に時間が過ぎ去っていった。
映画館のエントランスに到着した。黒をベースにした空間に仕上がっており、映画館に来たんだという気持ちになる。
「チケット発券してくるね」
そう言ってスマホを取り出して、発券機のほうへと歩いていく。俺は辺りを見回すと、丸いテーブルと椅子が空いてることに気付き、そこに向かっていった。
石田さんはすぐに発券機から戻ってきた。そして俺に向かって、手ケットを差し出す。
「これ三代君の分ね」
「ありがとう」
俺はお礼を言って受け取る。チケットには映画のタイトルと今日の日付・時間、そして席番号が書かれていた。確認していないのだが、席は隣同士なのだろうか。いや、それは当たり前か。一緒に来たのに別々に座るとは思えないし、普通に隣だろう。
ということは、俺は映画の上映中、つまり1時間半は石田さんの隣にいるということだ。
「結構人多いね。連休だからみんな見に来るんだね」
「ほかの店も結構多くなってきたからなぁ。そうだ、教室でちょっと聞こえてきたんだけど、石田さん他の日もクラスの女子と遊ぶ約束しているんだろ?」
実際はちょっとどころではない。休み時間ごと変わり替わり女子たちが石田さんに遊ぶ約束をしに来ていた。
「うん。明日は部活が終わった後に山内さんたちと遊びに行く予定だよ」
「山内さんかぁ」
山内さんといえば吹奏楽部に入っており、石田さんと同じようにクラスの人気者だ。今年初めて同じクラスになったが、その名は去年から耳にしていた。何やら彼氏が1カ月おきに変わるらしい。他人の事情なので、あまり口出しはしないが、その性格はどうなのだろうかと思うところはある。俺なんて人生で一度も彼女なんていたことはないし、もし彼女ができたとしたら一生大事にしたいと思う。やっぱりモテる人はそこら辺の価値観から俺たち凡人とは違ってくるのだろうか。
というか待てよ、石田さんは彼氏っているのだろうか。ふと、その時気になった。今まで、いないという前提で物事を進めてきたが、もしかしたらいたりするのだろうか。
いや、それなら休日に俺みたいな男子と遊びに行ったりしないか……? うーん、分からん。噂でもそんなことは聞いたことないから、恐らくはいないのだろうが、なんだかモヤモヤする。
「ん? どうしたの?」
しばらくの間自分の世界に入り浸っていた俺の顔を見て、石田さんが不思議そうに小首をかしげる。
「あ、いや何でもない。やっぱり石田さんって人気者だよなって思って」
「委員長やってるからっていうのもあるのかも。去年はこんなに友達多くなかったから」
「あー確かに。それは大きいな」
学級委員長なんて役割を担う人間は、大抵コミュニケーションに長けており、誰とでも分け隔てなく会話ができる。石田さんと俺が、こうして会話できているように。
「でもあの時の私、結構思い詰めてたからなぁ。友貴のこととか部活のことで一杯になっちゃって。まぁ、部活に関しては今もこれからどうしようか悩んでるんだけどね」
「そういえばやめるか悩んでるって言ってたな。その後はどんな感じなんだ?」
石田さんは友貴君との”夢”をかなえるために、部活をやめて美大に行くための勉強をしたいといっていた。だけど、今の石田さんは女バスの中心的存在で、いきなりそこに穴が開いたら損失が大きいのだろう。だからこそ悩んでいる。石田さんは、自分が抜けることによって生じるデメリットを自覚しているのだ。




