49話 2人で⑤
石田さんがボタンを押すと、3本爪のアームが勢いよく降下していく。そしてなんと、狙ったものの下にあったストラップまで一緒に持ち上げてきた。
「落とすな!」
俺は思わず言葉を発した。
その思いが伝わったのか、そのまま爪が途中で緩むことはなく獲得口まで2つ運んできて落とした。
「よしっ!」
俺は思わずガッツポーズをする。石田さんはしゃがみこんで獲得口の扉を開いて、景品を取り出す。そして2つあるうちの一つを俺に渡してきた。
「これは三代君の分ね」
ほほ笑んだ笑顔は満足そうな表情だった。
「貰っていいのか?」
「うん。二人でお揃いのストラップ持っていれば、いつでも今日のことを思い出せるからね」
「……ありがとうな」
確かにそうだ。このお揃いのストラップを見るたびに、俺は今日、石田さんとこうしてゲーセンで遊んだことやこの後映画を見に行ったことを思い出すだろう。それは何よりも、形に残るものでいいのかもしれない。
「それにしても運がよかったね。こういうのって中々取れないんだけど、きっと三代君が応援してくれたおかげだよ」
「そうかな……」
俺は受け取ったストラップをじっと見つめる。吸血鬼がデフォルメされたものだった。つけようと思えば、カバンにつけられるかもしれない。割と勇気がいりそうだが。
そんなこんなで映画まで残り1時間となっていた。ゲーセンは一通り見た気がするので、この後はどうしようか。
「次はどこ行く?」
石田さんはバッグにストラップと財布を入れながらそういった。
「あと1時間あるからなぁ。どっかで時間潰したいな」
1時間前から映画館で待っているのもいいかもしれないが、ここはショッピングモールだ。他にもいろんなお店がある。特段ここに行きたい、といった場所はないが、石田さんはどこがいいのだろうか。
「石田さんは何か買いたいものとかないの?」
「私? そうだなぁ、しいて言えば服を見てみたいかも。あ、興味ある?」
「んー、確かにファッションはあんまりだけど……。そうだ、良かったら俺一人だとどんなのがいいかわからないから、石田さんが選んでくれないかな。選んでくれたのを、俺が買う、みたいな」
「えっ、いいの! ファッションはクレーンゲームよりは自信あるからね。まかせて!」
石田さんはグッと腕に力を入れて、自信ありますよとポーズを取る。それもそうだ。今日のコーデだって素人の俺が見ても見とれてしまいそうなくらいバランスが取れている。休日に女子と会うことがないので比較はできないが、石田さんのファッションセンスがずれているということはないだろう。
ということで、1階の洋服屋にやってきた。ブランド店ではなく普通の家庭向け店だ。俺が高級品を身にまとっても背伸びしすぎ感があるので、このお店にした。そもそも、そんなブランド物を買うようなお金はない。
「う~ん、イメージとしては何系がいい?」
「何系……とは?」
「さわやかな感じとか、スタイルを良く見せるコーデとか、逆に一昔前の流行とか」
「……さわやか系で頼む」
俺のスタイルを良く見せて一体どうするつもりなのだろうか。読者モデルでも目指すつもりだろうか。
「おっけー。まずはトップスから探そうか」
そう言ってメンズコーナーに向かう。ビジネス服から、カジュアルな普段着まで幅広い種類の服が並んでいた。今は社会人もスーツのところは少ないらしく、オフィスカジュアルなどといった、堅くない服装が流行りだと以前ネットで見かけた気がする。
「これなんかどうかな。今から暑くなってくる季節でも着やすいと思う」
石田さんが手にしたのは、ちょっと地の厚そうなライトブルーの服であった。
「よく陽キャが着てそうなやつだ」
「三代君も似合うと思うよ。サマーニットっていうんだけど、意外と通気性もいいからね。ほら!」
石田さんは手に取り、俺の体に合わせるように上から服を押し付けてくる。上から見てもいまいちわからないので、鏡の前に移動することにした。
「おー確かにちょっとイケてる高校生にレベルアップした感じ」
自分で言っててなんかちょっと悲しくなってきたが、普段着に比べておしゃれ度が増しているのは自明だ。これはぴったりかもしれない。
「よし、じゃあ上はこれでいいかな。あと下は、あれとかどうだ?」
俺は近くに飾ってあったマネキンを見る。そこには黒色のズボンがあった。
「おー、いいところに目を付けたね。あれはスキニーっていって、脚のラインがぴったりわかるようなデザインになってるよ。もしかして読モ狙ってる?」
石田さんは口元を押さえて挑発的な笑みを浮かべた。
「いや、流石に俺が読者モデルは無理があるだろ。何なら石田さんなんかいけるんじゃないか?」
俺は対抗するようにしてそう口ずさんだ。
「う~ん、どうなんだろうね。趣味の範囲ではファッションってすごい楽しいんだけど、お仕事ってなるとまた違うのかなって。まぁ、やってみたことないからわかんないんだけどね」




