46話 2人で②
連休初日
アラームが鳴るよりも早い段階で目覚めていた。こんな日は学校に行く日と違い、スッキリとした目覚めだ。頭の中が冴えわたって、今ならテストで満点を取れるかもしれない。
簡単に朝食を済ませ、支度をして玄関を出る。最寄り駅までしばらくの間歩く。
太陽がじりじりとアスファルトを照り付ける。4月の入学式の時期に比べればずいぶんと夏が近づいてきたと、嫌でも実感させられるような気候であった。
石田さんとの待ち合わせは11時にフードコート。先に昼食を済ませてから13時20分上映の映画を見るといった流れだ。映画は大体1時間半くらいの上映時間だったので、15時には終わることになる。そのあとは何か考えているのだろうか。もし予定がなければ、少しどこかで会話でもしたいな。そんなことを考えていた。
電車に揺られ、ショッピングモール前の駅で降りる。スマホをちらっと見ると10時05分と表示されており、どう考えても予定の時間より早く着きそうだった。ここから歩けば10分もかからないはずだ。スマホでも見て待っていればいいだろう。
駅の人混みの中をかいくぐるようにして歩いていく。連休初日ということもあって、大きなキャリーバッグを引いている人の姿が目立つ。家族連れも多く、目の前では小学生くらいの男の子が早歩きで、目を輝かせながら母親と会話をしていた。
「旅行楽しみ! ねぇ、最初はどこ行くの?」
「まずは遊園地に行くよ~」
「やったー!」
そんな光景を見てほほえましくなった。俺も母さんが生きていた時はあんな風に無邪気にはしゃいでいたんだっけか。なんせ昔のことなので記憶が曖昧だが、きっとそうだったのだろう。
ショッピングモールの入口の自動ドアが開き、中に入る。一気に涼しい風が身体中にまとわりつき、先ほどまで感じていた気だるさも一緒に吹き飛ばしてくれる。
フードコート2階にあるので、エスカレーターで2階に上がる。既にかなりの人の多さで埋め尽くされていたが、空席もちらほら見かけられたので、俺は入口から近いところの席に腰かける。
石田さんに既についているということをメッセージで送ろうかとも思ったが、それだとなんだか催促しているようで、時間通りに来ている石田さんに申し訳ない。
椅子に座り、ふと横を歩いている学生らしき集団が目に入った。その中で俺はどうも、見覚えのある人物を目撃した。
「あれって……」
肩にかかるくらいのボブカットが印象的で、にこやかな笑顔で友達と会話している人物。あの子は確か、女バスの1年の中野千咲さんだ。一度、俺と石田さんが学食で食事をしているときに一緒に話した子だ。となると、他の子たちは女バスの1年か、同じクラスの子たちだろうか。
後者ならまだしも、前者だった場合はちょっと気まずくないだろうか。万が一俺と石田さんが映画館から出てくるところなどを目撃されたら、変な噂が立ちかねない。石田さんも部活で居心地が悪くなるだろう。それだけは避けなければいけないが、今さら別の場所にしようなんて提案はあまりにも無茶すぎるので、会わないことを心から祈っておくしかない。
しばらくスマホでネットサーフィンをしていると、1件のメッセージが来た。石田さんからだ。どうやら駅に着いたらしく、こちらに向かってきているらしい。
フードコートの入口の近くで座ってるよ 三代勇也
10:45
俺はスマホをスリープモードにしてポケットにしまう。このフードコートには入口が3か所あり、どこからでも入れるようになっている。1か所は俺の右前、2か所目は真横、3か所目は後方だ。石田さんは一体どこからやってくるのだろうか。俺はなんだか落ち着きがなく、そわそわとしていた。先日石田さんが家にやってきたときや、俺が石田さんの家に泊まりに行った日とはまた違う感情がある。
ほどなくして前方の方から石田さんがやってきた。髪型や顔で判断することはできたものの、いつもの制服姿とは違い、しっかりおしゃれをしているので一瞬判断に迷いが出た。
上は白のフリルがついたシャツを着ており、下は黒のミニスカートを履いていた。肩からは、以前と同じ黒のバッグをかけていて、普段よりも大人に見えた。大学生と言われてもだれも疑わないだろう。
「石田さん、こっち」
俺は立ち上がって、キョロキョロ辺りを見回している石田さんに向かって手を振る。それに気づいて、少し小走りでこちらに向かってきた。
「ごめん、待った?」
「うんうん、さっき来たばっかりだから大丈夫だよ」
30分前には着いていたが、スマホを見ていたりしたのでそんなに待った感覚はない。むしろあっという間だったというくらいだ。
「三代君お腹は空いてる?」
肩にかけたカバンをおろし、椅子を引いてゆっくりと座る。
「うん、あんまり朝食べてこなかったから結構空いてるかも。石田さんは?」
「私も朝は少なめにしてたからお腹空いたかな。色んなお店があるけどどこで食べる?」
「そうだなぁ」




