45話 2人で①
今日で授業が終わり、明日からはいよいよ待ちに待った大型連休だ。
朝一で先生から呼び出され、体調不良だったということを伝えたが「連絡の一つくらい高校生なんだからちゃんとしろ」と厳しめに怒られた。これに関しては弁明の余地はない。
そしてクラスは朝から浮ついており、ひっきりなしに”遊ぶ約束”が取り交わされているのを何度も耳にした。
俺はそんな集団を高みの見物していた。何といっても、俺には石田さんとの連休初日に遊ぶという約束がある。それだけで十分満たされていたのだ。
当の石田さん本人はクラス中の女子から遊びに誘われており、初日以外もほとんど埋まってしまった様子であった。すごいな、石田さんの人気。改めて、なんで俺みたいな人間が石田さんとここまで深くかかわることができているのか、今でも謎である。
そして現在、全ての授業が終了して放課後になった。俺は学校にいても特にやるべきことはないので、カバンを手にして帰宅すべく席を立ちあがった。
そこで、ふと視線の隅に京平の姿が目に入った。そういえば昨日、京平も心配してか俺に朝一でメッセージを送って来てくれていたのだ。返事こそは簡単にしたものの、何というか、悪いことをしてしまった感があるので、俺は少し近づいて話しかけることにした。
そんな俺の挙動に気付いたのか、京平はこちらのほうを振り向き
「おっ、勇也。体調はどうだ?」
さわやかな笑顔でそう聞いてきた。
「いや、まぁ、大丈夫だ」
俺は歯切れの悪い返事をする。先生にこそ体調不良と言わざるを得なかったが、京平にまでうそをつくのはどうなのだろうかと思ってしまった。
「あ、マジで体調悪かったん? すまん、昨日石田さんに聞かれた時にサボりだと思うって答えちゃったわ」
「いや、実際サボりだから構わないんだが……」
「やっぱりか。勇也が風邪ひいたのって小学生の時しか見たことなかったから、たぶんサボりだろうなって」
「いや、学校をさぼったの初めてなんだが、そっちのほうは疑わなかったのかよ」
俺は思わず笑いがこぼれた。確かに昨日、石田さんが京平から聞いたとは言っていたが、本当にサボりだと思っていたのか。なんだか、嬉しいような嬉しくないような複雑な気分だ。
「それで勇也、石田さんとはどんな感じなんだ?」
京平がチラリと石田さんが席にいないことを確認して俺に向かって尋ねてくる。
「どうって、別に何もねぇよ」
「そんなことないだろ。石田さんなんか昨日、心配して自分からプリントを届けに行くって言い出して、部活まで休んでたんだから」
「えっ、そうなのか。昨日バスケは休みって聞いてたけど」
「そんなわけないだろ。練習は連休だって先生が来れない初日以外は全部あるんだ」
「初日……」
初日、つまり明日といえば俺と石田さんが遊ぶ約束をした日である。それ以外にも連休は他の女子たちと遊ぶ約束をしていたように聞こえたが、一体どれだけのハードスケジュールを組んでいるのだろうか。
「それで、連休は石田さんとデートしないのか?」
「で……デート!?」
「あぁ。付き合ってるなら連休にデート行くくらい普通じゃね?」
「いやいや、そもそも俺と石田さんは付き合ってなんかないし……」
俺は語尾を濁すようにして言う。
「……勇也。恋愛の自称先輩からいいことを教えてあげよう」
京平はコホンと一つ咳ばらいをしてこう続けた。
「はっきり言おう、勇也はちょっと鈍感すぎる。あんなに人気の石田さんがお前のことを心配したりしてくれているんだ。そのことをしっかりと胸に刻んでおけよ!」
そのまま拳をグッと俺の胸に押し付ける。
確かに石田さんはクラスの人気者で、俺と京平のように石田さんと俺も対局の存在なのだ。そんな彼女が、俺のためにプリントを届けたり、休日に時間を作って遊びに行ってくれたりしている。そんな彼女と過ごす時間は俺にとってかけがえのない、”非日常”へとなっていった。
「そんなことあるのかねぇ……」
俺はごまかすようにして、話題を途切れさせる。
「いつか石田さんも、今のままだと勇也に愛想つかしちまうかもな」
「うるさい。まぁ、あれだ、昨日は心配してくれてありがとな。じゃあ」
「おう。頑張れよ!」
このままここにいるのは居心地が悪かったため、俺は早々に切り上げてその場を立ち去った。目標であったお礼もそれとなく言えたし、まぁ及第点だろう。
教室から出ようとしたところで、どこからか戻ってきた石田さんとばったり会う。つい今の今まで石田さんについての会話をしていたため、普段よりも意識してしまった。
「あっ……明日は楽しみだな」
心臓の鼓動が一層早まる。あまりにも大きすぎて、石田さんに聞こえてしまわないか心配になる。
「うん、そうだね。今夜は楽しみで寝れないかも」
ニッと冗談交じりに笑ったその笑顔が、今の俺にとっては毒だった。
「それじゃあ、また明日」
「うん、また明日」
これ以上の会話はどうにかなってしまいそうで、俺は挨拶をして教室から出ていった。
自分でもこの感情を認めてしまうのが怖かった。だって、こんな感情を持ったところで何も意味はないから。いつの日かなくなってしまう日がきっとやってくるから。




