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42話 石田さんという存在⑨

 俺は石田さんの隣に腰を下ろし、パソコンを起動した。そしてインターネットブラウザを立ち上げる。


「この前は動物園とカフェだったから、今回は別の方向性で探してみようか」

「そうだな。石田さんの行きたいところはどこかある?」

「私は今回はいいよ。前回満足だったし。今回は三代君の行きたいところに私も行きたいな」


 ほのかに香る、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。揺れる黒い髪が視界に入ることも相まって、鼓動をさらに早めていた。


「中々見つからないんだよなぁ。別の方向性っていうと例えば?」

「そうだねぇ。動物園は屋外だったから今回は屋内で楽しめる施設がいいんじゃないかな」

「映画館とか?」

「いいね。映画館にしよっか。今見たい映画とかある?」


 石田さんは俺の顔を覗き込むようにしてこちらを見てきた。ネットではデート(仮)場所としては不適切と書いてあったのだが、案外当てにならないものだ。というか、デートではないからかもしれない。いや、たぶんそれが正解だ。


「そもそも今何やってるんだろ」


 俺はカチャカチャとキーボードで文字を入力していって、現在上映されている映画の一覧が掲載されているサイトを見つける。


「普段はどんなジャンルみてる? バトルもの? 恋愛もの? それともホラーとか?」

「昔はよくバトル系のアニメとかは見てたかな」

「バトルものかぁ……。昔、友貴が見たいって言って一緒に行った記憶があるなぁ」


 石田さんは天井を見上げるようにして物思いにふける。友貴君との思い出が、最近のように鮮明に思い出されるのだろう。


「あ、人気のバトルマンガの映画やってるな」


 俺は現在上映している映画一覧の中から、耳にしたことあるタイトルを見つけた。


「私も知ってる! 吸血鬼が出てくる奴だよね!」


 そう言って、それまで人一人分空いていた俺と石田さんの間の距離がゼロになるほど近づいてきた。俺は一瞬息を止める。だが、石田さん本人は特に意識しているわけでもなさそうなので、俺もあくまで自然体を装って会話を続ける。


「マンガ読んでるの?」

「読んではいないけど、広告とかで何回か見たことあって面白そうだなって」

「……じゃあこれにしよっか」

「うん。決まりだね」


 そう言って石田さんはポケットからスマホを取り出し、何やら文字を入力していく。


「行く日は連休の初日でいい?」

「うん。いつでも暇だから大丈夫」

「オッケー。朝と昼、あと夜でお好みの時間はある?」

「そうだなぁ……」


 せっかくの休日にあんまり朝が早いのもあれだろう。かといって夜遅くなると、石田さんの帰りが心配だ。ならば選択肢は一つしかない。


「じゃあ昼くらいで」

「了解。あ、13時20分の回があるからこれにしよっか。予約しとくね」

「お、おう。頼んだ。お金は今渡しとくな」


 財布を持ってこようと立ち上がろうとしたとき、


「お金は当日で大丈夫だよ」


 と、断られてしまった。


「分かった。当日渡すな」

「うん。それと、この映画館、ショッピングモールの中にあるから、先にお昼ご飯食べてから見に行こうか」

「……そうだな」


 正直、石田さんの手際の良さに呆気に取られていた。どうやらもう予約も完了したみたいで、何というか段取りが非常にスムーズだ。委員会決めであんなに効率よく回せたのも納得ができる。

 そんな石田さんをじっと見つめていたのが視線で気づいたのか、不思議そうにこちらを見ていた。


「ん、どうかした?」

「あ、いや、何でもないんだ。石田さんってすっごい手際いいなって思って」

「そう?」

「うん。正直びっくりするくらい」

「普段からスマホずっと触ってるからかな?」


 当の本人はあまり自覚がないらしい。これが俗にいう”天才”というものなのかもしれない。


 気が付けば、夕日が沈んでいた。石田さんがこの部屋にやってきた時点で結構な時間だったのに、もう夜といっても差支えない時間だ。


「もうこんな時間だな。石田さんはどうする?」


 心の奥では、早く帰らないと危ないと思うので、そろそろ帰ってほしいのだが、上手くそれを口で伝えることができないので、遠回しに聞いてみる。


「ほんとだ。う~ん、そうだね。もし三代君が迷惑じゃなかったら夕ごはん食べていってもいいかな」

「えっ、それは構わないけど、俺、あんまり大したもの作れないぞ……」


 いつも一人でご飯は食べる。なので、冷凍食品が中心になっているのだ。


「私が作るから大丈夫だよ。それに三代君は今日、体調が悪いって設定でしょ」

「設定って……。でもそこまでしてもらうのは流石に悪いよ」


 そんな頑なに断ろうとしている俺を見かねてか、石田さんはコホンとわざとらしい咳ばらいをしてこう言った。


「私、学級委員長だから、学校をズル休みしている人がいたら先生に報告しないといけないんだよね」


 チラリと、上目づかいで俺の顔を覗いてくる。


「分かった。分かったよ。流石に委員長にバレるわけにはいかないからな」


 そこまで言われてしまっては、流石の俺も断ることはできない。というか、今日の石田さんはなんだかノリがいい気がする。


「よろしい。じゃあ三代君はここで待ってて」


 “ふん”と鼻を鳴らして、1階に降りていった。


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