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38話 石田さんという存在⑤

「そうだなぁ」


 どこでもいい、そういわれても中々答えは出てこなかった。


「まだ週末まで時間があるからそれまでに考えてくれたら大丈夫だよ。楽しみにしてるね」


 ニコッとほほ笑んだ彼女の笑顔は、いつもと変わらず俺には眩しかった。今日が月曜なので、確かに週末まではまだ時間はある。かといって時間をかければ出てくるようなものでもない。


「分かった。考えてみる」


 手の甲を顎の下に当てて考えるが、やはり思いつきそうにない。だが、せっかく石田さんが誘ってくれたのだ。せっかくの機会を台無しにするのはよろしくない。


 昼食を食べ終わっていつも通り、時間差で教室に入る。京平にもあんな風に言われているのだから、もはや意味はないかもしれないのだが石田さんに迷惑をかけるわけにはいかない。少しでも効果があるなら実行するほかないだろう。


 午後の授業はずっと週末のことを考えていた。帰ったら取り敢えずいい感じのカフェでも調べてみようか、そんなことを思っていた。

 放課後は石田さんも部活があるということで、早々に別れた。俺も自宅へ帰り、部屋着に着替えてベッドにダイブする。今日は色々と脳みそを使った。ポケットからスマホを取り出して、近所のおススメカフェ紹介ブログを読んでみる。

 1か所くらいは興味を惹かれるようなお店があるかと思っていたが、どこもパッとしない。何というか、紹介した当の本人が乗り気でないのに、それに付き合わせるのも申し訳ない気持ちになる。


「やっぱこういうのは柄じゃないよなぁ」


 ぼそっと、誰もいない空間で一人、つぶやく。

 なら映画館はどうだろうかと思い、色々と調べてみるとデートスポットとしてはあまりおススメできないとの記事が多かった。映画を見ている間は会話ができないし、そもそも見たい映画が二人でそろっているとも限らないからだ。いや、そもそもデートではない。何を勘違いしているのだろうか。


 頭を悩ませていると、階段をドンドンと振動させて登ってくる足音が聞こえてきた。俺は反射的に体を起こし、スマホを置いてベッドの上に座る。ガチャリとノックもせずに開けられた扉から、親父の顔が覗いた。


「勇也、帰っていたのか」


 その表情は不気味なほど、笑顔に包まれていた。正直気持ち悪いくらいだ。


「さっきね。どうかした?」


 親父が俺の部屋に来るなんてことは滅多にない。ここ1年を振り返ってみても1回あったかなかったかくらいだ。なのでよほどのことだというのは、この段階で予想できた。


「以前から友達と連絡をしててな、少し遊ばないかと誘われたんだ」


 親父は扉の柱に肘を押し付け、体重を傾けながら話す。


「1ヶ月ぐらいになるかな。明日から少し遊びに行ってくるから」


 それだけ言うと、親父は背中を見せて階段を大きな音を立てて歩いていってしまった。

 正直理解できなかった、というか理解したくなかった。1ヶ月も遊びに行くということは仕事はどうするのだろうか。そもそもそんなに家を空けて、子供を一人にしておいて何も思うところはないのだろうか。時間がたつごとに、怒りが腹の底からふつふつと湧き上がってきた。


 何もこの人に対する感情がこなってしまったのは、今に始まったことではない。あの時、いや、正確にはあの時から少し時間が経ってからだ。

 母さんが事故でなくなってしまってから、俺たち家族はバラバラになった。親父は酒かギャンブル、兄はそんな親父を見捨てて一人家を出ていった。俺もそれから家族と距離を置くことにした。というか、自然と距離ができていった。

 なので今更何と言われようがどんな感情も湧いて来ないはずだった。

 しかしどうだろうか。

 扉を見つけたあの日、また心を許そうとしていた。

 そして今日、また捨てたはずの感情が湧き上がってきていた。


 結局俺はあの時と変わっていないのではないだろうか。


 確かに学校では友達を作らず一人、孤独に生きてきた。というか、人間関係を作ることをやめた。あの二人を除いては。


 そう、俺は今まで自分から他人を嫌っていたのではなく、怖かったのだ。

 人と築いた人間関係が壊れるのが怖くて、一歩を踏み出せていなかった。

 ただ、それだけのことだった。

 にもかかわらず、自分は特別なんだ、他人とは違うんだ、と思い込んでいた自分がばからしくなる。全然そんな事なかったのだ。


 それがわかった瞬間、身体から力が抜けていくような感覚に苛まれる。

 再びベッドに体重を預けて、ゴロリと横になる。

 スマホをチラリと覗くと、通知が一件来ていた。名前は石田美月と書かれていた。

 だが、今の俺にそのメッセージを見る気力などどこにもなかった。

 そのままスマホを放り投げて目を瞑る。暗い場所が心地よかった。何も見えなくなって、このまま一生光が当たらない場所で生きていきたい。

 次の日、何もする活力がわいてこなかった俺は、初めて学校をサボった。


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