37話 石田さんという存在④
2週間が経った。俺は石田さんと毎日昼食を食べたり、放課後に少し話しをしたりした。あれからは扉については何も進展はなにもない。俺の中で迷いが生じているからだ。あの扉を開けば未来を変えられるかもしれない。でも、それと同時に俺が犯罪者になるという事実を突きつけられている気がした。それに何も急いで未来を変える必要はない。ゆっくりとこちらで作戦を考えてからでも遅くはないのだ。
そして明日からは大型連休が始まる。そしてそれが終われば2年生になって初めての定期テストが実施される。だが、そんな先の予定は今の俺の脳内にはなかった。なぜかというと、連休にまたも石田さんと遊びに行くことになったのだ。
去年までの俺だったら、連休だろうが普通の土日だろうが基本的にはネカフェか家でゴロゴロ過ごしていたのであまり意識しなかったが、こんなに心躍る連休前は初めてかもしれない。午前の授業がもうすぐ終わろうとしているが、ほとんど上の空もいいところだ。まぁ、今日は明日からの連休に向けて宿題が配られたりと、授業はあまり進まなかったのでいいのだが。
そして授業終了のチャイムが教室に鳴り響く。挨拶をして、午前の授業が終わった。連休前ということもあって、クラスの雰囲気もどこかいつもより緩んでいた。休み時間のお喋りはいつもより多く、笑い声にあふれている気がする。
俺は席を立ち、石田さんよりも先に食堂に行こうとした。相変わらず彼女の周りには人だかりができており、人気者だ。休み時間のたびに話しかけてくる女子もいる。そんな状況がなんだか誇らしかった。そして同時に少し寂しくもあった。何故だろう。自分のことでもないのに、こんなに感情が揺れ動くのは。
そのまま教室を出ようとしたところ、目の前に人影が現れる。
「よう、勇也!」
京平であった。あの事件があって以降、俺は意図的に京平を避けて通るようになった。相変わらず話しかけられないと会話はしないのだが、それすら避けているような気もする。
「そういえばちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
そう、話しを振られてなぜか心がざわついた。あれはあくまで10年後の出来事だ。この時代の京平が知っていることもないし、何も関係ない。
「勇也って、石田さんと付き合ってるの?」
「……は?」
一呼吸おいて、間抜けな返事が出た。なんだか最近同じような質問をされることが異常に多い。この前もそうだ、学食でご飯を食べているときに後輩の中野さんから聞かれたり、石田さんの家に泊まった時もお母さんから聞かれた。まぁ、校舎に関しては疑われても仕方がないといえばそうなるが。
「だってさ。昼休みも一緒にご飯食べてるし、放課後も話ししたりしてるじゃん? だから付き合ってるのかなって」
「いやいや、なんでそうなるんだよ」
みんな恋愛だのなんだの、そんな話ばっかりだ。高校生はみんなこうなのだろうか。俺だけが異常なのか?
「えっ、違うのか?」
京平は驚いたように目を丸くする。
「いや、石田さんとは単純に友達ってだけで。深い意味はない……と思う」
「そうだったのか。あんなに仲良かったからてっきりもう家とか遊びいってるのかと思ってたわ」
「……」
そこだけは否定ができなかった。事実なのは間違いないから。しかもお泊りまでしてしまった。この関係を”友達”で済ませるには少し無理があるのかもしれない。
「まぁ、何か進展あったら俺に教えてくれよ」
「何もないとは思うけどな」
それだけ告げると、俺はその場を逃げるようにして立ち去る。どうにも居心地が悪かった。
学食にて
いつものように席に座って、目の前に財布を置いて場所取りをする。すると、ほどなくして石田さんが歩いてやってきた。
「今日も女子いっぱい来てたな」
「さすがにちょっと毎日は疲れるね。みんなお喋り好きすぎて全然放してもらえなかった」
椅子を引いて、スカートを押さえながらゆっくりと座る。前に落ちている髪を耳に掛けるしぐさが、何とも魅惑的だ。
「そういえば、三代君こそ珍しく藤田君と話してなかった?」
「ん、あぁ。少しだけな」
もしかしてあの会話聞かれてたりしたのか⁉
「何の話? 仲いいってのは知ってたけど、珍しいね」
「いや、ちょっと男同士の話というか。まぁ大したことじゃないよ」
もちろん会話の内容を素直に伝えるはずもなく、ごまかしながら話した。
「ふぅん。私だけ仲間外れ?」
珍しく頬を膨らませて、意地悪に口を開く。
「そんなことはないって。それより石田さん、今週はどこ行くの?」
これ以上追及されるのはめんどいと思い、話題をずらす。
「この前私の行きたいところに行ったから、今回は三代君の行きたいところに付いていってみたいな」
「え、俺の行きたいところ?」
「うん。どこでもいいよ」
これは困った。俺は石田さんみたいにおしゃれなカフェも知らないし、みんな大好きカラオケなんて行ったら、俺の音痴すぎる歌声に石田さんが気分を悪くしてしまうかもしれない。




