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36話 石田さんという存在③

「流れでさそっちゃたけど、大丈夫だった?」

「あぁ、別に大丈夫かな。いい子そうだし」


 話しを聞いた限りだと、ちょっと真面目すぎる気もするが、悪意とかは全くないのだろう。

 そしてほどなくして、お盆にうどんを載せてこちらに戻ってきた。


「中野さんうどんだけで足りる?」

「はい。私結構食が細いんで、これだけ食べるとお腹いっぱいになりますね」


 定食を食べている俺たちとは量が見るからに少なかった。


「そういえばさっきも気になってたんですけど、お二人って付き合ってるんですか?」

「⁉」


 死角から弓矢が飛んできたかのような衝撃で、俺は口に運んでいた白米を喉に詰まらせかけた。


「いきなりなんで……?」


 俺は恐る恐る聞き返す。何だろうか、女子って男子といるだけで付き合ってると勘違いしてしまうほど、想像力豊かなのだろうか。


「いや、定食も同じハンバーグ定食ですし、さっきから仲良く話しているのが聞こえたもので」


 いや、鋭い。他人に対して鈍感すぎる俺とは正反対だ。そんなところまで普通見るのだろうか。ここまでくると、やはり食堂でご飯を食べるというのは少し難しくなってきたのではないだろうか。


「いや、俺と石田さんは別に……」


 石田さんが中野さんの質問に対して何も答えないので、俺が渋るようにして返事をする。


「別に……何ですか?」


 真っすぐな瞳がこちらをじっと見つめていた。俺は慌てて視線を逸らす。そのまま見つめ続ければ、恐らく彼女の思う壺になってしまいそうだったからだ。


「別に、何でもない」


 キッパリと答える。いろんな意味を含みながら。


「まぁ、美月先輩があなたみたいな平均男子と付き合うとは到底思えないので。美月先輩、それで話なんですけど……」


 えぇ……何その態度。それに平均男子って言葉初めて聞いたんだけど。石田さんから聞いていた話しで最初に抱いたイメージともしかしたら同じなのかもしれない。真面目なんだけど、めんどくさいというやつだ。ちょっと人を見下すというか、小ばかにしたような態度。だけど、なぜか心底嫌うということはできない不思議な性格をしている。


「うん、そうだね。それなら……」


 何やら石田さんに聞きたいことがあるらしく、その後は長々と二人で会話をしていたが俺の耳にはあまり残っていかなかった。



「ありがとうございました。また放課後の部活で」


 ぺこりと石田さんと俺にそれぞれお辞儀をしてお盆を抱えてトコトコと歩いて行ってしまった。一体何だったのだろうか。


「なんかすごい疲れた」


 ふぅ、とため息をついてイスに深く腰掛ける。


「中野さん、今度の試合に1年生代表でもう出るらしいんだよね。だから、アドバイスが聞きたかったみたい」

「そうだったのか。1年生なのにすごいな……。普通そういうのって2年生とか年上の人が優先されるものじゃないのか?」

「まぁ、基本はそうだね。だけど、中野さんは本当にバスケの才能があるんだ」

「そうなんだ。期待されているんだな」

「うん。みんなが口をそろえて今年は全国大会に出れるって言ってね。気が早い気もするけど」


 中野さんの話をする石田さんはどこか嬉しそうだった。俺は部活をしているときの石田さんを知らない。そんな子の女の顔を知っている中野さんがどこかうらやましく感じてしまった。


「あ、そろそろ昼休みが終わるね。教室もどろっか」


 時計を見てみればもう、午後の授業開始10分前であった。


「じゃあ先に石田さん戻ってていいよ。俺はあとから教室に入るから」


 先ほどの出来事を考えても、やはり学校内で二人きりでいるというのは周りの目がごまかせない。なので、教室に戻るときも、一緒に戻ってしまえば必ず怪しまれてしまう。だから、時間をずらせて別々に入るのが得策といえるだろう。


「え、何で? 一緒に行けばよくない?」


 そんな俺の提案に対して、石田さんは首をかしげる。


「いやいや、さっきだってそうだったじゃん。あんまり二人でいるとこ見られたら誤解されちゃうから」

「……」


 そんな俺の返事に対して、石田さんは沈黙を重ねた。え、何か変なことを言ってしまっただろうか。そんな焦りがあふれだしてくる中で、ようやく口を開いてくれた。


「分かった。じゃあ、先に戻ってるから」

「おう」


 振り返ると黒い髪がふわっと揺れる。その時に見えた横顔はどうも、笑顔とはいいがたい表情だった。何か思いつめているような、そんな余裕のない表情にも見えた。全て俺の考えすぎかもしれないが。


 そして提案通り、俺は3分ほど遅れて席を立ち、教室へと向かっていった。

 既に石田さんは着席しており、相変わらず周りには女子が集まっており、笑顔で会話をしていた。先ほどまでの硬い表情が、まるで嘘のようだった。


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