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34話 石田さんという存在①

 午前中の授業が全て終わり、昼休みに入った。朝こそ挨拶をしたものの、俺みたいな人間が何度も石田さんと話していると、石田さんに迷惑が掛かってしまうかもしれない。そう思って、極力メッセージでのやり取りをするようにしている。石田さんは休み時間のたびに女子が集まってきており、正直隣の席なので居心地が悪い。京平ともいつも話すような仲でもないし、10年後の未来であんなことがあったので、あまり積極的に会話しようとは思わない。なので、必然的に俺の居場所は自分の机ということになる。

 あの扉での一件がなければ、そもそも石田さんと話す機会はほとんどなかっただろう。たまにある授業で隣の人や班で話し合って意見をまとめなさい、といったような時に話すくらいだろう。あの扉が、俺の、そして石田さんの運命を変えたといっても過言ではないような気がする。


 食堂で待ってる。 三代勇也

 12:51


 授業終了のチャイムとともに、俺はメッセージを送信する。正直に言えば食堂もまだクラスメイトに見つかっていないだけで、いつばれてもおかしくはない。俺的にはもっと校舎の裏とかでいい気もするのだが、石田さん自身何も思っていないようなのであまり言わないようにしている。

 返信は来なかったが、それは見ての通り分かりきったことだ。周りに既に女子が集まっており、スマホで返信なんてできるはずがない。そんなの分かりきったうえで、俺はメッセージを送った。


 階段を下りて食堂に向かうと既に行列が出来上がっていた。4時間目の授業を途中で抜け出してきているんじゃないかと思いたくなるほど、その列は長かった。

 俺は端の適当な場所に席を取る。前回は隣の席を確保していたが「普通は目の前の席を確保しておくものじゃない?」と指摘を受けた。なので同じ轍は踏まないように、今日は目の前の席に財布を置いて確保しておく。


 しかし、5分待ったが石田さんはまだ現れない。メッセージを見ても、既読がついておらず、送信した時のままの状態であった。流石にこうも時間が空いてしまうと分かっていても不安になってしまう。十中八九あの女子集団の波から中々抜け出せないのが原因だとは思うのだが。

 そんな時、スマホに1件の通知が来た。石田さんからだ。「今向かってる」とだけの簡素な文章だったが、それを見ただけで心配していた心臓の鼓動がゆっくりと静まっていくのを感じる。


 5分もしないうちに石田さんは食堂まで来た。息を切らしながら来たので、恐らくは知ってきてくれたのだろう。


「あの女子の集団すごかったな。よく断れたな……」

「も~ホントに大変だったの。お昼ご飯一緒にだべようって誘いだったんだけどさ、私三代君と食べる約束してるじゃん。だから用事があるって断ったのに、一緒に行くとか、もしかして彼氏?とか、何かすんごい疲れた」

「それは……大変だったな」


 こんなに不満を漏らす石田さんを見たのは初めてだった。というよりも気疲れしていた。それほど断るのが大変だったのだろう。


「もし石田さんが女子と食べたいなら、今度から俺は一人で食べるから大丈夫だよ」


 俺と昼ご飯を食べないといけないがために石田さんはこんな苦労をしているのだ。であれば、その負担を少しでも軽減させてあげなければいけないのではないだろうか。


「いやいや、全然大丈夫だよ。むしろ私が誘っているんだから。三代君は気にしないで」


 スカートを抑えながらゆっくりと椅子に座る。こんなに息が上がっているときでも一つ一つの所作が美しかった。


「それならいいんだけど……」


 本人がそういうのであれば俺が無理してまでいう必要はない。


「早速買いに行こ。三代君、今日は何の気分?」


 さっき座ったにもかかわらず、すぐに椅子から立ち上がった。俺もつられて立ち上がりながら考える。


「今日は定食が食べたい気分だな。ハンバーグ定食とかがあれば尚更」

「いいね。私も同じのにしようかな」


 定食のコーナーは人であふれかえっていた。ここの食堂は麺類やカレー以外は基本的に毎日いろんな種類の料理が並べられており、その中から好きなものを取っていくといった形式だ。幸運なことにも、先ほど話をしていたハンバーグ定食が置かれているのを見つける。それも二つ。俺は手前のを一つ取って石田さんに渡す。


「ありがとう」


 両手で受け取って、おぼんに乗せた。俺ももう一つを手に取ってお盆に乗せる。

 後は汁物とお椀にたっぷりよそわれた白米を乗せてレジまでもっていく。これで500円しないくらいなので、学食は本当にコスパがよい。普通のファミレスで食べれば、量こそ違うものの、1000円弱くらいはするだろう。

 俺のほうが早く会計を済ませたので、席に座って待っている。ほどなくして石田さんもお盆を抱えて持ってくる。石田さんが持つと、お盆がどうしても大きく見えてしまう。


「お揃いだね」


 いたずらっぽく笑うその表情に、俺の心は鼓動を速めていた。


「じゃあ食べようか。いただきます」

「いただきます」



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