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33話 いつもと違う一日

 その日はそのあと駅で別れることにした。道中も特に会話はなく、どんよりとした空気が二人の間には流れていた。そのまま自宅につき、部屋に入るとなんだか急に寂しくなってしまった。

 そんなこともあって、スマホから適当な音楽を流してみた。程よいテンポがなんだか身を委ねるにはちょうど良かった。宿題はすでに終わっていたので、後は明日学校が始まるまでは何をしてても怒られない。元より、宿題をしなくて怒る人はこの家にはいないのだが。

 窓から差し込んでくる西日が眩しかった。今まで俺が住んでいた世界とは全く別物の世界を今日は見せられた気がした。”違う世界”というよりも、俺の住んでいた世界の小ささを改めて実感した。そのせいか何もやる気が起きない。このままぼうっとベッドで朝まで眠っていてもいいのだが、流石に風呂とご飯くらいは食べないといけない。しかし、今すぐそれをしようという気には到底なれなかった。


「石田さんにメッセージ送ろうかな……」


 動物園に行って、そのあとカフェで昼食を食べた。ここまでは何も問題はなかった。あの、友貴君のお見舞いに行ってから歯車が狂ってしまった気がする。そもそもお見舞いに行こうと提案したのは俺の方だ。もしかしたらあの後も他に行きたいところがあったのかもしれない。というか、確実にあっただろう。それを台無しにしてしまったのはまぎれもなく俺の責任だ。そのことに関しては謝っておいたほうが良いだろう。


 今日は急にお見舞いに行きたいなんて言い出して迷惑かけて申し訳なかった。 三代勇也

 16:20


 しばらくメッセージの画面を開いたまま眺めていたが、既読がつくことはなかった。

 もし明日の朝になっても返事が来なければ、学校で直接謝るしかない。


 しかし、そんな考えは杞憂に終わった。10分もたてば通知音が鳴り、メッセージが来たことを知らせる。


 うんうん。むしろこっちこそ友貴が迷惑かけちゃってごめんね。


 どうやらそこまで気にしている様子はなさそうだった。そしてその文章にまだ続きがあることに気付く。


 それと明日、昼休みにまた一緒にご飯食べない? 石田美月

 16:32


 その文章を読んだ瞬間、今までの疲れがすべて吹き飛んでいったかのような解放感で満たされる。彼女と会話している時間は不思議と時間の流れが速く感じた。これは恐らく”楽しい”ということなのだろう。まだ出会って数日しか経っていないが、日数以上の友情を深めることができている気がする。石田さんのほうがどう思っているかは分からないが、このように昼食の誘いをしてくるくらいだから悪い気はしないはずだ。


 もちろん。喜んで。 三代勇也

 16:33


 俺は何もためらうことなく、返信をした。

 その日は歩き疲れもあって、早めに寝ることにした。日曜の夜はいつも気分が乗らなかった。学校が嫌だとか言うわけではなく、特に、なに変わらぬ日常に飽き飽きしていたからだ。

 だが、今夜は違う。明日はやるべきことがある。石田さんと昼食を食べることだ。そんな小さな目的があるかないかだけで、人生は大きく変わる。大げさのようだが、実際気持ちの変化を辿れば大げさとは言えないだろう。

 部屋の電気を消して、布団にくるまる。夜は昼間のようなまとわりつくような蒸し暑さと打って変わって心地の良い夜風が吹いていた。肌を撫でる風が優しい。

 そんなことを考えていると、いつの間にか夢の世界に降り立っていた。深い眠りについた。


 翌朝

 小鳥のさえずりが遠くから聞こえ、目を覚ます。今日は珍しく、目覚まし時計よりも早く起きてしまった。朝は一般的な人より弱い傾向にあるのだが、この日は起きた瞬間から頭の中がスッキリとしていた。

 簡単に朝食を済ませ、身支度を済ませた俺は親父に一言「行ってくる」とだけ伝えて家を後にする。その挨拶に対してもちろん返事は何もなかった。でも前みたいにそんなことで一喜一憂することはなくなった。


 学校に着き、ローファーからスリッパへと履き替えて、階段を上る。いつもは足取りが重い階段も今日はなんだか背中に翼が生えたかのように軽かった。理由は言うまでもない。

 歩いていく廊下の窓から見える景色が新鮮に感じる。いつも見ている代り映えのない景色のはずなのに、なぜか今日だけ引き寄せられるくらい魅力的だった。

 教室の前までやってきて、ゆっくりと扉をスライドさせる。視線が一瞬だけ集まるが、すぐさまその視線は分散される。俺は自分の席まで歩いていき、すでに登校して着席している石田さんに向かって一言、挨拶をする。


「おはよう、石田さん」


 一瞬、彼女の表情が驚いたようになるがそれは本当に一瞬だけで、口元からは笑みがこぼれていた。


「おはよう。三代君」


 黒い瞳と濡羽色の髪が相まって、全て漆黒の世界に連れて行かれるかのような幻覚を起こしてしまうほど魅力的だった。彼女の笑っている笑顔を見ていると、こちらまでうれしくなってしまう。こうして今日も一日、学校が始まった。


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