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32話 心を開くには

「ここだね」


 足が止まったのは412号室。廊下の一番奥から2番目の部屋だ。目の前には外の景色を見渡せる窓があり、遠くの連峰まで見渡すことができた。


「どうしようか。最初はここで待ってたほうがいい?」


 今になって少し不安になってきた。さっきまでの威勢はどこかに消え去り、そんなことを言い出してしまった。


「最初から入っても大丈夫だよ。行こう」


 なんだか石田さんのほうが前向きに見えてきた。ゴクンとつばを飲み込む。鼻から息を吸って、口からゆっくりと吐き出す。そうして目の前の扉がゆっくりとスライドされた。


 中は思っていたよりも広かった。中央にベッドが一つ置いてあり、手前には水道やロッカー冷蔵庫などが置かれている。ベッドの周りにはカーテンが張られており、中の様子を伺うことはできない。俺たちはゆっくりと歩き、ベッドの枕元に進む。


「友貴、お見舞いに来たよ」


 石田さんはゆっくりとカーテンを開く。すると、そこには横を向いてぐっすりと眠っている友貴君の姿があった。


「寝てるみたい」


 そう言いながら、石田さんは壁に掛けてあったパイプ椅子を2人分開いて座る。俺も促されるままパイプ椅子に座ると、ギシっと音がした。

 その音に反応して友貴君がゴロリと寝返りをうつ。閉じた瞼がゆっくりと開き、こちらのほうを見る。最初は半開きだった瞼が、一瞬にして開く。


「え、姉ちゃん、この人だれ?」


 友貴君は驚いて、上半身を起こす。本当にこうしてみると病人には思えないほど、活気があふれており、普通の中学生に見える。


「えっとね。この人は三代君。三代勇也君、私と同じクラスなんだ」


 紹介された俺は自分でも挨拶をしておかなければいけないと思い、改まって挨拶をする。


「急に押しかけてごめんね。俺は石田さんと同じクラスの三代勇也っていうんだ。よろしくね」


 俺は普段年下と話すことなんてないから、意識して笑顔を作る。挨拶として差し出したその手を、友貴君はじっと見つめたがそれを取ろうとはしなかった。


「この人、姉ちゃんの彼氏?」


 唐突に俺のことを指さしてそう聞いてきた。そういえば前にもこんな状況があった。つい先日石田さんの家にお邪魔した時だ。石田さんのお母さんからも同じ質問をされた気がする。流石は血のつながった親子だ。


「同じクラスの三代君だって。それで友貴、体調はどう?」


 質問を軽くあしらう。それが当然なのだが、なんだか俺にとっては少し寂しかった。決して石田さんの彼氏になりたいとか、そんな大それたことは思っていない。たぶん。


「別に……普通だよ」


 それだけ言うと、再びかけ布団を頭まですっぽりとかぶってこちらに背を向けてしまった。石田さんは手に負えないといったような困った表情でこちらを見る。確かに話しに聞いていた頃の友貴君とはずいぶん違うようだ。


「友貴君、小説書くのが好きなんだってね」


 今度はこちらから話しかけてみる。少しでも心を許してもらえないだろうか。


「何でそれを知ってるの」

「石田さんから友貴君のことを聞いたんだ。昔から本を読んだりするのが好きで」

「うるさい‼」


 その怒号は小さな部屋全体に反響して、鼓膜を大きく揺らした。小さな体から発せられたとは思えないほど大きな気持ちの叫び。俺は言葉を続けることができなかった。


「なんで姉ちゃん、勝手に人のことベラベラと知らない人に話してんだよ……」


 上擦った声が、今度は静かに部屋に響き渡った。俺も石田さんも、何も言い返すことはなく、じっと友貴君の背中を見つめていた。


「二人とももう出ていってよ」


 棘のある言葉が俺たちに向けられる。頭まですっぽりと覆いつくされた布団は少し震えていた。


「ごめんね、友貴。また、今度来るから。三代君行こう」

「あ、あぁ」


 何もなすすべなく、この部屋から足早に立ち去ることとなった。


 一体どれくらいの時間部屋に入れただろうか。5分、いやもっと短かった気がする。それほど一瞬にして友貴君のお見舞いは終わってしまった。現在は病院を出て、また駅に向かって歩いているところだ。行きは下り坂だったので気にしなかったが、帰りは登りになっているので、こんなにも遠かったのかと思ってしまう。


「ごめんね。せっかく来てもらったのに」


 隣を歩く石田さんが視線は向けずに、真っすぐと前を向いたまま語りかける。


「いや、いいよ。怒らせてしまったのは俺が原因だろうし」


 やはりいきなり赤の他人の俺がお見舞いに行くのはよくなかったのではないだろうか。あくまで結果論に過ぎないが、そんな風に思ってしまう。


「うんうん。きっと恥ずかしかったんじゃないかな。自分の目標を改まって言われると、私も恥ずかしい時期があったし」

「そうだと……いいんだけど」


 確かに自分の努力していることを他人に知られてしまう、面と向かって言われるのは恥ずかしいことだ。それはわかる。だけど、あの怒り方、他にも何か原因があるのではないかと俺は思ってしまう。というよりも、最近の態度自体に何か友貴君も思うところがあってああなってしまっているのではないだろうか。正解はきっと俺では見つけ出せない。けど、その正解を見つける手伝いをすることはできる。むしろそれしか俺にはできない。

 ゆっくりと時間をかけてでもいい。友貴君と石田さんの関係が昔のように戻ってくれればいい、そんな風に思っていた。


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