30話 思う気持ち
俺はチーズパスタとコーヒーにデザートの焼きリンゴを一つ。石田さんはというと、茄子とベーコンのクリームパスタと紅茶にデザートのリンゴ丸ごとパフェを頼んでいた。リンゴ丸ごとパフェとはその名の通り、パフェの一番上にリンゴが丸ごと乗っているのだ。流石の俺でも全部食べ切れるか心配な量なのだが、石田さんはそんなことお構いなしに迷いなく頼んでいた。食堂でもラーメンを食べていたし、結構カロリーを摂っていると思うのだが、線の細さは人一倍だった。どうやってその体型を維持できているのか、不思議なくらいである。
だが、体重は女子が一番触れてほしくない部分であろう。もしかしたら陰ながら努力をしているかもしれないし、まだ関係の浅い俺なんかが触れるべきことではない。
「中々一人だとこういう場所って入りづらいから、三代君が一緒に来てくれてありがたいよ」
石田さんはフォークでパスタをからめ取り、ゆっくりと口に運ぶ。俺も自分のパスタをゆっくりと食べていった。
家で食べるパスタといえば冷凍のものくらいだ。あれはあれで美味しいのだが、また違ったうまさがあった。溶けたチーズがアツアツでそれが麺と絡まって一層美味さを掻き立てている。
「俺もこんなおしゃれなカフェ一人で来ることなんてないから」
「部活の帰りにどこか行こうってなると、やっぱりファミレスになっちゃうんだよね」
「そうなのか。そういえば、この前言っていた部活の件、あれはどうなったんだ?」
「あ……あのことね」
あの件とは、石田さんがバスケ部をやめると言っていたことだ。美大に行くため、勉強時間を確保するために部活を引退する、そう言っていたはずだった。
「実はね、あの時はすぐやめるつもりだったんだけど、まだ決めかねてて。私が抜けるってなると部員みんなにも迷惑がかかるわけだし、まだ保留……かな」
「そう、なのか」
てっきりもう辞めたりしたのかと思っていたが、それもそうか。石田さんは女バスのキャプテンだ。そんな彼女がいきなり辞めるなんて言い出したら、部自体が大きく崩れることになる。
中学時代の話を聞く限り同級生からも後輩からも慕われる存在だ。それ故に責任を感じて辞めづらいというのもあるのかもしれない。
「けど、それ以外の時間で勉強できる時間を増やしたんだ。少しでも上手くならないとね」
その瞳は真っすぐで、透き通っていた。友貴君のこともあってだろう。俺は単純に目標を掲げてそれに向かって突き進める人がカッコいいと思う。俺は努力も挑戦も何もかも手放してきた人間だ。カッコいいと思う資格すらないのかもしれない。それほど落ちぶれた人間だと自分でも理解している。
「石田さんはすごいな。友貴君もきっと、嬉しいと思うよ」
「……そうだね」
そう返事するまで、しばらくの間があった。俺は何か空気の読めないことを言ってしまったのではないかと思ったがそうではないらしい。石田さんは視線を下げ、憂うような表情をしていた。
「もしかしてこの前言ってた、友貴君が反抗期で話しを聞いてくれないっていうことか?」
なんとなく察しがついた。何故ならあの時も同じような表情をしていたから。
「……うん。私自身どう接すればいいのかわからなくて……ってこんなこと三代君に言っても迷惑だね」
両手を開いてこちらを遠ざけるようにして手を振る。
「そんなことないよ。そうだ、もしよかったらなんだけど、友貴君に会いに行ってもいいかな」
「え、友貴に?」
「そう。いきなりだからびっくりしちゃうかもしれないけど、男同士だったら何か話してくれることもあるかもしれないし……。まぁ、無理にとは言えないけど」
正直これをいうのは非常に悩んだ。いつものことながら他人の家庭事情に首を突っ込むというのはなるべく避けたいものだ。俺の家こそ石田さんに間に入って仲を取り持ってほしいなんて思わないし、それは向こうも同じだろう。ただ、石田さんの話を聞いていると友貴君は悩んでいることが何かあるんじゃないか、そんな風に思えてしまう。昔は話しに聞いた通りだと石田さんになついてべっとりだったのに、いくら思春期だからって急に喋らなくなったりするのだろうか。それを確認する意味も込めて、首を突っ込むべきか非常に悩んだのだ。
だが、結果として俺は干渉してしまった。自分でも何でこんなことを言い出したのかわからない。もしかしたらこの後断られるかもしれない。けど、そうなったときはそれまでだ。
石田さんはしばらく俺の顔をじっと見つめて、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「うん、分かった。本当にそこまでしてもらうのは申し訳ないけど、三代君ならなんだか頼りになる気がする。頼んでもいいかな」
口角が上がり、彼女の”笑顔”が見られる。俺はその言葉を聞いて、少しだけ心の中で淀んでいた感情が落ちていったような気がした。
「あぁ。任せて……なんて大層なことは言えないけど、石田さんの力に少しでもなりたい」
自分でもなんて恥ずかしいことを言っているんだろうと、自覚はあった。だが、そんな感情よりももっと優先すべき感情が俺にはできてしまったのだ。




