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6

 入学式からは慌ただしく、アナたちはオーウェンと過ごす時間はほとんど取れなかった。

 元々学年が違うのだ、同じ男子寮でヨハンが見かけることはあってもやはりあちらはあちらで友人と過ごしているので挨拶をする程度だと言われれば、アナもそれ以上何かを言うこともできない。


 婚約者だからと言って我が儘を通すのはよくないことだったし、アナだってどうせ学園に通うならばしっかりと勉強をしたかった。

 それに同学年で仲の良い友人ができれば、オーウェンが楽しく過ごしていることも理解できた。


「それにしても本当にアナの字は綺麗ねえ……」


「ありがとう、ジュディス」


 寮生活をするに当たり、生徒たちは二人一部屋で過ごすことが定められている。

 そこには力関係や派閥の影響が出てはいけないとされているらしく、無作為に選ばれた組み合わせだと言うが真実の程は不明である。

 とにかくそうした理由で、アナは領地にいたならば決して知り合いになれないような身分の相手と友人になったのだ。

 

 それがモルトニア侯爵令嬢ジュディスであった。


 モルトニア侯爵家はこの国の筆頭侯爵家であり、ジュディスは王子妃候補として名が挙がるほどだ。

 誰もが振り返ってしまうほどの美貌に加え、知的で慈愛深い。


「アナってば本当に器用なんだもの。もし貴女がブラッドリィ家に嫁ぐのではなく職を探すと言っていたなら、迷わずわたくしの侍女になってもらったのに」


「それはそれで楽しそうよね」


「そうよ、毎朝アナに起こしてもらって髪を結ってもらって、お喋りするの! 素敵じゃない?」


「今と変わらないわ」


「それにしてもどうしてそんなに髪を結うのが上手なの? うちの侍女よりも上手かもしれないわ!」


「それは言い過ぎよ。……昔ね、ヨハンが願掛けのために髪を伸ばしていた時期があって。その時私がいつも結っていたの」


「そうなのね。仲が良くて素敵だわ……わたくしは兄が二人いるけれど、あの二人は……まあ、頼りにはなるけれど髪結いは任せたくないわねえ……」


「まあ!」


 くすくす笑う少女たちは身分の垣根を超えて楽しげに笑う。

 初めこそ学園に入って緊張していた少年少女も、一月、二月と過ごしていけば打ち解けていくというものであった。


「そういえば、婚約者の彼とはどうなの?」


「……最近、忙しいみたい」


「またそれ? 一つ上の学年はまださほど忙しくなかったはずなのに……」


「きっといろいろあるのよ」


「……そうかしら。そうよね……」


 ジュディスの言葉に、アナは曖昧に微笑んだ。

 友人の言葉に悪意はなく、純粋に心配してくれていることはアナも理解している。


 実際、この学園では初年度と三年度、そしてそこからは進学を選択した五年度の学生がとにかく忙しいことになっている。

 初年度は言わずもがな、学園という新しい環境に慣れ、そして勉学についていくためにも必死になるのでみんな忙しい。

 三年度は卒業するか進学するかを選択しなければならず、進学するにはそれ相応の能力を示さねばならないので準備に追われる。

 そして五年度は進学したその二年分の成果を発表せねばならず、忙しいのだ。


 二年度と四年度は勉学にのみ集中すれば良いという点もあって、まだ余裕がある……と卒業生も在学生も口を揃えて言う。

 だからこそ、オーウェンの姿が見えないことが、また不安を煽る。


 それでもヨハン経由で、『初年度の忙しさを知っているから気を遣っている、今は友人関係を築くべきだ』という言付けをもらえばそれもそうかと納得せざるを得ない。


(……オーウェンは進学するのかしら)


 彼の成績について、アナは何も知らない。教えてもらっていないからだ。

 勿論、聞いて回れば知ることはできるだろうが……それは失礼な行為でもあった。


 だがこのままにしておいてもいいことはない。

 オーウェンが進学するかどうかで、婚約者であるアナも進路を決める必要があるからだ。


 初年度の学生はほぼほぼ必修授業だが、二年度からは選択授業も増えていく。

 領地のために学ぶ経済学や貿易学、外国語など、長く学ぶかどうかで選ぶものもあれば諦めるものも出るはずであった。


 将来的に伯爵となるオーウェンを支えるため、彼が三年で卒業するならば取りたくても取れなかった授業をアナが選ぼうと思っていたし、五年度までいるというならば彼女は貿易学と外国語を学びたいと思っている。


(……近いうちに、時間を取ってもらおう)


 少しくらい話したっていいはずだ。

 だって、アナとオーウェンは婚約者なのだから。

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