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 学園に到着した日、オーウェン・ブラッドリィは二人を笑顔で出迎えてくれた。

 誕生日の祝いの手紙が素っ気なかったことを詫び、彼が王都で見つけたという美味しい料理を出すレストランで祝われて、双子は心配が杞憂であったと胸を撫で下ろす。


「良かったな、アナ」


「ええ、ヨハン」


 上級生は新入生たちを迎えるための準備に追われ忙しい。

 そのため、次に会うのは入学式での歓迎パーティーになると言われてアナとヨハンは宿屋の前でオーウェンと別れた。


 アナの手には、彼から贈られたプレゼントが握られている。

 オーウェンの目の色とよく似た石でできたブローチは何よりも嬉しいものだ。


 これまで忙しかったのはこのプレゼントを買うために、学園内でできる内職のようなものをしていたからだと説明されて胸が温かくなる。

 勿論、アナの分だけでなくヨハンにもプレゼントがあった。


 値段は関係ない。

 安っぽい代物だと言われればその通りだが、二人のことを想って彼が自ら稼ぎ、用意してくれたことが喜ばしいのだ。


(やっぱり疑うなんて失礼だったんだわ)


 彼は誠実な人間であり、この王都という生まれ育った場所とはまるで違う環境に来たからといってこれまで共に過ごしてきた時間を覆すようなことはなかったのだ。


(良かった。……本当に良かった)


 アナは善良な一人の少女に過ぎなかった。

 両親とヨハンの手前、不安に押しつぶされて泣いては家族に心配をかけてしまうから我慢をしてしまうほどに善良な少女だったのだ。


 人の心が移ろいやすいと疑うほどに恋を知る年齢であり、疑いもし、そして純粋に恋を見つめられる年頃であった。


「明日はおじいさまのところに行こうね、ヨハン」


「うん、俺たちの制服はおじいさまが準備してくれているんだもんな」


 彼らが宿屋に泊まるのも、祖父の計らいであった。

 学園に通う子息令嬢たちの多くのうち下級貴族の大半が平民の母親であることは周知の事実であるが、祖父母である平民の家に寝泊まりすることはあまりよく思われない。


 娘が貴族の妻や愛人になったからといって、その生家は貴族と同列には扱われないのだ。

 そのためたとえ孫だとわかっていても平民の家に家族として(・・・・・)寝泊まりしたという話が耳に入れば、軽んじられるのはアナとヨハンである。

 そのことを祖父は慮ったのであった。

 そして二人はその気遣いを正しく受け取り、感謝している。


「学用品と、寮で過ごすために最低限の衣類を準備するのよね」


「学用品は学園内でも買えるってオーウェンは言ってたろ?」


「そうね、でも町に出て買った方が安いものもあるって言ってたじゃない」


「なんだっけ、小遣い稼ぎの内職もいくつかあるって言ってたなあ」


「私は手紙の代筆とか、図書の整理とか……そういうのならできそう」


「アナは字が綺麗だもんな! 俺はどうしよう」


「食堂の荷物を運ぶとか、そういう力仕事が向いているんじゃない?」


「ああ、それいいかも」


 学園が楽しみだ。

 そう双子は顔を見合わせて笑ったのだった。

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