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【連載版】「すまない」で済まされた令嬢の数奇な運命【電子書籍化】  作者: 玉響なつめ
第三章 ロビン・マグダレア

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幕間 ロビンはきちんと知っている

 妙なことになった。

 それが感想と言えば感想だ。


 義父となったベイア子爵と、お世話になっているヴァンダ補佐官のおかげで叙爵は進みそうだってことは理解できたが……まさか俺に想いを寄せる女性がいて、その影響で進んでいなかっただなんて思うはずもない。

 

 しかも枢機卿? 王太后?

 雲の上の人とばかり思うような肩書きの人らがそれに関係しているだなんて、俺みたいな庶民にはどうしていいのか皆目見当がつかない。


(……まあ、今は結婚もできたし、相手の女性には諦めてもらうしかないんだが)


 会ったことがあると言われればそうなんだろうが、軽く挨拶をしただけの相手について覚えていることなんて殆どない。

 枢機卿のご息女ってのは確かに二人ばかり来ていたような気もするが……場違いなほど煌びやかな場所に連れて行かれて混乱状態にあった俺はそれどころじゃなかったからなあ。


(それにしても一目惚れだからって、婚約者を変更しろとか……お貴族様ってのは怖いんだな)


 俺はあまり色恋に詳しいわけじゃないが、確かに恋はいいもんだろう。

 世の中が色づいて見えるし、気持ちだって浮ついて幸せを感じることができて、その様子に周囲だって行き過ぎなければ微笑ましい気持ちになってくれるはずだ。


 しかも運命的な出会いを果たしたってんなら、そりゃもう盛り上がることだろう。


 そいつはわかる。

 誰だって若い時には憧れるってもんだよな。


(けど、それって……長く付き合ってきた相手を蔑ろにしていいもんじゃないと思うんだよなあ)


 まあ、俺とアナは長い(・・)付き合いってわけではないけども。

 それでも過ごした時間は大切な思い出で、彼女の家族はみんないい人たちで、このベイア子爵領の人々の温かさに触れた今は、運命だとかなんとかって綺麗事で彼らを裏切るのは何かが違うと思うのだ。


 上昇志向というか、野心持ちなら裕福とはいえ子爵の家と繋がるよりも、枢機卿家の方が……なんて思うかもしれないが、俺は俺の身の丈を知っている。


「ロビン様? どうかなさったの?」


「いいや。俺には過ぎた妻がいてくれて、幸せだなと噛みしめてたんだ」


「まあ、またそんなことを言って!」


「毎日だって言いたいくらいだ」


 そう、アナは俺なんかには過ぎた妻だ。


 料理が好きで、貴族的な振る舞いができる生粋のご令嬢なのに俺みたいに泥臭い騎士の仕事を理解してくれて、足りないところを補うのが妻の役目だと笑ってくれる。

 領主になるってのは簡単な話じゃないから、これからは二人三脚で頑張ろうと挫けそうになる度、励ましてくれる。


 人の良い部分を見つけて褒めてくれ、弱っている時にはさりげなく傍にいてくれるし、物静かだけど喋らないわけでもないし、いつだって笑みを絶やさず話を聞いてくれる。


(……運命だの一目惚れだの、馬鹿にするわけじゃないが……あれっ、そういう意味なら俺もアナにこんだけ短期間で惚れ込んで生涯を共にしたいって思ったんだから、似たようなもんか?)


 言葉を交わせば交わすほど、行動を共にすればするほど、惚れ込んでいったのは自分だと俺も自覚している。

 だけどそれは出会った瞬間にビビッと来たとかそんなんじゃないから、やっぱり少し違う気もする。


 過ごしてきた時間を思えば、俺は運命の人よりもアナがいいなと思う。


「アナ」


「なんでしょう」


「叙爵が終わったら、結婚式をやろうな。どんなドレスがいいかな、一生の思い出になるんだ」


「……まあ、よろしいのですか?」


「ああ勿論だ。綺麗で賢い嫁さんをもらったって領民になった人々に自慢したいし、いつか生まれてくる俺たちの子どもにも『母さんはあの頃からずっと素敵なんだぞ』って自慢してやるのが目下の夢だ」


「まあ!」


 クスクス笑うアナは、やっぱり可愛い。

 可愛くて、賢くて、俺を立ててくれて……やっぱり俺には勿体ないほどのできた妻だ。


 俺は俺の身の丈に合わない幸せを手に入れた。

 だから、それ以上を望む方がおかしい。


 だって、彼女と家族になって……彼女の家族とも家族になって、これからもっと幸せになるとわかっているんだから。

人はそれをベタ惚れって言うんだぜっていう突っ込みが不在のロビンさん。

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― 新着の感想 ―
[一言] うむうむ、昨今稀に見る好青年だな
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