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15

 ジュディスの思い出作りが増える一方で、モーリスとの関係も深まっていく。

 その中でアナは彼に惹かれる自分に気がついていた。

 

 オーウェンとのことは今でも辛いし、学園の中で彼の姿を見かける度に胸は痛む。

 何故か彼の方からアナに話しかけようとしてくることが気になりはしたが、以前のような関係には戻れないのだと適切な距離を取ってアナはすぐにその場を離れるようにしていた。


 実際、今だ学園内ではあの(・・)婚約破棄を目撃した人物は多く、二人が揃えば悪目立ちするのは当然のことであったから。

 それに加えて、こちらも不思議なことであったがミア・パラベルがやたらとアナを睨んでいることもあって周囲はいっそう、二人がアナに近づかないようにと気を配ってくれるようになっていた。


 そんな中、モルトニア侯爵家からベイア子爵家に縁談の申し込みが届いた。


 アナの話題はすでに貴族たちの中では知れている話で、娘からも話を聞いていたモルトニア侯爵も同じ年頃の娘がいるだけに彼女の境遇には同情的であったという。

 その上、ジュディスと仲が良いし、聞けば評判も良く穏やかな人柄の令嬢ということもあって婚約者のいないモーリスはどうだろうかというものであった。


 モーリス・モルトニアは次男ということもあり、いずれは長男が侯爵家を継いだ後に侯爵家が所有する爵位を譲り受けることが決まっている。

 モルトニア侯爵家の家臣にはならず、これからも騎士として騎士団に所属し仕えていくのだという。


 これにはベイア子爵も悩んだようであったが、アナはモーリスの人柄も知っていたし、ヨハンも悪い話ではないだろうと認めたことでこの話は進められたのである。


 悲劇の令嬢が、友人の兄に慰められて新たな恋に踏み出した……そう世間ではあっという間に広まってアナの方は困惑したけれども。


「……うちのお父様の仕業ですわ。アナの再婚約が、誰からも文句を言われないようにと気を遣ったのだと思います」


「まあ……」


「遠回しなことなどせず、お兄様がしっかりとアナに誠実でいれば済む話ですのに。まったくもう!」


 プリプリと怒りながらもジュディスはアナと縁続きになれるとご機嫌だ。

 その関係でなのか、モーリスと正式に婚約を結んだ翌日には何故かジュディスの婚約者である王子がそこにいて、直接祝いの言葉をいただいてしまった。


 アナとしては恐縮しっぱなしであったが、ジュディスが『大切な友だち』とアナのことを称して憚らないのだから今後も顔を合わせることがあると王子に優しく微笑まれれば、アナとしてもほっこりとした気持ちになったものだ。


「先日もジュディスがベイア嬢のおかげで助かったと言っていた。僕からもお礼を言わせてもらうよ」


「いえ、そんな……」


「アナ嬢が?」


「ああ、モーリス卿は知らなかったのかい。ベイア嬢は異国語に精通していてね、読書家であることからジュディスが外交の関係であちらの国について調べるのを随分と手伝ってくれたようなんだ」


「そうなんですのよ。お手紙やそのほか、アナに手伝ってもらって完成したものがいくつもありますの」


「お、恐れ多いことです……」


 アナに言わせれば、それはあくまで手紙の代筆だ。

 ジュディスから詳しい話はその外交が終わるまで教えてもらっていなかったので、まさか彼女も頼まれたものが外交で使われる品……つまり、自分が知るべきではない内容であっただなんて思わなかったのだ。


 手紙は確かにお礼状で、聞き慣れない名前がたくさんあった。

 だがそれもジュディスの、高位貴族の繋がりだと思えばおかしなことではなかったし、別に恋文でもなければ妙な表現があるでもなくただ単純にジュディスが履修していない異国語で手伝いができるなら良かった程度の話である。


 まさかそれが評価されて、このように言われるとは思わなかった。

 大変心臓に悪いとちらりとジュディスを見るが、彼女は誇らしげな表情だ。


「……良い縁をいただけたと俺も誇らしく思いますよ」


 王子とジュディスに褒められて小さくなるアナの肩を抱いたモーリスが、やや自慢げにそう言う。

 オーウェンからはいつだって『あまり賢しらだと目立って周囲からなんて言われるかわからないから、自分の影に隠れていて』と言われていたアナとしてはどうしていいかわからない。


 だけれど、これが『婚約者に守られる』ということなのかな、と漠然とそう思って胸がドキドキするのだった。

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