2018年2月21日 打撃投手和田、合宿地に赴く
早朝、部活の遠征先の最寄り駅、猿田駅までジャージで向かった私であったが、この道のりが永久のものと感じられるほど長かった。
千葉駅を出て間もなくしてあたりは田んぼ一面となり、もうここで野球しちゃっても問題ないだろ。ここで野球しようや。というツッコミを何度入れたことか分からない。
唯一の救いは女子高校生が俺の横で足を組んでうたた寝を始めたことくらいである。
これは社会的に存在を許可されているということを意味している。
もはや女子高校生とは男に人権を付与する存在なのである。
「スカートを短くすることは女子高校生の義務」と語った先輩女子マネージャーの言葉の真意を考えている間に、電車は猿田駅まで残り5分というところまで差し掛かっていた。
1泊にしては多い荷物を抱えて下車準備をする。
猿田駅は、大荷物を抱えて下車しようとする私を乗客全員が不思議そうに眺めるほど何もない駅であった。
駅名に猿が入っている駅らしく、駅周辺には動物的な臭いが充満しており、この臭いの発生源がどこなのか非常に気になった。
そして更なる問題は、駅からグラウンドまでの道のりを全く把握していなかったことである。
グーグルマップを開き、おおよその経路は確認したが、何せ私は地図が読むのが苦手だ。
本当にこの道で合っているのかという道を半信半疑で進んでいく。
最初こそ道幅が広かったが、駅が遠ざかるにつれて幅員が減少していき、ついには歩道が無くなった。
おそらくこの辺りは歩いて移動するような場所ではないのだろう。
車も少ないわけではなく、しかもそのほとんどはトラックだったので、トラックが私を追い越す度に死の恐怖を味わうこととなったのだ。
当初の予定では、駅からグラウンドは徒歩5分であった。
しかし、10分歩いても全くグラウンドらしき施設は見つからず、むしろ何もなくなっていった。
途中、もちろん歩道の無い橋を渡ることになった。
この橋は結構な高度であり、思わず下を覗いてしまう私の行動で何かを勘違いした農家が「大丈夫か~?」と声を掛けてきた。
自殺志願者と間違えられていたらしい。
実はこの橋自殺スポットだとか。
橋を越えると、グラウンドが姿を現した。
正面がどこか分からなかったので、とりあえず最短ルートでブルペンの横からグラウンドに姿を現すと、「そこから来るんかい」と言わんばかりの表情で部員が出迎えてくれた。
駅からここに辿り着くまでの武勇伝を語り、練習の手伝いを始める。
この日は紅白戦。まさかのレフトの助っ人として出場。
紅白戦が終了して、打撃練習へと移ったのだが、ここからが凄かった。
私は打撃投手を務め、実に2時間ノンストップで投球を続けることとなる。
この日の投球数は優に1000球を超えただろう。
ある投手はこう語った。
「間違いなくこの日だけで、和田さんの合宿での投球数が全投手陣の中で1位となりました」
優勝を果たし、宿へ。長い1日が終わった。
-----2024年2月21日の私より-----
私が大学4年間で最も磨かれたスキルは打撃投手のスキルであり、コントロールはもちろんのこと、緩急の投げ分けまで自由自在でした。
調子の悪い打者には気持ちよく打ってもらえるように甘い球を、スタメン級の打者には次の試合の相手の投手の傾向に合わせた投球を、という配球まで可能だったので、打者の調子とかはよく把握できました。
それを岡田監督に伝えて、試合に活かすというサイクルができていましたね。
更に私の肘や肩は丈夫で、1000球投げても次の日へっちゃらでした。
役に立っている実感があったのでとても楽しかったですね。




