第五章:SWORD BREAKER/01
第五章:SWORD BREAKER
そして訪れた週明けの月曜日、ミシェル・ヴィンセントとの対決の日。
場所はアリーナエリアのスタジアム……の、地下にある広大な複合フィールドだ。
地下複合フィールドはちょうどスタジアムの真下に位置していて、地下ながらかなり広く、ナイトメイル同士が戦うには十分すぎるほどのスペースがある。
壁や天井はナイトメイルの武器や攻撃魔術に耐えられるだけの十分な強度があって、床は特にこれといって起伏もなくまっ平ら。地下にあるというだけで、地形自体はスタジアムと大差ない。
そんな地下の複合フィールドの最大の特徴は、環境を自在に変化させられる点だ。
ここには様々な環境を再現するための専用設備があり、穏やかな春の日差しから砂に満ちた灼熱の砂漠地帯、ジメジメとした湿地に凍てつくような豪雪地帯、更には水で満たすことで水中戦も再現できる。
その名の通り、様々な用途に使える場所というわけだ。
だからか地下複合フィールドはこうした生徒同士の模擬戦だけでなく、学園都市や本土のレスキュー隊やらの訓練にも定期的に貸し出されているという。
「…………」
そんな地下のフィールドは今、真っ白い雪に包まれている。
人工降雪機で作られた雪景色の中、ウェインとミシェルは互いに向かい合っていた。
『さぁぁて皆さんっ! お待たせしましたぁぁぁっ!!』
季節はずれな真っ白い雪景色に、響くのは風牙のやかましい実況の声。
『ウェイン・スカイナイト対ミシェル・ヴィンセント! Aブロック注目の一戦がいよいよ始まろうとしていまぁぁぁすっ!! 果たして勝利の女神が微笑むのはどっちか!? どちらが勝ってもおかしくないこの勝負……注目の一戦だぁぁぁっ!!』
「……ったく、風の字はやかましくっていけねぇや」
「あの声で雪崩でも起きてみろ、野郎の枕元に化けて出てやる」
「くくくっ、いいねェ。そん時ゃおいらも付き合うぜ」
十手を肩に担ぐミシェルと、その前に立つウェイン。
風牙のやかましい実況が響き渡る中、向かい合う二人はニヤリと笑みを浮かべ合う。
かたやミシェルは、涼しくキザっぽい不敵な笑み。
かたやウェインが浮かべるのは、犬歯をチラリと見せた獰猛な笑顔。
鋭く尖らせた目で、刺すような視線を向け合う二人。
実際にはまだ手出ししていない。しかし研ぎ澄ませた視線という刃が、既に二人の間で無数の火花を散らせていた。
「楽しみに待ってたぜ、てめえと戦うこの日をな」
「くくっ、おいらもおんなじさ……昨日なんかロクに眠れなかったぐれぇだ」
「馬鹿言ってんじゃねえよ、遠足前のガキかてめえは」
「おいらが馬鹿、ねえ……くくっ、おめえさんほどじゃねぇよ」
「言うじゃねえか、この野郎」
「……で、覚悟はできたのかい?」
「んだよ、一体なんのこった」
「おいらに張り倒される覚悟さ、そんなことも分かんねえたぁな」
「ソイツは逆だな、てめえの方が覚悟して貰わにゃならん」
「へぇ? 大きく出たじゃねえか、楽しみが一つ増えたねぇ」
「そりゃあ俺の台詞だ」
「くくくっ……」
「ヘヘッ……」
低く、唸るような声で笑い合う二人。
しかし――その目は、一切笑ってなどいない。
ウェインの目も、ミシェルのフレームレスの眼鏡越しの瞳も。切れ長の双眸、互いに睨み合うエメラルドグリーンの瞳は……一切、笑っていなかった。
「来いよ、おいらが相手になってやらぁ」
「真っ向勝負といこうじゃねえか……!」
ミシェルが十手を突き付け、ウェインが懐から取り出した白い短剣の切っ先を向ける。
「――――ファルシオンッ!!」
雄叫びを上げながら、左手の短剣をバッと天高く突き上げるウェイン。
瞬間、彼の身体をパッと眩い閃光が包み込む。
そんな瞬きの後、白い羽根がふわりふわりと舞い落ちる中に現れたのは、天翔ける白き翼の魔導騎士――ファルシオン。
「……いくぜ、相棒」
同時にミシェルがバッと十手をかざせば、キィンっと閃光が瞬く。
その一瞬の閃きが晴れたとき、現れたのは……鎧武者のようなナイトメイルだ。
――――ソードブレイカー。
紺色の重装甲を身に纏った、無骨な鎧武者。
その兜の奥でギラリと光る二つの眼が、相対するファルシオンを静かに睨みつける。
『……ウェインさん、それにミシェルさんも。お二人とも騎士として、魔導士としての誇りある戦いを期待します』
そんな互いのナイトメイルと融合すれば、聞こえてくるのは形式ばったエイジの声。
『では、どうか善き戦いを。――――戦闘開始!!』
そして次に聞こえてきた、試合開始の号令を合図に――――ウェイン・スカイナイトとミシェル・ヴィンセント、ファルシオンとソードブレイカーの、熱き戦いの火蓋が切って落とされた。




