第四章:この大空に、翼をひろげて/03
ひとしきり遊覧飛行をした後、河川敷でアルマと別れた二人は……夕方になった頃、やっと帰りのモノレールに揺られていた。
「今日は楽しかったな」
窓から夕焼けの差し込むモノレール、他に誰も乗客の居ないがらんとした車内で、隣に腰掛けたフィーネが言う。
ウェインは「んだな」と小さく頷き返し。
「まさか、あの坊主と……アルマとまた会えるとは思わなかったがな」
と、小さな彼を思い出しながら言ってみる。
「ふふっ、私は何となく会える気がしていたよ」
「おいおい、ホントかぁ?」
「なんだウェイン、この私を疑うのか?」
茶化す彼にふふっと笑いながらフィーネは言うと、
「……しかし、あの子が私たちのような魔導士を目指す……か」
と、遠い目をしながらポツリとひとりごちる。
「んだよ、嬉しそうじゃねえか」
「そういうお前も、随分と嬉しそうな顔に見えるが?」
〈これで意外に照れ屋ですからね、ウェインは〉
〈そうです、ファルシオン兄様の言う通りです〉
「なっ……! てめえら余計なこと言うんじゃねえよ!?」
「だが、図星だろう?」
「……そりゃあ、そうだけどよ」
「ふふっ……」
「くくく……っ」
ファルシオンとジークルーネも会話に混ざる中、笑い合う二人。乗客なんて他に誰も居ないからか、随分と気の抜けた調子だ。
そうして笑いあった後、フィーネは微かにシリアスな顔を浮かべて。
「……あの子の夢を守るためにも、私たちが戦わなければならないんだ」
と、隣に座るウェインにそっと言う。
「だから……そう気を張りすぎるな。力を抜くべき時は、ちゃんと抜いた方がいい。お前はなんというか、変に生真面目すぎるというか、考え込みすぎるところがある……今日でそれもほぐれたか?」
横目に見つめながら訊かれて、ウェインはああと頷く。
「……ありがとな」
その後で改めて彼女に礼を言うと、フィーネは「だったら何よりだ」と微かに笑う。
「そういうお前だから――放っておけないんだ、私は」
笑顔を浮かべながら、フィーネは隣に座る彼の頬に手を添えて――そっと、キスをした。
ふわり、と銀色の髪が揺れる。
長い銀髪がきらきらと夕日を反射する中、微かに漂うのはクチナシにも似た甘い匂い。
フィーネの顔が、息も止まるほどに美しい彼女の顔が最接近してきて、唇同士を触れ合わせたのは――ほんの、五秒足らずの短い間。
そんな短いキスを交わすと、唇を離したフィーネがふふっと微笑む。
「おい、こんなところで……」
そんな彼女に対し、ウェインは――急なことで小っ恥ずかしそうに、少しだけ顔を赤くしながら言うのだが。
「他に誰も居ないんだ、別にいいだろう?」
しかしフィーネは、こんな風にいつもの調子。
ウェインがおいおい……と困った顔を浮かべる中、彼女はそっと握った彼の手を自分の膝の上に置いて。
「とりあえず、奴との戦いには必ず勝て。その上で……見極めてこい、お前の目で」
そう、彼の手をぎゅっと握り締めながら――ルビーの瞳で真っすぐに見つめながら、彼に言う。
言われたウェインも、真っすぐな彼女の瞳と視線を交わしながら。
「……あいよ」
とだけ、短く答えるのだった。
「しかし、今日は楽しかったな……さあ、次はどこに行こうか!」
すぐ隣で、心の底から楽しそうに笑うフィーネ。
そんな無邪気な横顔を眺めながら……ウェインもまた、そっと表情を綻ばせるのだった。
(第四章『この大空に、翼をひろげて』了)




