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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『DANCE WITH CRISIS』
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第四章:この大空に、翼をひろげて/01

 第四章:この大空に、翼をひろげて



 で、翌日。ウェインは宣言通りに朝も早々からフィーネに連れ出されていた。

 どこへ行くのかは全く聞いていない。とにかくついてこいというフィーネに連れられて、例によってモノレールに乗車。向かった先は……分かり切っていたことだが、市街エリアの方だった。

 市街エリアの駅でモノレールを降りて、徒歩で引っ張られるウェイン。

 そうしてフィーネに連れていかれた先は、ボウリング場だった。

 地面に穴を掘って土壌調査する方のボーリングではなく、レーンに玉を転がしてピンをなぎ倒す方のボウリングだ。

「……また妙なとこに連れてきたな」

「ちょうどやってみたかったんだ。お前も初めてだろう?」

「まあな」

「それじゃあ初めて同士、フェアな勝負になるな」

「だといいがな……」

「まずは身体を動かそう、そうすれば気持ちもスッキリするはずだ」

 ということで、とりあえず二人でボウリングで遊ぶことに。

 受付で専用のシューズやらをレンタルしつつ、適当なレーンに着く。

 こんな朝早くだからか、だだっ広いボウリング場に居る客の数はまばらだ。ウェインたちを含めて二、三組といったところか。

 そんなガラガラのボウリング場の、ド真ん中のレーンをフィーネは選んだ。

「負けた方が今日の昼を奢る、それでいいな?」

「いいねえ、乗ったぜその勝負」

「ふっ、負けても恨みっこなしだぞ?」

 賭ける対象は今日の昼食代。レーンに着いた二人は割と真面目な勝負を始める。

 二人ともボウリングは初体験といえ、互いにスレイプニールの現役エージェントだ。最初の何投かはボールが変な飛び方をしたり、逸れてガーターに突っ込んだりと散々だったが……でもすぐに慣れてきた。

 パカン、と小気味いい音を立ててピンが倒れる。

「っし! これでスコア逆転だぜ!」

「ほう、意外にやるなウェイン」

「こういうのは慣れよ、慣れ。いっぺんコツが分かっちまえば軽いぜ」

「ふふっ、そうだといいな――?」

 ボールを取って、ウェインと交代にレーンに立つフィーネ。

 助走をつけながら、左手のボールをひゅんっと放り投げる。

 着地したボールはつるつるとしたレーンを転がり、上手い具合に真ん中近くに飛び込むと――ぱかんっ、とピンをなぎ倒す。

 ……が、全部は倒れなかった。

 大半は倒れたが、でも左右の一番端の二本だけが残ってしまう。

 いわゆるスプリット――厳密に言えばスネークアイの状態だ。

 こうなってしまえば、二本とも倒すのは難しい。

「あちゃー、やっちまったねえフィーネさんよ」

 ニヤニヤしながら、わざとらしく言うウェイン。

 しかしフィーネは意に介さず、フッと笑い。

「まあ見ていろ、勝負はここからだ」

 と言って、すぐに二投目を投げる。

 レーンを転がっていくボールは、まず左側のピンを倒して……その後だ。

 フィーネがパチン、と左手で小さく指を弾いた時だ。

 ……どういうわけだか、急にボールが斜め後ろに飛んでいった。

 そのままバックするように大きく斜め後方に飛んだボールは、レーンの右端に来たところでまたぎゅんっと急激に方向転換。突然真っすぐに転がると、もう片方のピンもなぎ倒してしまう。

 まるでアルファベットの『N』を描くような、意味不明な機動だ。

 物理法則的にどう考えてもあり得ない。そもそもボールが斜め後ろにバックしてまた前に進むって……一体何がどうなっているのやら。

「あっ! おまっフィーネ! お前今ぜってえ風魔術使っただろ!?」

「さあ何のことだ? 私にはさっぱり分からないな……」

「きったねえ! そんなのアリかよ!?」

「いやあ、とんだ偶然もあったものだな。これがビギナーズラックというものか」

「あんまりにも白々すぎねえかオイ!?」

「何にしても、これでスコアは私の逆転だな。さあどうするウェイン?」

「ぐぬぬ……」

 ふふん、と鼻を鳴らすフィーネと入れ替わりに、左手にボールを持ってレーンに立つウェイン。

 ちなみにこの後も白熱した勝負が続いたのだが……結局、勝負自体はフィーネの勝ちで終わった。今日の昼食代はウェイン持ちで決定だ。

 ――――といった具合に楽しんだ後は、気ままに街を散策だ。

 ボウリング場を出た二人は、やっぱりフィーネに連れられる形で近場のあちこちを適当に歩き回ってみる。

 どうやらこの辺りも――以前に行った繁華街ほどではないものの賑わっている一帯らしく、大通り沿いにはデパートやらお洒落なカフェやらが軒を連ねている。

「ふむ、一度覗いてみるか」

 フィーネが言い出したのを切っ掛けに、そのままデパートに入ってみることに。

 店内は流石にデパートらしく、煌びやかで高級感に溢れるような感じだ。毎日の食料品から服に靴にその他諸々の嗜好品まで、扱う品は幅広いなんてもんじゃない。この店だけで大抵の生活は成り立ってしまうぐらいの品揃えだ。

 そんなデパートの中に入り、エスカレーターで五階まで昇って……そうしてフィーネに連れ込まれた先は、デパート内に入っているレディースの服飾店だった。

 まあ、ここに来た時点で何となく読めていた。

 こういう時に連れ込まれる場所としては定番中の定番だ。だからウェインは特に驚くこともなくフィーネに付き合ってやる。

「これとこれと……ああ、これもいいな。組み合わせとしては悪くない……よし、少し待っていろウェイン!」

 で、店員が接客に来るよりも早く何着か見繕ったフィーネは、それを持って試着室に飛び込んでいってしまう。

 とすれば、始まるのは彼女の一人ファッションショーだ。

「こういうのはどうだ?」

「あー……良いんじゃないか?」

「よし、次は――これはどう思う?」

「モノ自体は悪くないんだがな、色的にちょっと……な。お前にゃ合わねえ気がする」

「ふむ、なるほどな。だったら……ジャケットをこっちに変えたらどうだ?」

「……あー、良いんじゃないか? これならいい感じにマッチしてるぜ」

「お前は率直に意見してくれるから助かるよ。じゃあ次は――」

「まだ続くのかよこれ……」

 疲れきった顔でがっくり肩を落とすウェインの前で、シャッとまた試着室のカーテンが閉まる。

 ウェインは性分が性分だけに、こういう時も思考停止で褒めるんじゃなく、真面目に似合うかどうか感想を言ってしまう。

 どうやらフィーネにしてもその方が嬉しいらしく、彼の意見を取り入れつつ……まだまだ試着を続けていく。

 そうして、店にある服を全て試し尽くすぐらいの勢いで続いた一人ファッションショーも、やっとこさ終わったようで。

「……で、最終的にそれが一番お気に入りなのね」

「うむ! お前の好みと意見を最大限に反映してみたぞ!」

「いや別に俺の趣味で口出してたわけじゃねえんだけどな……」

 最終的に、一番気に入ったらしいコーディネートで試着室から出てきた。

 シャッとカーテンを開けてフィーネが試着室から出てきた瞬間、待っていた店員や他の店員、更に通りがかりの女性客がきゃーっと声を上げる。

 それぐらい、今のフィーネは可愛らしかったのだ。

 ただでさえ外面は絶世の美少女そのものなフィーネだ。それが時間をかけて選びに選び抜いたコーディネートで現れれば、こんな風に誰もが目を奪われるのも当然。

 ちなみに、格好としては朱色のキャミソールに丈の短い黒のショートジャケット、下はデニム地のスカートといった感じだ。

 足元は今は元のまま黒いニーハイを履いているが、同色の長いサイハイブーツなんかも合うかもしれない。後は……黒系の帽子なんかあれば、彼女の綺麗な銀髪とのコントラストが効いていい感じかもしれない。

 ウェインの率直な意見を参考にしつつ、フィーネが選んだのはこんな感じのコーディネートだった。

「どうだウェイン、似合うだろう?」

「だな、今まででベストな感じだ」

 ふふーんと楽しげに胸を張る彼女にそう答えたウェインは、近くに居た女性店員を手招きして呼び寄せて。

「あの一式で会計頼むわ、支払いは俺持ちでいいから」

 と、小声で耳打ちする。

「はい、承知致しました。ふふっ……素敵な彼氏さんで羨ましいですっ」

「そんなんじゃねえんだがな……」

「む、なんだウェイン、買ってくれるのか!?」

 こっそりのつもりだったが、気付かれてしまったらしい。

 地獄耳というかなんというか。最初フィーネは目をぱちくりさせて驚いた後、次にぱああっと笑顔になって喜びはしゃぎ出す。

「よ、よし! だったらこのまま着ていくぞ!」

「遠慮はしねえのな。別にその方が俺も楽なんだが」

「折角ウェインが買ってくれるというんだ、遠慮する方がどうかしている!」

「……だ、そうだ。すまねえが値札だけ取ってやってくれ」

「はい、かしこまりました♪」

「あと元着てた服も、悪りいが袋に詰めてやってくれないか?」

 ということで、フィーネから店員が値札だけ拝借してお会計。

 流石にこのテのデパートに入っている店の服だけあって、お値段は少々……どころじゃなく張ったのだが、そこはウェインも現職のスレイプニール所属エージェントだ。給金は浴びるほど貰っているから、お財布事情の心配は要らない。

 それはフィーネも同じことなのだが……まあ、こういうのは気持ちが大事だ。ただでさえ今日はウェインを気遣って連れ出してくれたのだし、これぐらいはお礼にしては安いぐらいだ。

 というわけで、ウェインの支払いで無事にお会計は完了。フィーネはたった今買ったばかりのコーディネートを身に着けて、うきうき気分で店を後にしていく。

 ちなみに元着ていた服は、今まさに彼女が抱えている紙袋の中に入れてもらった。

 ……と、これで終わればありがちなシチュエーションかも知れない。

 だが、そこはフィーネ・エクスクルード。彼女はこの程度で済ませるような女じゃない。

「よし! 今度は私が買ってやる番だな!」

「…………は?」

「いいからついてこい! そうだな……あの店が良さそうだ!」

「お、おいフィーネ?」

「ふふっ、さっきはあれだけウェインを付き合わせてしまったからな……今度は私の好みでお前を染め上げる番だっ!」

 服を買ってもらってご機嫌になったのか、フィーネは戸惑うウェインの手を強引に引いて、ひとつ下のフロアにある別の服飾店にウェインを連れ込んでいく。

 こっちはメンズ向けの服飾店。連れ込んだ目的は……まあ、言わずもがな。

 ウェインを連れ込んだフィーネは自分の好みで見繕った何着もの服を押し付け、そのまま彼を試着室に押し込む。

 ともすれば、後は彼女にされるがまま。完全に着せ替え人形にされてしまう。

「なあ……まだ続けるのか?」

「当然だ! しかしこれは色合いがな……そうだ、こっちはどうだ?」

「……なんか長くねえか、丈がよ?」

「お前は割とスタイルはいい方だからな、ロングコート……ほど分厚くはないが、こういう上着は割に似合うと思うぞ」

「ま、フィーネがそう言うなら。……おお、意外にアリだなこれ」

「だろう? 私の見立てに間違いはないんだ」

「裾で隠れるし、これなら腰回りにも色々仕込みやすいな……」

「お前な……こういう時ぐらい任務のことは忘れろと、あれほど言っただろうに」

「す、すまん」

「ふふっ、まあいいさ。……よし! これに決めたぞ!」

 なんて風に散々着せ替え人形にされた挙句、そのまま有無を言わさずにフィーネはコーディネート一式の会計を自分で支払っていた。

 ……で、満足したフィーネは彼を連れてデパートを後にする。

 デパートを出て、また大通り……から一本入った横丁に何気なく足を向けてみる。

 表通りほど煌びやかな感じではないが、これはこれで中々に趣のある一帯だ。どちらかといえば小さな個人営業の、でも小洒落た店が多いような感じの細道。

 そっちに足を向けたフィーネは、目についた雑貨屋であれこれ物色してみたり。

「ん、なんだこれ?」

「これは……なんだ、ただの飾り物だ」

「ミニチュアの跳び箱か、変なのもあるもんだな」

「そうか? 部屋にちょこんと置いておくと可愛らしくていいと思うがな」

「へえ、そんなもんかね。……っと、コイツは」

「ライオンの置き物か。なかなか可愛いじゃないか」

「前にフレイアがさ、似たようなの欲しがってたのを思い出してよ」

「……なんだ、こんな時に他の女の話か?」

「んだよフィーネ、急にどうした?」

「ふふっ、ただの冗談だ」

「冗談に聞こえねえぐらいドス効いてたけどな……」

「なんなら、風牙に今度教えてやったらどうだ? 奴のことだ、きっと飛びつくぞ」

「そうかねえ?」

「フレイアのことになれば、きっと飛びつくさ」

「ふぅん……?」

「それより見てみろ、これなんか可愛いんじゃないか?」

「ウサギのキーホルダー、ねえ。色は種類あるんだな」

「お前にぴったりじゃないか。ウサギは寂しがり屋というからな」

「おい、どういう意味だよそれ」

「言葉通りの意味だ。お前は私が居ないと駄目だからな」

「へいへい……」

 なんて風に雑貨屋で色々見て回って楽しめば、今度は最近の人気店だというパン屋に寄って買い食いなんかしてみたり。

「お前も食べてみろウェイン! 中々に美味しいじゃないか」

「――おっ、確かにこりゃあイケるな」

「何個でも食べられそうなぐらいだ!」

「まだ昼飯の前だからな、ほどほどにしとけよ」

「これぐらいはおやつ程度だ。それに今日は折角ウェインの奢りだからな」

「チッ、覚えてやがったか……」

「この私が忘れるわけないだろう。さて、何をご馳走して貰おうか……♪」

「あー……ほどほどに頼むぜ、そっちも」

 ……と、こんな風にあっちこっちフィーネに連れ回されていく。

 そんな中で、ウェインはふと感じていた。

 ――――今日のフィーネは、なんだか少し気を遣ってくれている。

 有無を言わさず引きずり回す強引さはいつも通りだが、でも少しだけ……普段より気遣ってくれているような気がする。

 それもそのはずだ。今日こうしてお出かけした目的は、ひとえにウェインの気分転換のためなのだから。

 最近はミシェルのことで頭を悩ませてばかりだった彼に、肩の力を抜かせようと……今日ぐらい気楽に過ごさせようと、彼女はかなり気を遣ってくれている。

「……ありがとよ」

 だからウェインは、隣を歩く彼女にポツリと小声で礼を言う。

 フィーネは「ん?」ときょとんした顔で振り向くが、しかしウェインは「気にするな」とだけ返す。

「よく分からんが……まあいい、次はあっちに行ってみよう!」

 そんな彼の手を掴んで、フィーネはまたどこかに向かって引っ張っていく。

 彼女にされるがまま、引きずられるがまま。ウェインは手を引く彼女に、またあっちこち連れ回されていくのだった。

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