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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『DANCE WITH CRISIS』
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第二章:CROSSING BLADES!/03

「おうフィーネ、上手く切り抜けたな」

「お前はやり過ぎだ……ウェイン、少しは手加減してやれ」

「下手な手加減は、却って相手に失礼になるってもんだろ? ――ほらよ」

「それはそうだがな。――うむ、すまんな」

 そんな初戦から少し後、試合を終えたウェインとフィーネはスタジアムの観客席に移っていた。

 自販機で買ってきたミネラルウォーターのペットボトルを彼女に手渡しつつ、ウェインがフィーネの横に腰掛ける。手にはキンキンに冷えた自分の分のペットボトルを握り締めていた。

「で、次はどいつだ?」

 パキッと封を切ったボトルを煽り、水を飲みながら問うウェイン。

 それにフィーネが「すぐに分かるさ」と言った直後――スタジアムのグラウンドに動きがあった。

 どうやら次の試合が始まるらしい。グラウンドの左右から、互いに向かい合うようにして二人の魔導士が入場してくるのが見える。

 片方は別のクラスの男子生徒だ。そしてもう片方はというと――――。

「……なんだ、アイツは?」

 思わずウェインがポツリと呟くほど、奇妙な雰囲気の奴だった。

 長身痩躯の男子だ。背丈はフレイアよりも高く、182センチぐらいか。金髪のオールバックで、フレームレスの眼鏡の下に覗く瞳はキッと鋭い切れ長のエメラルドグリーン。制服を着崩したその男子生徒は、なんというか……どうにも奇妙な雰囲気を漂わせていた。

「あの男、名前はミシェル・ヴィンセントといったか」

「同じクラス……だったよな?」

 問いかけるウェインに「うむ」とフィーネは頷き返す。

「奴のナイトメイルは……確か『ソードブレイカー』だったはずだ」

「フィーネ、お前は見たことあるのか?」

「お前が知らないもの、あるわけないだろう」

 隣のウェインにそう答えてから、

「しかし、この風は……」

 フィーネはボソリ、と小さく呟いていた。

 ――――としている間にも、対戦相手はナイトメイルを展開する。

 すると、対するあの青年――ミシェル・ヴィンセントも動く。

「あれは……十手(じって)か?」

 ミシェルが懐から取り出したのは、奇妙な武器だった。

 長い金属の棒、その手元に短い(かぎ)がついた独特なものだ。

「十手……ああ、確か風牙の国の武器だったな」

 それを見たフィーネが、思い出したように言う。

 ――――十手(じって)

 間違いない、あれは十手だ。風牙の国で大昔に使われていたもので、かつては警察組織の身分証代わりでもあったと聞いたことがある。

 その十手を、何故だか異国人であるはずのミシェルは持っていた。

 恐らくは、アレが彼のナイトメイルのスタンバイモードなのだろう。

「さぁて――――ひと暴れするかい、相棒」

 ミシェルがバッと十手をかざした瞬間、キィンっと閃光が瞬く。

 パッと一瞬だけ瞬いた、目も眩むほどの閃光。

 それが晴れたとき、グラウンドに立っていたのは――物々しい姿のナイトメイルだった。

『出たぁぁぁぁっ! ミシェル・ヴィンセントの『ソードブレイカー』だぁぁぁっ!!」

 ナイトメイルが現れると、歓声に混じって風牙の実況が木霊する。

 ――――『ソードブレイカー』。

 それが、この物々しいナイトメイルの名らしい。

 色は紺色、細身な胴体に分厚い鎧をまとったその姿は、どこか鎧武者を思わせるような無骨さだ。

 兜のような意匠の頭部に、ギラリと光る二つの眼。重く頑強な見た目ながら、その立ち姿はどこか飄々としていて掴みどころがない。

 パッと見は、気が抜けたような立ち姿だ。

 だが、気が抜けているのに不思議と隙がない。

 ――――間違いなく、奴はかなりの使い手だ。

 そんなソードブレイカーの立ち姿を見た瞬間、ウェインは自然とそれを悟っていた。

 武芸の達人なのか、それともナイトメイルを操る技量なのか。

 どちらにせよ、あのミシェル・ヴィンセントは……かなり腕の立つ魔導士のようだった。

『さあて、この戦いどちらが勝つのか! 目が離せない一戦だぁぁぁっ!』

『全くですね、担任としても結果が気になる対戦カードです。

 ……ではお二人とも、善き戦いを。――――戦闘開始(ファイツ・オン)!』

 エイジの号令を合図に、試合開始。

 その直後、真っ先に動いたのはソードブレイカー……ミシェルの方だった。

「さぁて、いくぜぃ」

 踏み込んだミシェルは、スタンバイモードと同じ形状の十手を召喚。それを右手に握り締めながら、対戦相手のナイトメイルの懐に潜り込んだ。

「あらよ……っと」

 そのあまりの踏み込みの速さに、対戦相手は反応し切れない。

 瞬時に懐へ潜り込んだミシェルは、相手の右手首をダンっと十手で叩きつつ、手に持っていた長剣を瞬時に絡めとって……バキン、とその刀身をへし折ってしまった。

 十手の(かぎ)に挟まれた刀身が、捻る動きに従って半ばからへし折れる。

 一瞬のうちに自分の得物がへし折られたのに相手が動揺した隙に、ミシェルは更なる攻撃を仕掛けていく。

 振り向きざまに肘打ちを食らわせて、更に首元に十手を滑らせながら……足払いを仕掛けて、相手のナイトメイルをうつ伏せに引き倒す。

 そうして相手を張り倒せば、ミシェルは十手を放り捨てた右手で新たな武器を召喚した。

 身の丈ほどもある、巨大な槍斧だ。

 長槍の先端に斧の刃がついている、といったら分かりやすいだろうか。

 確か、あの武器の名前は――『ハルバードランサー』。

 ウェインもフィーネも、潜入前にクラス全員の経歴やナイトメイルの概要は記憶している。だから彼が何を呼び出したのか、すぐに見当がついた。

 ミシェルはその槍斧『ハルバードランサー』を召喚すると、バッと振り下ろした切っ先を……相手のナイトメイル、その背中に触れるか触れないかの寸前でピタリと止めた。

「決着だ、そろそろ観念しろい」

 ……誰が見ても、勝負の行方は明らかだった。

 ハルバードランサーを突き付けられた対戦相手は、がっくりと力を失い降参の意思を示す。

『――――戦闘終了(ノック・イット・オフ)。勝者、ミシェル・ヴィンセント』

 そうすれば、響くのはミシェルの勝利を告げるエイジの号令。

 その号令が聞こえると、スタジアムに大歓声が響き始める。

「…………」

 だが盛り上がる観客たちとは裏腹に、腕組みをするウェインの顔はどこか渋かった。

「……気付いたか、お前も」

 そんな彼の様子に気付いたフィーネも、同じくシリアスな顔でポツリと言う。

 ウェインは「ああ」と頷き返して、

「あのミシェルって野郎、明らかに戦い慣れてやがる」

「それも実戦慣れ……と言いたいのだろう?」

 ―――――ナイトメイル同士の実戦は、基本的に起こりえない。

 大昔の、それこそ騎士の時代はともかくとして、現代ではナイトメイル同士の本気の実戦というのはほぼ無いに等しいのだ。

 そのため、ナイトメイルの決闘は実質的にスポーツ化しているといってもいい。

 だからどれだけ腕がいい魔導士だとしても、あくまでスポーツの域は出ていないのが大半だ。それこそウェインたちのようにゲイザーやDビーストと戦う特殊な職業でもない限り……普通は殺気みたいなものは出せない。

 ……が、彼からはその殺気が出ているように感じたのだ。

 ウェインは自分だけの勘違いかもと思ったが、しかしフィーネも感じている以上、間違いないだろう。

 あの時――相手の懐に飛び込んだその時からずっと、ミシェルからは殺気が出ていた。

 普通では分からないだろう。しかしスレイプニールのエージェントとして、何度も激戦を潜り抜けてきた二人には分かる。

 ミシェル・ヴィンセントは――どういうわけだか、実戦慣れした魔導士なのだ。

「……ま、こんなもんかね」

 それに気付いた二人が神妙な顔をしている間にも、ナイトメイルを消滅させたミシェルはグラウンドから歩き去っていくのだった。

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