第二章:CROSSING BLADES!/01
第二章:CROSSING BLADES!
――――それから刻が過ぎること、数週間後。
国立エーリス魔術学院で年二回執り行われる恒例行事、ナイトメイル競技会。その幕が上がる日が遂に訪れた。
開会式の会場となるスタジアムには、出場者とそのナイトメイルたちがズラリと肩を並べて勢揃いしている。その中には当然、ウェインたちの姿もあった。
グラウンドに立つ、翼を持つ白いナイトメイル――ファルシオン。
堂々たる出で立ちのその相棒の肩に乗って、ウェインはさあっと吹き込む風にその髪を靡かせていた。
そんな彼の隣には、無論フィーネと彼女の相棒ジークルーネの姿があって、更に横にはフレイアと彼女のデュランダルも。それ以外にも周りを見渡してみれば……見知った顔も、そうでない顔もあり。誰もが選び抜かれた猛者ばかりであることは、顔を見れば明らかだった。
『――――みぃぃなさぁぁん、おっまたせしましたぁぁぁぁっ!!』
そんな錚々たる面々が肩を並べるスタジアムに轟くのは、スピーカー越しに木霊する風牙の声だ。
『やって参りました年に二回のお楽しみぃぃっ! 我がエーリス魔術学院が誇るナイトメイル競技会! 待ちに待った時がいよいよ訪れようとしていまぁぁぁすっ!!』
……なんというか、今日の風牙はやたらハイテンションな気がする。
普段に輪をかけてやかましいというか、なんというか。だが風牙の開口一番の叫びで会場が一気に盛り上がり始めたのは間違いない。これなら確かに実況役にはピッタリだ。
『今回も実況はわたくし雪城風牙、審判兼解説はエイジ・モルガーナ先生でお送りしまぁぁすっ!』
『はい、エイジ・モルガーナです。皆さんよろしくお願いしますね』
『さぁぁぁぁて! ここに集うは全校生徒から選び抜かれた栄光ある猛者たちばかり! 始まりました開会式、まず最初はそんな皆の紹介と参りましょぉぉぉうっ!!』
風牙の張り上げた声を合図に、バシンとグラウンドにスポットライトが当てられる。
真っ先にスポットライトが当てられたのは――意外や意外、ジークルーネだった。
『まず一番手はジークルーネ! 目にも留まらぬ早業はまさに疾風迅雷! 必殺技は分身殺法ミラージュ・テンペストブレイク!! そんな疾風の騎士を駆るのは……誰もが心奪われる絶世の美少女、フィーネ・エクスクルードちゃんだぁぁぁっ!!』
〈ですって、お姉様。こうして言われるとなんだか気恥ずかしいですね〉
「気にするな。堂々としていればいいんだ、ルーネ」
〈そういうところ、お姉様は相変わらずですよね〉
「無論だ、私の目には常にウェインしか映っていないからな」
風牙の超ハイテンションな紹介が響き、続く歓声に包まれる中。フィーネはいつも通りの堂々とした態度のまま、ジークルーネの肩で穏やかな風に吹かれていた。
『……さあお次は金色の華麗な聖騎士! デュランダルだぁぁぁっ!!』
それから何騎かの紹介を経た後、次にスポットライトが当たるのはデュランダルだ。
『切れ味抜群のカーディナルソード、そして自慢のフォトンバスターライフルは超火力! 更にあらゆる攻撃を跳ね返す絶対防御の盾、ミラーリフレクターの変幻自在の動きを見切れるか!?
そんなデュランダルと共に戦うのは……優勝最有力候補、フレイア・エル・シュヴァリエだぁぁっ!!』
「ふふっ、ご期待には応えないといけませんね」
〈今回はボクたちで必ず勝つよ、フレイアっ!!〉
『えー……あとこれは超個人的なことなんですけども、俺的にはフレイアに一番勝って欲しいんすよねえ。えっ理由? ……おいおい、それを聞いちゃあ野暮ってもんだぜ』
〈お兄ちゃんっ! 余計なこと言わないっ!!〉
『うわぁぁっびっくりした!? 急に怒鳴るなよ天雷ぃぃっ!?』
『ははは……では雪城さん、続きを』
天雷――自分のナイトメイルに怒られた風牙にエイジは苦笑いをしつつ、逸れかけた話の流れを軌道修正。言われた風牙は『うっす』と頷き、ごほんと咳払いをした後で更に紹介を続けていく。
『さぁぁぁて皆さんご静粛にっ!! いよいよ最後の紹介となりましたぁぁぁっ!!』
そして、最後にスポットライトが当たるのは――――ファルシオンだ。
『天翔ける白き翼の魔導騎士、ファルシオン! 攻防一体のプラーナウィングはまさに天使の羽! バトルキャリバーの威力もハンパねえぜ! そして必殺技はあらゆるものを打ち砕く最強の一撃・ファルシオンブラスター! いやあ俺っちも喰らって酷い目にあったもんだぜ!!
そんなファルシオンを駆るのは……皆さんご存知! フィーネちゃんと一緒に流星の如く現れた転入生、ウェイン・スカイナイト!! その実力はあのフレイアに迫るほど! フィーネちゃん共々、盤面をひっくり返す大番狂わせのダークホースとなるのか……期待が高まるぜぇぇっ!!』
「……野郎、言ってくれるぜ」
〈勝ちましょう、やるからには目指すは優勝ただひとつのみです〉
「当然だろ、相棒?」
相棒ファルシオンの肩に乗り、腕組みをしながら不敵な笑みを浮かべるウェイン。
スポットライトに照らされながら浴びる大歓声は、思っていたよりもずっと心地いい。何より……この一際大きな歓声は、それだけ皆が期待してくれている証だ。ならばそれに応えてやろうという気持ちが、ウェインの闘志を一層激しく燃え上がらせていた。
『以上、全員が出揃ったところで……先生、ルール説明を頼んます』
『はい。……といってもルールは簡単です。競技会は勝ち抜きのトーナメント形式で、二ブロックに分けて行います。両ブロックから勝ち抜いた二人が優勝を懸けて決勝を戦う……といった感じですね。戦いの舞台となるアリーナエリアは対戦ごとにランダムで選ばれることになっています。毎年同じことですけれど、私の方から一応の確認でした』
エイジがいつもの爽やかな声でサッと説明を終えたタイミングで、スタジアムの大型ディスプレイにはトーナメント表が映し出された。
かなり細かいトーナメント表だ。参加人数は数十人……これだけの魔導士が勝ち抜きで競い合うのだから、仕方ない話ではあるが。
そんなトーナメント表を見ると、どうやらウェインはAブロックのようだ。フレイアも一緒で、フィーネは反対側のBブロックらしい。
「どうやら、お前との勝負は決勝戦までお預けのようだな」
トーナメント表を眺めていたウェインに、隣からフィーネが話しかけてくる。
浮かべるのはいつものように自信たっぷりな、彼女らしい表情だ。
「デザートは最後に取っとくもんだろ?」
そんなフィーネにウェインもニヤリと笑い返してやりつつ言ってやると、フィーネも「違いない」と笑い返してきてくれる。
「転入初日の模擬戦では良いところでお預けを喰らってしまったからな、今度は心ゆくまでお前と戦えるというわけだ」
「それまで負けるんじゃねえ……って、お前のことだから言いてえんだろ?」
「ふふっ、分かってるじゃないか。流石は私のウェインだな」
ウェインが先読みして言ってやれば、フィーネはふふっと嬉しそうな笑顔を浮かべて返す。
…………フィーネと戦うためには、何としても決勝戦まで勝ち抜く必要がある。
ということは即ち、何が何でもフレイアを倒さねばならないということでもあった。
模擬戦では見事に叩き斬られてしまった相手、ウェインとファルシオンが唯一の黒星を付けられた相手だ……勝てるかと言われれば、すぐにイエスとは答えられないのが現実だ。
……ならば、勝つまでのこと。
怖じ気づきはしない、むしろ余計に闘志が湧いてくるのをウェインは強く感じていた。
フレイアへのリベンジマッチで勝利し、決勝戦でフィーネと心ゆくまで戦うこと――――。
それこそが、たった今定まったばかりのウェインの目標。このナイトメイル競技会に臨む目的に他ならなかった。
『さぁぁぁぁて、それでは皆さんお待ちかね! ナイトメイル競技会の開幕だぁぁぁっ!!』
『……国立エーリス魔術学院、魔導士エイジ・モルガーナの名において、今年度上半期のナイトメイル競技会の開始を宣言します。……どうか皆さん、騎士として、魔導士として誇りある戦いを』
エイジの告げた開会の宣言に呼応するかのように、会場がわあっとここ一番の大歓声を上げる。
――――ナイトメイル競技会、開幕。
選び抜かれた魔導士たちがしのぎを削る、熾烈な戦いの日々……その幕が今まさに上がったのだった。




