第一章:プラーナの風が吹く/01
第一章:プラーナの風が吹く
「はい、あーんです♪」
「お、おう…………」
昼休みの食堂に、こんな甘酸っぱい声が響くのはもういつものこと。国立エーリス魔術学院の食堂棟で、ずいっと箸を伸ばして食べさせている金髪の少女――フレイア・エル・シュヴァリエと、そんな彼女に困惑しながらもされるがままになっている雪城風牙。二人のこんな光景は、なんだかんだともう見慣れた光景になってしまっていた。
フレイアの有無を言わさぬ勢いに押されて、彼女に食べさせられ続けている風牙。フレイアの想いを受け入れたといえ、一応は『友達以上、恋人未満から』だったはずなのだが……。
「完全にペースに乗せられてんな、アイツ」
ウェイン・スカイナイトはそんな熱々な二人の様子を眺めながら、そう思いつつ自分も箸を動かしている。
「ならば私も……ほらウェイン、口を開けろ」
とすれば、隣に座っていた相棒――銀髪の少女、フィーネ・エクスクルードも何を思ったのか、ずいっと自分の箸をウェインの方に押し付けてきた。
「変な対抗意識なんて燃やすなよ……」
「なんだ、私では嫌なのか?」
「そうじゃなくってよ……ああもう、勘弁してくれ」
呆れたように肩を竦めるウェインだったが、こんな風にきょとんとした顔でフィーネに返されてしまえば、もう何も言えずにただただ参るしかない。
……なんてやり取りを交わしている間にも、フレイアたちの方も相変わらずの調子で。
「さあ、次はこちらですよ風牙っ♪」
「あーいや、その……フレイア? 流石の俺っちでもさ、こういう公衆の面前だと大変お恥ずかしいと言いますか……だからその、ねえ?」
「? どうして恥ずかしがる必要があるんですか?」
「どうしてって訊かれても……っていうかお前は恥ずかしくないのお?」
「こういうことは変に隠すよりも、むしろ堂々としていた方が良いのです」
「そっかあ……………………」
「ですから風牙、ねっ? あーんしてくださいっ」
「フレイア? フレイアさん? 分かったからそう一気に押し込まないで――もごもごもご」
「ふふっ、慌てる必要はありません。時間はまだまだありますから……♪」
…………どう見ても、風牙が完全に尻に敷かれている。
普段はよく言えばムードメーカー、悪く言えばお調子者で、誰に対しても押せ押せなのが雪城風牙だ。
しかし、いざこうしてフレイアのペースに乗せられてしまえばこんな具合。アイツも押される側になると途端にしおらしくなるんだな……と、眺めるウェインはどこか新鮮な気持ちを抱いてしまう。
それほどまでに、今日の風牙はらしくないほどにフレイアに翻弄されっ放しだった。
「ところで風牙、今度の週末なんですが……二人で、どこかにお出かけしませんか?」
……と、そんな呑気なことをウェインが考えている最中にも、フレイアは風牙に誘いをかけていた。
もちろん、口に差し出す箸は止めないままでだ。
「――――ふむ、ならば私たちもどこか出掛けるとしようか。ウェインはどこがいい?」
するとフィーネもそれに乗じて、ウェインにそんな質問を投げかけてくる。
有無を言わさぬ勢いで押してくるフィーネとフレイア、それに押されまくるウェインと風牙。
それぞれ勢いに押されまくる中、男二人はなんとも言えない顔で静かに顔を見合わせた後。
「「勘弁してくれ…………」」
出来ることといえば、参ったように肩を竦めながら……特大の溜息をつくことだけだった。




