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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『DANCE WITH CRISIS』
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プロローグ:ゲイザーの影

 プロローグ:ゲイザーの影



「――――インヴィジリアの件について、報告は以上です」

 ノーティリア帝国の首都、帝都エルドラゴンの某所にある特務諜報部隊スレイプニールのオフィス。その一角にある局長執務室で、ニール・ビショップは椅子に腰掛けながら……デスクに据えられたモニタに映る、とある人物と話している最中だった。

 映っているのは、一目で高貴な出自と分かる青年の顔だ。

 長身痩躯で、髪は金色のストレートロング。憂いを秘めた切れ長の瞳はキラリと輝くエメラルドグリーンで、甘いマスクという喩えが相応しいほどの美形な顔立ち。白く透き通った肌を包み込むのは……高貴な血を引く者にしか着ることを許されない、煌びやかな装束だ。

『感謝する。この間の件はご苦労だった、緊急事態といえ随分と無理をさせてしまったな……ニール』

 その青年はにこやかな笑顔を浮かべながら、砕けた口調でニールに言う。

 ニールはそれに「構いませんよ」と薄い笑みを返しながら頷いて、

「それが我々の、スレイプニールの仕事ですからね――――陛下」

 と、モニタに映る青年に向かって言った。

 …………陛下。

 ニールは青年のことを確かにそう呼んだ。しかしこのノーティリア帝国でそんな名で呼ばれる人物は、昔も今も一人しか居ない。

 つまり――――この青年こそ、今の帝国を統べる皇帝その人なのだ。

 ――――レナード・フィン・ノーティリア。

 それが、このノーティリア帝国・現皇帝たる彼の名だった。

 一見するとニールが話すにはとても釣り合いの取れない相手にも見える組み合わせだが、しかしスレイプニールは皇帝直轄の極秘諜報チームだ。つまりレナードとニールは直接の上司と部下の関係ともいえる。だから一介の局長でしかない彼が、皇帝たるレナードとこうして直に話しているのも……何ら不思議なことではないのだ。

『ところで弟は……今、どんな様子だ?』

 一連の報告を聞き終えた後、レナードは少し表情を崩しながらニールに問いかける。

 ニールはそれに「今のところ、何も問題はありませんよ」とこちらも砕けた調子で返し、

「ウェインもフィーネも、学生生活はちゃあんと満喫しているみたいですから。陛下のご心配には及びません」

『そうか……』

 ニールの言葉に、レナードはどこかホッとした様子。

 そんな安堵した顔を見せながら、彼は続けてこうも呟いた。

『……任務は任務として、折角なら学生の時間も楽しんで欲しいものだ。私が弟に願うことといえば……それぐらいだからな』

「陛下が仰ったんですものね、アイツら二人にはちゃんとした学生生活を送って欲しい……ってのは」

 レナードはうむ、とニールの言葉に頷き返して。

『こんなこと、私のわがままかも知れないがな。だが……私が出来なかった分、弟にはちゃんと青春を味わって欲しかったんだ』

「そう言わんでください、気持ちは俺にもよく分かりますから。これでも一応、アイツらの親代わりのつもりですからね」

『親代わりなんて、ニール……そなたはもう立派な父親だ』

「そうですかねえ」

『少なくとも私には、そう見えるよ。そなたのような父親を持てて、少しウェインが羨ましいな』

 呟くレナードと、それに答えるニール。

 一見すると、とても皇帝との会話には見えないほど、二人とも肩の力を抜いて話していた。

 ……が、そんな会話も束の間のこと。小さく息をつくと、レナードは神妙な面持ちを浮かべながら……シリアスな声で問いかけてくる。

『あの二人が無事に過ごしているのだとしたら……ゲイザーは未だに動きを見せていないのだな?』

 ええ、とニールは短く肯定の意を返す。

「やっこさん、随分と用心深いみたいでしてね。こりゃあどうにも一筋縄じゃいきそうにないですよ」

『しかし……そなたのことだ、もう手は打ってあるのだろう?』

「もちろんですよ」

 ニヤリ、と不敵に笑んでニールが頷く。

「まだ尻尾は見せちゃくれませんが、いずれ見せるでしょうよ。そして……それを見逃すようなアイツじゃない」

『そうか……分かった、エーリスの件はそなたに一任する。ゲイザーが何を企んでいるかは分からないが……食い止めてみせろ、ニール・ビショップ』

「イエス・ユア・マジェスティ。ご期待に添えるように全力を尽くしますよ、陛下」

『ああ、それと――――ウェインのこと、弟のこと……くれぐれもよろしく頼んだ』

 最後に付け加えるように言って、レナードは向こうから通信を切った。

 プツンと切れたモニタから彼の顔が消える中、ニールはふぅ、と小さく息をついて。キィッと軋む椅子の背もたれに身体を預けながら……執務室の天井をぼうっと見つめながら「……言われなくても」とひとり呟いて。

「ウェインも、フィーネも……俺にとっちゃ実の子も同然なんだからな」

 なんてことを、誰に向けるでもなく……虚空に向かってひとりごちる。

 ……そうして呟きながら、同時に頭の中にある疑問が浮かび始めていた。

 それはゲイザーのこと……学園都市エーリスのどこかに潜んでいるという、超次元帝国ゲイザーと通じている内通者のこと。

「あんな得体の知れない存在に、一体何のつもりで……そもそも、どうやってゲイザーと繋がったんだ…………?」





(プロローグ『ゲイザーの影』了)

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