第二章:Kissは甘く切なく、愛おしく/01
第二章:Kissは甘く切なく、愛おしく
フィーネの突然のキスと、堂々とした皆への宣言。
その突拍子もなく意味不明な彼女の行動に、教室中のクラスメイトや傍らのエイジ、そしてウェインでさえもが無言のまま呆気に取られていた。
……が、ハッと正気を取り戻したエイジはコホン、と遠慮がちな咳払いをし。
「と、とにかく……ウェインさんとフィーネさん、お二人の席はあちらです。とりあえず……座ってください?」
戸惑いながらそう言って、遠くに指し示した席に座るよう二人に指示をした。
フィーネはそれにうむと頷くと、未だ呆然としたままのウェインの手を引っ張って指定された席に歩き、二人揃って着席する。
ちなみに位置は窓際列の最後尾と二番目、後ろがウェインで前がフィーネといった配置だ。中々良い場所の席だが……問題はそこじゃない。
「お、おいフィーネ! お前一体何してくれてんだよ!?」
着席するや否や、ウェインは前席のフィーネを小声で問い詰める。
当たり前すぎる反応だった。キスをしてきたフィーネはともかく、された側のウェインが混乱するのも当然のこと。しかし振り向いたフィーネは平然とした顔でそっと一言。
「お前を誰にも渡したくない、それじゃあ理由にならないか?」
なんて風に、恥じる素振りもなく答えてみせる。
そんな彼女の、なんというか彼女らしい反応に「勘弁してくれよ……」と、ウェインは思わず小さな溜息をついてしまう。
すると、溜息をつく彼をチラリと見たフィーネはふふっと楽しそうに笑い、
「キスのひとつやふたつ、別に減るものでもないし構わんだろう?」
と、どこか悪戯っぽい調子の声でウェインに言う。
言われれば、ウェインは「あのなあ……」と呆れて物も言えなくて。ただただ肩を竦めることしか出来ない。
「さ、さて。ではお二人の紹介も終わったところで、授業に移りましょうか」
そうしている内に、エイジはホームルームの時間を締めくくり、授業を始めていく。
「ほらウェイン、始まったぞ。話はここまでだ」
「へいへい……」
授業が始まれば、二人はとりあえず前に向き直り――――ちょっとしたトラブルはあったものの、あくまで普通の転入生として振る舞い始めるのだった。
…………尤も、既に普通とは遠くかけ離れてしまった気がするが。