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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『金色の姫騎士』
72/137

第五章:金色の姫騎士/03

「ッ――――!」

 ギラリと睨み付けるバスターライフルの銃口が閃いた瞬間、ウェインは本能的な回避機動を取る。

 真っ直ぐ飛びながら、ギュンっと捻り込んでのマニューバ。その機動の直後、ファルシオンのすぐ目の前を強烈なプラーナビームが掠めていく。

 まさに紙一重。純白の鎧がチリチリと微かに焦げるほどの至近距離を、プラーナビームが切り裂いていく。

〈ウェイン!〉

「おうよ!」

〈フレイア……っ!〉

「中々のようですね……予想以上です!」

 回避したウェインはそのままフレイアの懐に飛び込めば、振り被ったバトルキャリバーをザンッと振り下ろす。

 フレイアはそれを咄嗟に構えたバスターライフルで受け止めて防御。分厚いバトルキャリバーの刀身とライフルの銃身とがぶつかり合い、ガンッと激しい火花を散らす。

「しかし、その行動も想定済みですよ?」

 刃を受け止めたまま、フレイアは盾代わりにしたバスターライフルを明後日の方向に向かって撃つ。

 発射されたプラーナビームは無論、ファルシオンを傷付けることなく空を切るのみ。

 だが――――その射線の先には、既にミラーリフレクターが待ち構えていた。

「やらせは……せんっ!!」

 リフレクターの鏡に反射し、ギュンっと跳ね返ったプラーナビーム。

 反射したそれは無防備なウェインの背中を射抜こうとしていたが……しかし間に割って入ったフィーネがそれを防いでみせる。

「二度も三度も、同じ手が通じると思うな……!」

 光属性の防御魔術――フォトンシェードでビームを弾いたフィーネは、そのまま左手のアレスターチェーンを射出。浮かんでいたミラーリフレクターを絡め取ると、そのままチェーンを振り下ろしリフレクターを地面に叩き落とす。

〈あらら、落とされちゃったよ〉

「お二人とも、見事な連携です。――――しかし!」

 奇襲が失敗したのを見るや否や、フレイアはすぐに次の行動に打って出た。

 剣とライフルで鍔迫り合いになっていた眼前のウェインを蹴り飛ばし、その勢いを利用する形で後ろに下がったフレイアは……着地と同時にバスターライフルを構え、発射する。

「オラァッ!」

 無論そんな直球な手でどうにかなるウェインではなく、真っ直ぐ突っ込んできたプラーナビームをザンッとバトルキャリバーの刀身で受け止め、斬り払ってみせた。

 だが斬り払う一瞬、ウェインの足が止まる。

 その一瞬、ほんの僅かな硬直こそが――――フレイアの真の狙いだ!

「熱くなり過ぎた頭、冷やして差し上げましょう! ……スパイラル・ブリザァァァァドッ!!」

 ウェインが足を止めた僅かな隙を突いて、バッと左手を突き出したフレイア。

 すると……どういうわけか彼女の周囲に猛吹雪が発生する。

 突如として発生した超低温のブリザードは、そのまま目の前のウェインに叩きつけられて……その真っ白い鎧を、瞬時に凍り付かせていく。

〈ウェイン、これは……!?〉

「複合魔術まで使えんのかよ、アイツ……!?」

 超低温の嵐に包まれたファルシオンの足元が、僅か数秒でカチンコチンに氷結し固まってしまう。

 ――――『スパイラルブリザード』。

 フレイアが使用したその攻撃魔術は、複合魔術と呼ばれる高等テクニックで編み出されたものだった。

 組み合わせるのは風と氷の二属性。効果は見ての通り、超低温の猛吹雪を叩きつけて、相手を瞬時に凍り付かせるというもの。

 複合魔術はあまりに高度かつ繊細なテクニックが要求される特殊なもので、使いこなせる魔導士は世界中でもごく僅かしか居ないと言われているほどだ。

 そんな超高等テクニックを、こうも簡単に披露してみせるとは……フレイアの秘めた実力は、どうやらウェインの想像を遙かに超えたもののようだった。

〈動けない……これではいい的です!〉

「へっ、動けねえどころか……今に全身氷漬けになっちまうぜ……!」

 足元が氷で固まったせいで、ファルシオンはまるで身動きが取れていない。

 それどころか、氷結は加速度的にファルシオンの全身に回ろうとしているのだ。こうして話している間にも、足元だけ凍っていたはずが既に太腿の半ばあたりまでカチンコチンに固まってしまっている。

 このままでは、ファルシオンの言う通りいい的だ。

 だが……ウェインは苦い顔こそ浮かべども、決して焦ってはいなかった。

「――――フィーネ!」

 焦らなくても、すぐ傍には彼女が……頼れる相棒が居るのだから。

〈テンペストイリュージョン、発動! 決めてください……お姉様っ!〉

「ああ、行くぞルーネ!」

 フレイアがウェインを氷漬けにしている間に、フィーネは持ち前のスピードを生かして急加速。ビュンッと超高速で分身しながら、瞬時にフレイアの懐にまで飛び込んでいく。

「でやぁぁぁぁっ!!」

「ふっ……!」

 飛び込んだフィーネが斬り上げたレイピアと、防御のために構えたフレイアのバスターライフルとが激突する。

 だが、攻撃はそれだけで終わらない。

 超高速のスピードで何体もの影に分身したジークルーネ。その全てが、四方八方からフレイアに斬撃を仕掛けていく。

 これぞ神速の魔導騎士、ジークルーネの真骨頂だ。

 空戦能力ではファルシオンに遠く及ばなくても、地上での高速戦闘ならば……例えどんな相手にだって負けない、追いつかせない!

〈っ、ボクのスピードを軽く超えている……!?〉

「流石はフィーネさん、そしてジークルーネといったところでしょうか……これは少々、分が悪いですね……っ!!」

 さしものフレイアとデュランダルも、この音速を越えた超スピードでの多重攻撃には対応しきれないようで。巧みな動きでどうにか躱し続けているものの、金色の鎧にはもう何度も刃が掠めていた。

 このままスピードで翻弄し追い込めば、いずれフィーネが押し切るだろう。

 だが――――そのままやられっ放しでいるフレイアじゃなかった。

「この場合なら、パターン・エックスレイ! 構いません、私ごと撃ちなさい……風牙っ!!」

 フィーネの猛攻を捌きながら、虚空に向かって叫ぶフレイア。

 すると、ビルの陰から音もなく姿を現すのは……ライトニングアローを構えた伏兵、雪城風牙の天雷だ。

「騎兵隊の登場だぁぁっ! ……ホントに撃っちまってもいいんだな!?」

「構いません、存分にやりなさい!」

〈本人がああ言ってるんだから、気にせずブッ放しちゃいなさいよ!〉

「ああもう、どうなっても知らねえからな!?」

 くるんと宙返りしながら高層ビルの屋上に降り立った風牙は、眼下に向かって構えたライトニングアローに光の矢をギュッと(つが)える。

 それも、ただの光の矢じゃない。天雷の身の丈ほどもある……超巨大な、光の矢だ。

 ギリギリと弓を引き絞りながら、風牙は(つが)えたその巨大な光の矢にプラーナを、ビリビリと弾ける稲妻に変換したそれを注ぎ込む。

〈お兄ちゃん、今よっ!〉

「――――天の雷を思い知れ! ディスチャージ……アロォォォッ!!」

〈いっけぇぇぇぇ――――っ!!〉

 雷を纏ったその超巨大な光の矢を、風牙はバシュッと下方目掛けて撃ち放った。

 その射線上には、分身し斬り込むフィーネと……彼女と交戦中のフレイアの姿が。

 彼女は自分ごとフィーネを射抜かせるつもりなのだ。それが最も確実に勝利を得る方法だと判断した……故にフレイアは迷うことなく、自分ごとフィーネを風牙に倒させようとしたのだ。

 発射された光の矢は、超高速でジークルーネとデュランダル、交戦中の二騎に向かって飛んでいく。

 このままでは、どちらもタダでは済まないだろう。

 ――――だがこの状況、フレイアだけじゃなく……フィーネにとっても望むところだった。

「よし、奴が現れた……今だ、ウェインっ!」

「おうよ! 待ってましたってな……ブレイジング・ノヴァッ!!」

 フィーネの声に呼応し、ウェインもまた行動を開始する。

 既にスパイラルブリザードの猛吹雪は止んでいたが、しかしファルシオンは未だ両足が氷漬けで動けない。

 ……が、ウェインは火属性の攻撃魔術『ブレイジング・ノヴァ』を発動。自分の足元にぶわっと火柱を発生させると、噴き出したその灼熱で自分を焼いて……両足に纏わりついていた分厚い氷を、強引に溶かしてしまう。

〈ウェイン、まずはフィーネさんをっ!〉

「やらせるかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 そうして自由になったウェインは、すぐさまバッと背中の翼をはためかせて飛翔。瞬時に光の矢――『ディスチャージ・アロー』の射線上に割って入ると、今まさにフィーネとフレイアを二人まとめて射抜こうとしていた超巨大な光の矢をその身で受け止める。

「ぐぅぅ……っ!!」

〈踏ん張ってください、ここが正念場です……!〉

「お前に言われるまでもねえんだよ! 少しは黙ってろ……!!」

 盾代わりに構えたプラーナウィングで受け止めて、しばらく押されながらも……ウェインはどうにか光の矢を防ぎ切ってみせた。

 これで、フィーネは助かった――――!

「ウェインさん、貴方なんてことを……!?」

〈自分ごと氷を焼いちゃうなんて、クレイジーにも程があるよ……っ!?〉

 無論、ファルシオン自身も無傷とはいかない。

 自分で自分を焼いたのだ、足元が自由になったのと引き換えに……ウェインもまた、決して軽くはないダメージを負っている。

 その証拠に、ファルシオンの白い鎧にはあちこちに焼け焦げた跡が残っていた。

 それだけじゃない。ディスチャージ・アローを真っ正面から受け止めたせいで、真っ白いプラーナウィングの表面も大きく焼けてしまっている。受けた手傷を物語るように、今のファルシオンは傷だらけの様相を見せていた。

 ――――ああして氷漬けにしておけば、しばらくは動けないはず。

 そんな目論みだっただけに、フレイアはあまりに強引かつ力技なウェインの解決方法に目を丸くし、心底から驚いていた。

 当然、こんな早期にウェインが戦線復帰するのは彼女にとっても想定外だ。

 より厄介なファルシオンを氷漬けにして動きを封じ、その隙に風牙と二人がかりでフィーネを撃破。ウェインは後からゆっくりと料理する……フレイアはそういう算段で動いていた。

 …………が、その作戦は今この瞬間、完全に破綻した。

「いけない……! 逃げてください風牙、今すぐにっ!!」

 ならば今すべき行動は、まず真っ先に風牙を逃がすこと。

 ファルシオンかジークルーネか、どちらに絡まれても風牙は不利を強いられるだろう。今日の彼はあくまで支援役であって、あの二人と正面切って戦うことは想定していない。

 ……というよりも、一対一で戦ってもまず勝ち目はないのだ。

 ファルシオンは空中戦、ジークルーネは地上での超高速戦闘。どちらを相手にしたとしても、少なくとも今この状況に於いては……天雷の勝ち目はあまりに少ない。

 天雷は遠距離戦型のナイトメイルであるが故に、あの二騎との相性はすこぶる悪いのだ。あの決闘の時にファルシオンと互角に戦えたのは、何よりも狭いスタジアムだったから……機動力に優れたファルシオンにとって、不利な場所だったからでしかない。

 それでもこの仮想都市フィールドであれば、地形を利用した奇襲に徹すれば十分に勝ち目があるだろう。

 だが、今この状況……風牙の位置が完全にバレていて、なおかつフレイアが手出しできない状況下では……どう足掻いても、風牙に勝ち目はない。

 だからこそ、フレイアは必死の声で逃げろと彼に叫んでいた。

「ウェイン、奴は私が仕留めるっ!」

「野郎の相手は任せたぜ、フレイアは俺が面倒見らぁっ!!」

 しかし時すでに遅く、フレイアとの交戦から離脱したフィーネは再び超加速し、猛スピードで風牙の居る高層ビルの屋上まで駆け登っていく。

「待ちなさいっ!」

「おおっと、俺を忘れてくれんなよ!」

 追撃しようとするフレイアだったが、しかしその前にウェインが立ち塞がる。

 その間にも、フィーネは一気にビルの外壁を駆け登って……遂に屋上、風牙の眼前に躍り出る。

「貰ったぞ、風牙ッ!」

「ヤバヤバヤバヤバ、マジヤバすぎんだろってオイ!?」

〈いいから逃げてお兄ちゃん!〉

「わーってらい! 三十六計逃げるに如かずってなぁぁぁっ!?」

「はぁぁぁぁっ!!」

 飛び上がりながらフィーネが閃かせたミラージュレイピアの切っ先を、風牙は焦りまくりながらもギリギリで回避。ひゅんっと細い切っ先がすぐ目の前を掠める中……風牙は慌ててビルの屋上から飛び降りる。

 結構な高さから自由落下した風牙は、そのまま片側三車線の幹線道路に着地。しかしフィーネの追撃は止まらず、何度も斬り掛かられては必死に逃げ続ける。

「ええいちょこまかと! 逃げるな風牙っ!!」

「ひえええ!? 勘弁してくれええええ!?」

「逃げるんじゃない!」

「俺は追われるよりも追う方が好きなタイプなのぉぉぉっ!?」

「何をわけの分からないことを……っ!」

 道路を全速力で走りながら、あっちこっちと逃げ回る風牙。

 そんな彼をフィーネは追撃しながら、何度も何度も斬りつける。風牙が妙な動きをするせいで致命傷は与えられていなかったが、しかし天雷のオレンジ色の鎧にはもう何ヶ所も鋭い刀傷が付いていた。

「っ、風牙……っ!」

〈早く助けないと、ヤバいんじゃないかなっ!?〉

「分かっています! ですが……こちらもこちらで!」

 あの調子では、いつ撃破されてもおかしくないだろう。

 そんな風牙の様子を見るフレイアとて、彼を助けに行きたい気持ちはあったが……しかし今まさに斬り結んでいるウェインがそれを許してくれない。

「オラァァァッ!!」

「くっ……!?」

 ガンガンガン、と何度も力任せに叩きつけられるバトルキャリバーを、フレイアは盾代わりに構えたバスターライフルの砲身で受け止め続けている。

 このままではジリ貧だ、風牙がやられれば……フィーネもこちらに合流し、二人掛かりでフレイアを倒しにかかるだろう。

 そうなってしまえば、流石のフレイアも勝機を見出せない。支援役の風牙が居なければ、幾らフレイアでもこの二人を相手にたった一人で戦い抜くことは……不可能だ。

 ――――ならば、次に取るべき一手は。

〈フレイア!〉

「こうなれば、あの手を使うしかありませんね……!」

 叫ぶデュランダルに言われるまでもなく、フレイアの頭は次の選択肢を決めていた。

「っ……!」

 猛攻を仕掛けてくるウェインをまた蹴っ飛ばし、僅かに間合いを取ってから構えるのは……右手のバスターライフル。

「まずは貴方を引き剥がす……マキシマムチャージ・シュートッ!!」

 そのまま間髪置かずにトリガーを引き、銃口から猛烈なプラーナビームを発射。

「当たるかよ、そんなもん!」

 無論、その一撃をウェインは容易く回避してみせる。

「まだです……デュランダルッ!!」

〈ウィルコ! 任せてフレイア! リフレクター・フルマニューバ!!〉

 だが避けられるのは最初から織り込み済みだ。既にウェインの背後にはミラーリフレクターが配置してあり、彼が回避したビームはそのリフレクターがバシュンと反射する。

「ッ、またかよワンパターンだな!」

〈いえ、待ってくださいウェイン! これは……違うっ!!〉

 それを見て、また背中を撃つ気かとウェインは思った。

 だが……どうやら様子が違う。そのことにファルシオンが気付くのと同時に、ウェインは妙な光景を目の当たりにしていた。

「どうなってやがる、リフレクター同士で弾き合ってるのか……?」

 ――――複数のミラーリフレクターが、今弾いたビームを互いに弾き合っているのだ。

 あちらこちらの空中に配置されたリフレクターが、さっきウェインの背後で反射したビームをあっちこっちへと弾き合っている。

 その光景は、まるでビームが生きているような錯覚すらウェインに抱かせた。

 空中を、まるで蛇のようにあっちこっちへ這いまわるプラーナビーム。

 その奇妙な光景を、ウェインは意味が分からず呆然と見上げていたが……しかし、ふとした瞬間にハッとその真意に気が付いた。

「まさか――――っ!!」

〈狙いは……フィーネさんですかっ!!〉

 そう、あの一撃は決してウェインを狙ったものではなかった。

 真に狙い定めた相手は――――フィーネだ。

 今まさに風牙を追い詰めている彼女を、まさかフレイアが放っておくはずもない。そうさせないためにウェインが張り付いていたのだが……しかし、これは盲点だった。

 確かにああして複数のリフレクターを使って反射しまくれば、理論上は今の位置からでもフィーネをピンポイントで狙撃できるはずだ。

 何故、そのことに気付かなかったのか。

 ウェインは己の迂闊さを悔やんだが、しかし今すべきことは後悔じゃない――――!!

〈この距離、間に合うかどうか……っ!?〉

「間に合わせなきゃなんねえだろうが! ――――プラーナウィィングッ!!」

 フレイアの真の意図に気付いた瞬間、ウェインは即座に翼をはためかせて急上昇。そのまま全速力で飛翔し、空中を反射で這いまわるビームを追いかけていく。

「風牙、これで最後だっ!!」

「どひいいいいい!?」

 反射を続けたプラーナビームが、遂にフィーネの頭上から降り注ぐ。

 しかしそのことを知らぬまま、フィーネは風牙にトドメを刺さんと、今まさにミラージュレイピアを構えたところで。呼びかけたとしても……とてもじゃないが、回避なんて間に合いそうもない。

 ――――ならば、イチかバチかに賭けるしかない!

「うおおおおおおおっ!!」

 限界ギリギリのスピードで突っ込んだウェインは、そのまま彼女の頭上に滑り込んで……フィーネにビームが直撃する寸前、それをどうにか受け止めてみせた。

 盾にしたプラーナウィングの表面で、降ってきたビームがバシュンとはじけ飛ぶ。

 …………本当に、ギリギリのタイミングだった。

 もしも数秒でも遅れていたら、庇い切れなかっただろう。ファルシオンの高い空中機動力があったからこそ出来た離れ業だ。

「っ……!?」

 突然滑り込んできたファルシオンと、彼が受け止めて弾いたビーム。

 それを見上げながら、フィーネは一瞬驚いた様子だったが……しかし瞬時に全てを理解すると、ホッと胸を撫で下ろす。

「すまんなウェイン、助けられたみたいだな」

「フレイアの奴、ホントに滅茶苦茶しやがるな……ギリギリだったぜ」

 ミラージュレイピアを構えるフィーネと、滞空するウェイン。

 互いに背中合わせになりながら、フィーネが彼に礼を言う。今の一瞬で風牙には逃げられてしまったが……しかし、無事だっただけでも儲けものだ。

「ふふっ……♪」

 そんな二人の姿を――少し離れたビルの屋上から見下ろしながら、フレイアは微笑みを浮かべていて。

「結果的にですが、風牙は良い位置にフィーネさんを誘導してくれました」

〈でも、まさか本当にこの手を使うことになるとはね〉

「それだけの相手ということです、お二人は」

 デュランダルと言葉を交わしながら、嬉しそうに微笑を浮かべるフレイア。

 すると彼女は、おもむろに左手をスッと天に掲げて――――。

「――――今です!」

 その左手がバッと振り下ろされた瞬間、ズシンと仮想都市フィールドに大きな地響きが鳴り響いた。

「な、なんだ急に……!?」

「……! いかんウェイン、足元だっ!?」

「おいおいおいおい……マジかよ、崩れ始めてやがるっ!?」

 ゴゴゴゴ、と地響きが鳴り始めると……するとどういうわけか、ウェインとフィーネ、二人の足元が突然崩れ始めた。

 踏み締めていたアスファルトの地面が、ガラガラと音を立てて崩落を始める。

 そうして崩壊を始めた地面に穿たれるのは、クレーターのように大きな縦穴。まるで落とし穴のように開いたその奈落の底に……二騎が吸い込まれるように落ちていく。

 ――――フレイアの、仕込み。

 足を取られて落下する二人は知るよしもなかったが、これは何も自然に起こった事故ではない。フレイアが仕掛けた罠……風牙とこの仮想都市フィールドで仕込んだトラップの正体が、この地面の崩落だったのだ。

「これがお前の切り札か、フレイア……っ!」

 崩落した穴に落下しながら、歯噛みしてウェインが呟く。

 呟きながら、プラーナウィングをはためかせて飛翔したウェインはどうにか体勢を立て直すが……。

「ウェイン……っ!!」

 しかしその傍らで、フィーネは崩落した地面の底に落ちていく。

 ――――ジークルーネは、空を飛べない。

 飛翔できるファルシオンと違い、彼女のジークルーネは空を飛べないのだ。

 故に彼女は……何も出来ずに、ただ落下することしか出来ない。

「お前だけを置いてくわけねえだろうが……フィーネっ!!」

 そんな落ちていくフィーネに向かって、ウェインは迷わずに急降下。ガッと彼女の手を掴めば、そのまま引っ張り上げようとしたが。

「ファルシオンの主戦場は空の上。ならば――――逃がしはしません、空中には!」

 再び左手を振り下ろせば、フレイアは更なるトラップを起動した。

 ドドドン、とどこかで派手に弾ける音がする。まるで花火のような、火薬が弾ける音にも似た乾いた爆音が。

 そうすれば、それから数秒置いてバンッと何かが砕けた音がした。

 すると……頭上を見上げたウェインの目に映ったのは、想像を絶する光景で。

「おいおい……いくらなんでもやり過ぎだろ?」

 バンッと破裂音が響いた瞬間、崩落した穴の周りにあった全てのビルが……同時に倒壊。ガラガラと倒れ込んできたビルが、降り注ぐ無数の瓦礫が二人に降り注いで……そのまま奈落に蓋をするかのように、崩れたビルが二騎を生き埋めにしてしまったのだった。

 仮想都市フィールドに巻き上がった派手な土埃の中に、二騎の姿が消えていく。

 やがて晴れていくその土埃の向こう側に、もうファルシオンやジークルーネの姿はなく。そこにあるのは崩落したビルと、大きく積み上がった瓦礫の山だけ。

「……お見事です、私にこの作戦を使わせるとは」

 そんな景色を遠くから見つめながら、フレイアは……目を細めて、ただ一人呟いていた。





(第五章『金色の姫騎士』了)

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