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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『金色の姫騎士』
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第四章:ダブルデート・アタック!/04

 そうして午前中いっぱい遊園地で遊びまわっている内に、なんだか空腹を覚えてきた四人は食事を摂ることにした。

 気付けばもうお昼時、お腹が減って当然の頃合いだ。

 だからフレイアたちは昼食を摂るべく、園内にある適当なレストランに入っていく。

 流石に正午の時間帯だけあって割と混んでいたが、でも運の良いことに待ち時間は僅か十分程度で済み、すぐに店内に通された。

 レストランの隅にある四人掛けのボックス席に座り、四人それぞれ今日のメニューを注文する。

 そうして――――料理がやって来るのを待っている間のことだった。

「フレイア、少し話をしても構わないか?」

 風牙とウェインがそれぞれ別の用事で席を立ち、たまたまタイミングよくフレイアと二人きりになった時だ。意を決したフィーネは、対面に座るフレイアにそう言って話を切り出していた。

「はい、構いませんけれど……お話って?」

「お前と風牙のことだ」

 きょとん、と首を傾げるフレイアに、フィーネは直球な言葉を投げかける。

「以前、お前に言ったことを覚えているか?」

「それは……私が風牙のことを、という?」

 話の方向性を悟ったフレイアが小さく呟くと、フィーネはうむと頷いて肯定する。

「あの時はそうじゃない、とお前は否定したな」

「……ええ。私にとって風牙はただの幼馴染、それ以上でもそれ以下でもありませんから。私があの子に対して……恋慕の情、を抱いているというのは、フィーネさんの思い違いです」

「だが、やはり私にはそうは思えんのだ」

「……と、仰いますと?」

 少しだけシリアスな顔と声音で訊き返すフレイアに、フィーネは「ううむ……」と腕組みをしながら小さく唸ると。

「今日までの間、お前と風牙のことを観察させてもらった。お前たちの様子を見ていると……やっぱり、私の目にはそう見えるんだ。風牙の奴はともかくとして、少なくともフレイア……お前は」

「ふふっ……だとしたら、それも気のせいですよ。ウェインさんも仰っていたじゃないですか、例え当たる勘でも外れる時だってある、と」

 いつも通りの柔らかい微笑をニコリと上辺に浮かべながら、やんわりと否定して受け流そうとするフレイア。

 普通なら、フィーネもここで退いていただろう。

 しかしフィーネは対面に座った彼女の瞳を真っ直ぐに見据えながら、一言。

「――――いや、気のせいなんかじゃない」

 と、またストレートな言葉を投げかけた。

「そんなこと……」

 ない、と即座に否定することは出来なかった。

 そんなことない、あり得ない、それはフィーネの勘違いだ。

 喉元まで出かかっていた言葉が、しかし胸によぎったあの日の言葉に――今まさに目の前に居る、フィーネの言葉に遮られてしまう。

『私の見立てが正しければ、むしろお前の方がアイツのことを……』

 胸の奥底に、棘みたいに引っ掛かっていた言葉。その一言が(くさび)となって、フレイアの喉元まで出かかっていた否定のワードを押さえつけてしまう。

「…………」

 ない、と否定できない。でもそれ以上の言葉も紡ぎ出せない。

 だからかフレイアは――そんな自分自身に驚いたのか、エメラルドグリーンの瞳を見開いたまま黙りこくってしまう。

 そんな彼女の反応を見て、フィーネは小さく肩を揺らしながら。

「……やはり、気付いていなかったか」

 と、独り言のように小さく呟いた。

「何となく、そんな気はしていたよ。お前の心は間違いなくアイツに向いている、だが違うといった言葉も嘘と思えなかった。だから……フレイア、お前自身も自覚していないんだとは思っていた」

「……そんな、私が、風牙のことを…………?」

「考えてみろ、心当たり……あるんじゃないのか?」

 落ち着いた口調で、そっと諭すように問いかけてくるフィーネ。

 そんな彼女に、フレイアはまた首を横に振れなかった。

 ――――確かに、心当たりはある。

 決闘の時だって、この間行った仮想都市フィールドでだって。それだけじゃない、今だって……無意識の内に、気付けば彼のことばかり目で追っている自分が居る。

 そのことに、フレイアは気付いてしまった。

 いいや――前から分かってはいた。でも自分で自分を誤魔化し続けていただけなのだ。自分は風牙にそんな想いは抱いていない、自分と彼はただの幼馴染で、それだけなのだ……と、そう強く思い込むことで。

 それは全て無意識でのこと、無自覚な中でのことだった。彼のことばかり目で追うのも、彼のことばかり気になってしまうのも。でもその全てが幼馴染だからと誤魔化していたことも――――全て、自覚のないままのことだった。

 ――――でも、今はどうだ?

 フィーネに真っ直ぐ言われて、ハッとした自分は……それでもまだ、彼をただの幼馴染だと言えるのだろうか?

 分からない、少なくとも今は否定も肯定も出来ない。

(……どうして、こんなに胸が苦しいのでしょう)

 きゅっと締め付けられるような切ない感覚が、胸の奥深く……それこそ裏側から伝わってくるような気さえしてしまう。

 でも、この感覚から目を逸らしてはいけない。

 何故だか分からないけれど、でも自然とフレイアはそう思っていた。きっとこれが最後のチャンス、だから……この痛みから目を逸らしてはいけない、逃げてはいけないのだと。

「…………私が風牙と出会ったのは、まだ物心も付かないような幼い頃でした」

 そう思えばこそ、フレイアはか細い声でそっと呟き始めていた。

 彼女が語り始めたそれは、自分の過去のこと。ポツリポツリと呟く彼女の言葉に、フィーネはただ黙って耳を傾ける。

「私たちがどういう家柄なのかはご存知でしょう。私はシュヴァリエ家の跡取り娘、風牙は世界的な大企業、雪城コンツェルンの御曹司……私たちが出会ったのは、両親に連れて行かれた社交パーティだったそうです」

「……だろうな、お前たちらしい」

「周りが皆大人ばかりの中でしたから、きっと自然に仲良くなったんだと思います。それからは……本当に、文字通りの幼馴染のような感じで。よく色んなことを話したり、大人たちの目を盗んで遊びに連れて行って貰ったりしていました」

「さっき、モノレールで話していたことか」

 呟くフィーネに「……はい」とフレイアは小さく頷き返す。

「思えば、フィーネさんの言う通りなのかも知れません。今までは考えもしませんでしたけれど……でも、ふとした時にあの子のことを考えている私が居るんです。それこそ毎日、気付かない内に私は風牙のことばかり考えていて……それが、貴女の仰るような恋慕の情、なのでしょうか?」

「……きっと、な」

「でも……仮にそうだとしても、私には出来ません」

「それは、お前たちの家柄があるからか?」

 フィーネの問いに、はいとフレイアは静かに頷き返して肯定する。

「私はシュヴァリエ家、風牙は雪城コンツェルン。私も風牙も、お互いの立場や家柄があります。ああいう世界は煌びやかに見えるかも知れませんけれど、でも……蓋を開けてみればしがらみだらけですから」

「……だからお前は、無意識に自分の想いを隠していたというわけか」

「かも、知れませんね。現にやっと自覚できた今でも……お互いのことを思うと、やっぱりあの子に伝えることは出来ませんから」

 ふふっ、といつものような微笑を――目を逸らしながら、悲しそうな顔で浮かべるフレイア。

 あの顔は、きっと何もかもを諦めた顔だ。やっと自覚できた想いですらも、また心の奥底に封じ込めてしまおうとしている……悲壮な覚悟を秘めた、諦めの表情。

 そんな彼女の悲しそうな顔を見ている内に、なんだかフィーネは無性に腹が立ってきてしまって。

「――――だから、どうしたというんだ?」

 思わず少しだけ強い語気で、言ってしまっていた。

「えっ……?」

 思いもよらない鋭い彼女の一言に、フレイアは目を見開いて驚いている。

 そんな彼女の反応を見て、フィーネはしまったと思いつつも……でもここまで言ってしまったのだから、もう構うものかと振り切って。目の前にあるエメラルドグリーンの瞳をじっと真っ直ぐ見つめながら、あくまで冷静な声でフレイアに言ってやる。

「互いの立場、互いの家柄、それを(おもんばか)るお前の気持ちはよく分かる。それは確かに正しいことかもしれない。少なくともお前の立場なら、きっとそれが一番正しい選択なのだろうな」

「……でしたら」

「だが、お前自身の気持ちはどうなる? お前は風牙のことをどう思っているんだ? ええいまどろっこしい、ハッキリ口に出して言ってみろ。お前は風牙が好きなのか、嫌いなのか? どっちなんだ――――フレイア」

「私、は……」

 フレイアは一瞬言い淀んで、フィーネから目を逸らす。

 しかし、僅かに瞼を閉じると――目を開き、真っ直ぐにフィーネを見つめ返しながら。

「…………好き、なんだと思います。でなければ、こんなに迷いはしませんから」

 と、尚も曖昧な色を残しつつも……ハッキリとそう言ってみせた。

 そうすれば、フィーネは満足げに微笑んで。

「だったら迷うな、しがらみなんか全部捨ててしまえ。お前がアイツを好きだと思うのなら、その気持ちのまま真っ直ぐ突っ走ればいいんだ。立場に家柄がなんだ、邪魔ならば全て斬り捨てて、壊してしまえばいい。お前にとって本当にアイツが大切なら――邪魔なもの全部、叩き壊す覚悟を決めろ」

 立場に家柄、しがらみなんて邪魔なもの、全部斬り捨てて壊してしまえばいい。

 それは、ある意味でどこまでもフィーネらしい言葉で。それを聞いたフレイアはまた驚いたように目を見開いた後……くすっと吹き出してしまっていた。

「なんだ、何がおかしい?」

 そんな彼女にフィーネが首を傾げると、フレイアは小さく笑いながら。

「いえ……フィーネさんらしいな、と思って」

 と言うと、少し咳払いをした後に改めて彼女の方に向き直って。

「……フィーネさん?」

 静かに、対面の彼女に問いかける。

「私も、お二人のようになれるでしょうか……?」

 その言葉に、フィーネは「ああ、きっとな」と表情を綻ばせながら頷く。

「後はお前次第だ。とりあえず今日はやれるだけやってみたらどうだ? 私は全力で応援するぞ」

「ふふっ……考えてみます。フィーネさんって……本当に、お優しい方なんですね」

「放っておけないだけだ、お前を」

 言って、フィーネは少しの間を置いてから。

「……お前はなんだか、昔の私によく似ている気がするからな」

 と、少しだけ遠い目をしてポツリと呟いた。

「似ている……フィーネさんと私が、ですか?」

「何となくだ」

 きょとんと不思議そうに首を傾げたフレイアに、フィーネは短くそう返して。

「とにかくだ、お前はもう少し……自分に正直になってみても良いんじゃないか?」

 最後にそう、彼女にアドバイスじみた言葉を投げかけたのだった。

 ――――としたところで、席を外していた男連中がやっとこさ帰ってきて。ほどなくウェイターが食事を運んできたから、二人の話はうやむやなままに終わってしまう。

 さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやら、何事もなかったかのように、いつもの騒がしい調子で昼食を摂る四人。

 そうして皆で食事を摂りながら……フレイアはそっと、心の内でフィーネが言った言葉を噛みしめていた。

(もう少し、自分に正直に……なれるのでしょうか、私は)

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