第一章:少女の抱く想いと、月夜に祈る願いと/06
「――――週末、ご一緒にお出かけしませんか?」
それは、二日後のある休み時間のことだった。
机でフィーネが次の授業の準備をしている最中、とことことやって来たフレイアが突然そんな誘いを持ち掛けてきた。
ちなみに、今この場にウェインは居合わせていない。所用があるとかで教室を出ているのだ。
どうやら風牙も似たような感じらしく、野暮用とかなんとか言って廊下に出て行くのをさっき見かけている。だからフィーネは今フレイアと二人きりの状況だった。
「珍しいな、お前から誘ってくるなんて」
言われたフィーネはきょとん、と意外そうな顔でフレイアを見上げる。
するとフレイアはふふっと小さく笑って、
「実を言うと私、誰かと一緒に街へ出たことがないんです。というよりも……お友達とどこかに遊びに出掛けることがなかった、と言うべきでしょうか」
「ほう……?」
「その、フィーネさんもご存じのことですけれど……私の場合は家柄もありましたから、誘ってくださる方も居なかったんです。でも折角こうしてお友達になれたのですから、一度行ってみたかったんです。その……ご迷惑、でしたか?」
どこか恐る恐るといった風に確認するフレイアに、フィーネは「いや」と首を横に振り返す。
「迷惑なものか、私で良いのなら付き合おう」
「本当ですか? でしたらウェインさんも是非ご一緒に……」
「ウェインもか?」
ここで意外な名前が出てきた。
誘われたフィーネとしては、てっきり彼女と二人で女子会っぽく行くのかと思っていたから、まさかここで彼の名前まで出てくるとは思ってもみなかった。
だからフィーネはまたきょとんと意外そうな顔で首を傾げる。
するとフレイアは「はい」と頷いて、
「風牙も誘おうと思っています。折角なら大勢で行った方が、賑やかで楽しいと思ったのですが……どうでしょう?」
そう言う彼女に、フィーネは「ふむ……」と顎に手を当てて少しだけ思案した後。
「……ま、良いだろう。ウェインには私から伝えておくよ」
と、彼の同行も――――ウェイン本人の承諾は一切得ないまま、構わないと答えた。
そんな具合にウェインの週末の予定も勝手に決めてしまった後で、フィーネは独りふっと小さく笑い。
「私とウェインに、お前と風牙か。これは……つまり俗に言うダブルデート、ということになるな」
いやそれは違うだろう、とこの場にウェインが居たならきっと突っ込んでいたに違いない。
しかしこの場に彼は居らず、フィーネの斜め上な発言にフレイアは「ふふっ……♪」と笑い返して。
「ダブルデートだなんて、そんな……お二人はともかく、私たちはそういう関係じゃありませんよ?」
と、いつものように柔らかな微笑みで――でも微かに頬を朱に染めた、気恥ずかしそうな態度でそっと呟く。
そんな様子のフレイアに対し、フィーネは目を細めて一言。
「さて、それはどうだろうな……?」
なんて風に、どこか含みを持たせたような言葉を返してやった。
――――とまあこんな風に、男二人の承諾は一切得ないまま、今週末は四人でダブルデート……もとい、市街エリアにお出かけをすることになったのだった。




