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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』
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エピローグ:Kiss me...Dear my princess.

 エピローグ:Kiss me...Dear my princess.



「――――ってことで、どうにか決闘にゃ勝ってきたぜ」

「相変わらず、無茶ばかりだったがな」

「そう言うなよ、多少の無茶はしないと勝てねえ相手だったんだよ」

『はっはっは……ま、とりあえず勝てたんなら良かったじゃないか。これで俺も一安心だよ』

 それから数時間後の夕暮れ時、学生寮の203号室で……ウェインとフィーネの二人は、通信機を使ってニールに結果報告をしていた。

 通信機のモニタの向こうでホッと胸を撫で下ろし、安堵しながら言うニールに、ウェインが「なんでおっさんがホッとしてんだよ」と言えば、ニールはそれに『当たり前だろ』と返す。

『俺はな、これでもお前たち二人の親代わりのつもりなんだ。ましてフィーネが他の誰かに取られかけたなんて……気が気じゃなかったんだよ、俺としてはな』

 ――――ニールが、二人の親代わり。

 言われなくても、二人ともよく分かっているつもりだ。家を飛び出してきたウェインと、家族をゲイザーに奪われたフィーネ。そんな二人にとって、ニール・ビショップは実の親も同然な……そんな男なのだから。

「……悪かったよ、俺たちのせいでおっさんに要らん心労かけちまったな」

 だから、ウェインは素直すぎるぐらいにニールに詫びる。

 そんな彼の謝罪に、ニールはフッと小さく笑うと。

『勝ったならチャラだ、気にするな』

 と、口角を緩ませながら言う。

『ただし! 次はもう勘弁してくれよ? 俺の胃と毛根もそろそろストレスで限界かも知れんからな』

「あってたまるかってんだ。あんな意味分かんねえ喧嘩吹っ掛けてくるような馬鹿、風牙の野郎以外に居てたまるか」

 続けてニールが冗談っぽくうそぶけば、ウェインも参ったように大きく肩を竦めて返す。

 そんなウェインの横で、フィーネもうむと小さく頷けば。

「私だって勘弁して欲しい。表には出さなかったが、私だって気が気じゃなかったんだ」

「っておい! そもそもフィーネが受けちまったからこうなったんだろ!?」

「うん、そうだったか?」

 即座に突っ込むウェインに、首を傾げてとぼけるフィーネ。

 わざとらしいにも程がある彼女に「ったく……」とウェインが呆れて頭を抱えれば、フィーネは表情を緩ませて。

「ふふっ、冗談だ」

 と、彼の肩をポンっと叩く。

「私はお前が勝つと信じていたし、初めから分かり切っていた。だから心配など微塵もしていない。でなければ、あんな勝負……初めから受けはしないさ」

「ホントかよ、それ……?」

「私がウェインに嘘をついたことがあったか?」

 ジトーっとした疑り深い目で見てくる彼に、フィーネが堂々と訊き返すと。するとウェインはうーんと少しだけ思い悩んだ後で。

「…………ねえな」

 頬杖を突きながら、ぷいっとそっぽを向きながら答えた。

『はははは、相変わらずだなお前らは』

 そんな二人のやり取りを見てニールは笑えば、コホンと咳払いをして。続けて二人にこうも言う。

『とにかく、決闘は無事に片付いたんだ。この後はバッチリ学生生活をエンジョイして貰いたいところだが……あくまでお前たちはエージェントだ。例の任務の方も忘れるんじゃないぞ?』

「わーってるよ、忘れちゃいねえって」

「それはそれ、これはこれ。学業は学業、任務は任務だ。心配しなくても本業だってちゃんとやる」

『なら結構。んじゃあ今日はこの辺でお開きだ。二人とも、今日はご苦労だったな』

 最後にそう言って笑うと、ニールは通信を終えた。

 プツンと通信機のモニタが暗くなれば、ウェインはふぅ、と疲れたように深く息をつく。

 隣のそんな彼を見て「疲れたか?」とフィーネが問うと、ウェインは「まあな」と頷き返す。

「…………」

 頷くウェインに、フィーネは何も言葉を返さないまま……隣に座る彼の横顔を、じっと見つめ続ける。

 そうして見つめられること数分。流石に気になってきたウェインが一言。

「……んだよ、俺の顔に何か付いてるのか?」

 と怪訝そうに訊いてみると、フィーネはいいや、と静かに首を横に振る。

 そして、フィーネはもう一度ウェインを真っ直ぐ見つめると。

「いや……そういえば、続きがまだだったと思い出してな」

「続き、って――――――っ!?」

 言って、きょとんとしたウェインを突然バッと押し倒せば――――彼に覆い被さるように、有無を言わさずに……フィーネはその唇を奪い取る。

 ふわりと銀色の髪が揺れて、鼻孔をくすぐるのはクチナシにも似た甘い匂い。すぐ目の前に急接近してきたのは、思わず呼吸すら忘れそうになるほどに美しい彼女の顔。

 今度は決闘前に見送った時みたいに、頬への軽いキスなんかじゃなく……あの日のように。皆の前で堂々と宣言した時のように――――唇を押し付ける、熱い口付けをフィーネは交わす。

 互いの呼吸が、鼓動すらもが伝わりそうなほどの至近距離で、唇同士を触れ合わせて……伝わるのは微かな息遣いと、どうしようもなく甘く切ない感触。

 遠くに聞こえるのは、放課後の喧騒。それ以外は奇妙なまでに静かな、しんとした穏やかな時間の中……互いに身体の芯から融け合うような甘い感触が続いたのは数秒か、数十秒か、それよりももっとずっと長い間か。

 永遠にも思えるほどに引き延ばされた、甘く切ないひとときは……しかしすぐに終わってしまって。そっと唇を離したフィーネは、頬を少しだけ朱色に染めた顔で……ウェインをじっと見つめる。

「……なんだよ、いきなり」

 見つめられながら、ウェインの口から出てきたのはいつも通りのぶっきらぼうな台詞。でもきっと顔はほんのり赤くなってしまっているはずだ。今目の前に居る、フィーネと同じように。

「知らなかったか? 私はいつだっていきなり仕掛ける女なんだ」

 そんな彼に、フィーネもまた普段通りの自信たっぷりな表情で言う。少しだけ照れくさそうに、頬を朱色に染めたまま。

「知ってるよ……知り過ぎてるよ、お前のことは」

「なら驚くな、この程度のことで。これはさっきの続きで、そしてお前へのご褒美なのだからな」

「ご褒美……ねえ?」

 ウェインを床に押し倒したまま、彼の腰辺りにぎゅっと馬乗りになったフィーネ。

 そんな彼女の顔を見上げながら、彼女と同じように頬を微かに赤くして、どこか照れくさそうにしながら……ウェインは呆れたように言う。

 すると、フィーネは「ふふっ……」と小さく微笑んで。

「お前以外に私の剣を預けるつもりはない、キスを奪わせるつもりもない。そして……お前は誰にも私を奪わせなかった。それがどうしようもなく嬉しくってな、ついご褒美をあげたくなってしまった……それだけのことだ」

「……ま、いいけどよ」

「――――ウェイン」

 フィーネは立ち上がり、馬乗りになっていた格好から少しだけ退くと。仰向けに寝転がったままのウェインにそっと手を差し伸べる。

「私はお前の剣であり盾なんだ。お前は何があっても私が守る……だから、不安がる必要なんてどこにもない。どれだけ難しくたって、出来て当たり前なんだ。今回の任務だってそうだ、きっと無事に完遂できる。私とお前が一緒なら……出来ないことなんて、何もないんだ。違うか?」

 自信満々、当然だと言わんばかりの顔で言って、そっと手を差し伸べてきたフィーネ。

 ウェインは彼女の顔を見上げながら、少しだけ驚いたような顔をすると……すぐにフッと小さく笑い、差し伸べられたフィーネの手をそっと握り返す。

「そうだな――――俺とフィーネなら、二人でなら何だって出来る。今までだって……そうだったよな」

 フィーネは彼の手をぎゅっと握り締めて、彼の身体をグッと引き起こし。そしてウェインの顔をすぐ目の前で、真っ直ぐに見つめながら……いつも通りの、どこまでも彼女らしい……自信満々な笑顔で言う。

「やるぞウェイン、私とお前の二人で。ここからが――――本当の始まりだ」

「…………あいよ」

 この先、どうなるかなんて誰にも分からない。

 でも、やるべきことはハッキリしている。スレイプニールのエージェントとして、一人の魔導士として。そして何よりも……他の誰でもない、自分自身として。

 茜色に染まる夕暮れ時の空、西の彼方から窓越しに夕陽が差し込む中、ウェインとフィーネは真っ直ぐに視線を交わし合い……互いにコツン、と小さく拳同士をぶつけ合う。

 そんな二人を、机の片隅に置かれていた白い短剣と銀色のペンダントが……夕陽に照らされ、重なり合った二騎のナイトメイルが静かに見守っていた――――――。





(Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』完)

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