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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』
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第十一章:ぶつけ合う拳の先に/02

「――――ウェイン!」

 それから少し後、グラウンドに立って互いを見合っていたウェインと風牙の元に、フィーネたちが駆け寄っていた。

「フィーネ……って、うおっ!?」

「よくやったな! 偉いぞウェイン! それでこそ私のウェインだっ!!」

「ばっ、急に抱き着くなよ!? 危ねえだろうがっ!?」

 真っ先に駆けこんできたフィーネが、殆ど突進するような勢いで真っ直ぐにウェインに飛び込んでいく。

 全速力で抱き着かれたウェインが思わず転びそうになりつつ、どうにか彼女を受け止めたところで……フレイアも追いついてくる。

「……風牙、よく頑張りましたね」

 そうすれば、フレイアは風牙の傍でゆっくりと膝を折り、座り込んだ彼の傍にそっと寄り添って。

「本当に……よく、頑張りました」

 すると彼女は、フィーネのように風牙を……強く、その胸に抱き寄せた。

「お、おいフレイア……なんだよ、急に」

「何も言わないでください。今は……こうさせていてください」

 戸惑いがちな風牙を、ボロボロの彼を強く抱き締めるフレイア。

 そんな彼女に妙な対抗心を燃やしてか、フィーネも何故かウェインの身体に回した腕の力を強めてくる。ウェインが「痛いっての」と言っても「うるさい」と一蹴する辺り、彼女らしいといえばらしいか。

「……負けちまったなあ、見事によ」

「俺もボロボロだ。完勝とは言いづらいよな、こりゃあ」

「ヘヘッ、よく言うぜホントによ」

 そんな風に二人それぞれ抱き締められながら、満身創痍のウェインと風牙は肩を揺らし、互いに笑い合う。

 交わす言葉にあるのは、ただただ互いの健闘を称えあう純粋な気持ちのみ。全力で刃を、拳を交わし合ったからこその……素直な気持ちを、二人は言葉に乗せて交わし合い、笑い合っていた。

 と、そうして二人が笑い合う中。

〈でも二度は無いわよ! 次があったらあたしがコテンパンに叩きのめしてやるんだから!〉

 なんて、風牙の左手首から……金のブレスレットから聞こえてくるのは、甲高い少女の声。フィーネでもフレイアでもない、聞き慣れない何者かの声。

 ウェインとフィーネは、すぐにその声の主が彼のナイトメイル――天雷の声だと理解したのだが。

〈でしょう、そうでしょう? ねぇ――――お兄ちゃん(・・・・・)?〉

 続けて聞こえてきたのは、そんな……天雷の意味不明な発言で。

 ――――お兄ちゃん。

 確かに今、天雷はそう言った。まさかウェインのことではあるまい。フィーネかフレイアを呼ぶのなら、どちらかといえばお姉ちゃんの方が相応しいからこれも除外だ。

 そうなると、彼女の言う『お兄ちゃん』が指すのは、つまり天雷にとっての主しか……風牙しか居ないわけで。

 ということは、つまり……風牙は天雷に、ナイトメイルに自分のことをお兄ちゃんと呼ばせているということで。

「おま、風牙……お前」

「これは意外だな……妹萌えという奴だったか」

 それを聞いたウェインとフィーネは驚いた顔で、端的に言えばドン引きしていた。

「う、うるせえ! いいだろ別に!? 俺の趣味なんだから別にいいだろ!?」

「お、おう。まあてめえの趣味に口出しするつもりはないけどよ……引くわあ」

「人の趣味は千差万別というからな、まあそう言ってやるなウェイン。……しかし、これはな」

「フィーネちゃんまでぇ!? やめて引かないで!?」

〈まあ、良いのではないでしょうか。例えマスターがどんな奇特な趣味であろうと、それに従い共に戦うのが我ら魔導騎士というものですから〉

「お前さてはファルシオンだな!? 奇特っつたろお前!? フォローしてるようでフォローになってねえからなお前!?」

「ふふっ、まあ風牙がそういう好みなのは昔からですし、私はもう慣れましたよ?」

「やめてフレイア! トドメ刺さないで!!」

 とまあ、こんな風に賑やかに騒ぐ中。ひとしきり突っ込み終えた風牙はふぅ、と小さく息をついて。ウェインと……彼を抱き締めて離さないフィーネを見上げながら、スッと目を細めて……こう呟いた。

「なあ、ウェインよ」

「んだよ」

「勝負の最中、お前に言ったよな? あの日、初めて会ったあの時……お前の隣に立ってたフィーネちゃんが、俺には女神に見えたって」

「……ああ、そういやンなこと言ってたなお前」

「そう見えた理由、今になってやっと分かったんだよ」

 風牙は目を細めながら、フッと小さく笑って。

「そりゃあな、ウェイン――――お前が隣に居たからなんだよな」

「……おい、どうして俺が出てくるんだよ?」

「なんだよ、分かんねえのか?」

「大好きな人の隣に居る時が、女の子は一番輝くと言いますからね♪」

 きょとんとするウェインに、微笑みながらそう横から言うのはフレイアだ。

 そんな風に彼女にストレートに言われて、ウェインは「そ、そうか……」とボリボリ後頭部を掻きながら、らしくもなく照れくさそうに目を逸らす。

 すると、フィーネは抱き着いたまま「そういうことだ」と言って彼を小突きつつ。

(だが、フレイア……私の目には、やはり今のお前が一番輝いて見えるな…………)

 と、風牙に寄り添い、彼を強く抱き締めるフレイアを見つめながら、内心でそう感じていた。

「さてと……おい、風牙」

 そうしたやり取りの後で、ウェインは抱き着いていたフィーネを一旦引き剥がすと……座り込む風牙の方に近づき、壁際に座り込んだ彼にスッと手を差し伸べる。

「ま、何にせよ勝負は俺の勝ちだ。約束……覚えてんだろうな?」

 風牙もフレイアを離しつつ、差し伸べられた彼の手をギュッと握り返しながら「あたぼうよ」と言い、そのままグッとウェインに引き起こされながら……すがすがしい顔で彼に言う。

「勝負は勝負、負けは負け、約束は約束だ。名残惜しいがフィーネちゃんのことは綺麗さっぱり諦めるさね。いやもうめっちゃくちゃ名残惜しいんだけどよ、こんな楽しいナイトメイル戦は初めてだったし……何より、最高のダチ公も出来たことだしな」

「へッ、未練タラタラじゃねえか。なーにがすっぱり諦めるだこの野郎」

「俺は後に引くタイプなんだよ、三日ぐらい寝れば気持ちの整理も付くってもんだ」

「そんなモンかい」

「ああ、そんなモンなんだよ俺は」

 くっくっくっ、と楽しそうに笑い合う男二人。

 そうして向かい合い、笑い合う中……ウェインがそっと、左拳を風牙に向かって伸ばす。

「楽しかったぜ、お前との喧嘩」

 拳を向けられた風牙は一瞬だけ目を見開いて、でもすぐにニヤリと笑い顔を浮かべれば。

「次は負けねえからな、この野郎」

 と言って、グッと握った右拳をウェインの左拳にコツン、とぶつけた。

 そうして二人が真っ正面から拳をぶつけ合えば――――スタジアムにはまた、二人の激闘を称える大歓声が木霊するのだった。いつまでも、いつまでも……。





(第十一章『ぶつけ合う拳の先に』了)

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