第十一章:ぶつけ合う拳の先に/01
第十一章:ぶつけ合う拳の先に
「…………凄い、勝負でしたね」
スタジアムに轟く、割れんばかりの大歓声。二人の生命を削るような大激闘を称える皆の歓声が木霊する中、スタジアムの管制室で――エイジはそう、インカムを外しつつ呟いていた。
思わず呼吸すら忘れてしまうほどに、二人の戦いは壮絶だった。大勝負というのは、こういうことを言うのだろうか。
「ここまでの熱い勝負は、学院始まって以来の出来事かも知れません。どうやら歴史に残る大勝負になったようですね……ああ、実に見事でした」
それを思えばこそ、エイジの口からは自然とそんな言葉が漏れていた。
浮かぶ表情もどこか満足げというか、もはや恍惚とした顔と言ってもいい。きっと観客席の皆も似たり寄ったりだろう。二人の見せた激闘に、この場に居合わせた誰もが心奪われたのは間違いなかった。
「……おめでとうございます、フィーネさん。無事に……勝ちましたね」
そんなエイジの傍らで、フレイアがどこか安堵したように言う。
それにフィーネは腕組みをしたまま「ああ」と満足そうな顔で頷き返すと。
「私は最初から、ウェインが勝つと分かっていた」
なんて風に、いつものように自信満々な顔で……でも、どこか嬉しそうに表情を緩ませていた。
そう言いながら、フィーネは「それに――――」と、フレイアの方に振り向きながら続けて。
「……それにお前が言っていた通り、確かに丸く収まったようだ。私たちにとっても勿論そうだが、何より奴にとっても……風牙にとっても、これが一番いい結末なのかも知れんな」
口角を緩めながら呟いたフィーネに、フレイアも「……はい」と微笑みながら頷く。
「私もそう思います。ウェインさんは……風牙にとって、初めてのお友達になってくれたみたいですから」
続けてそう、フレイアは――――心底嬉しそうな顔で、遠くの風牙を見つめながら呟いていた。
「……本当に案じているのだな、お前は風牙のことを」
そんな彼女の横顔を見つつ、そっとひとりごちたフィーネは窓の外に視線を移す。
すると、視線を向けた先では――既に二人のナイトメイルは消えていて。スタジアムの広いグラウンドにあったのは、満足げな顔で壁際にもたれ掛かって座り込む風牙と……管制室に背を向けながら、ただグッと握り締めた左拳を天に掲げる、そんなウェインの背中だった。
「初めての友達……か」
二人を遠くに眺めながら、フィーネは独り呟いて。
「それはお前にとっても同じことだろう、なあ……ウェイン?」
遠くに見えるウェインの勝ち誇った背中を、フィーネは優しげな視線でそっと見つめながら……遠くの彼に語り掛けるように、ひとりごちていた。




