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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』
36/137

第十章:ファルシオン/02

「行けるよな、相棒!」

〈無論です! 致命傷は負っていません……飛べます、私と貴方なら!〉

「なら結構! 行くぜ……こっからが本番だぁぁぁぁっ!!」

 ディスチャージ・アローの直撃を喰らいながらも、見事にそれを防いでみせたウェインとファルシオン。

 背中の四枚羽、プラーナウィングを激しくはためかせながら急降下した白き魔導騎士は、そのまま風牙の天雷に向かって一直線に突撃。再度左手に召喚したバトルキャリバーを叩きつけるように何度も何度も振り下ろし、勢いづけた猛攻を繰り出していく。

「オラオラオラァァァッ! どうした、てめえはそんなもんじゃねえだろぉぉっ!!」

「ッ……! 無茶苦茶なんだよ、何なんだよそのナイトメイルはぁぁぁっ!?」

 迎え撃つ風牙は一心不乱にフェイルスピアを振り回し、どうにかウェインの猛攻撃をしのぎ続けていたが……しかし天雷はあくまで射撃戦に特化したナイトメイル、この至近距離での戦いにはどうしても不向きだ。

 だから全てを防ぎ切ることは叶わず、天雷のオレンジ色の鎧には幾つもの刀傷が刻まれていく。

「舐めんじゃ……ねえっ!!」

 それでも風牙の燃える闘志は折れることなく、一瞬の隙を突いてシュッとフェイルスピアを突き出した。

 鋭い刺突、一瞬の隙を縫うように狙うのはファルシオンの胴体。

 しかしウェインは瞬時にそれを見切ると、クッと小さく身体を捻って回避する。

 だが風牙も一撃目が避けられることまでは読んでいて、すぐさまガッと横薙ぎに長槍を振るう。

「ッ……!」

 その二撃目を、ウェインは引き寄せたバトルキャリバーの刀身で防御。だが守りに動いたことで猛攻は途切れてしまい、その隙に風牙は大きくバックステップを踏んで……彼からかなりの間合いを取る。

「野郎、逃げるんじゃねえっ!」

「三十六計逃げるに如かず、だ! ――――スパークボルト、束ね撃ちだぁぁぁっ!!」

 そうして距離を取ってすぐ、左腕のライトニングアローを再展開した風牙は……一度に五本近くの光の矢を同時に(つが)えて、バシュンとウェイン目掛けて撃ち放った。

 放たれて、バッと大きく散らばるように飛んでくる光の矢。

 一点を狙い澄ますのではなく、あくまで広い面で浴びせるような撃ち方だ。散弾のようなそれはまるでウェインの逃げ場を奪うように、広範囲に散らばるように襲い掛かってくる。

「味な真似しやがる……!」

 そんな束ね撃ちを、ウェインはバトルキャリバーをサッと振るって全て斬り払う。

 だが一度の斉射で済むはずもなく、風牙は二度、三度と続けざまに束ね撃ち。無数の光の矢を捌かせ続けることで、ウェインをその場に釘付けにし続ける。

〈このままでは(らち)があきませんね〉

「悔しいが、飛び道具じゃあこっちのが不利だ。だったら……仕掛けるかい?」

〈ですが、無策で突っ込むのは危険です〉

「無理だろうが押し通るのが俺たちだろうがよ、いつだってそうしてきただろ?」

〈はぁ……結局、いつも通りの力押しですか〉

「俺たちらしくて良いだろ、相棒?」

〈…………かも、知れませんね!〉

「おうよ!」

 迫り来る光の矢を斬り払い、捌き続けるウェイン。

 でもその全てを捌き切ることは出来ずに、斬り漏らした何本かがファルシオンの白い鎧に小さな掠り傷を付けて行く。

 ――――しかし、やられっ放しでいるようなウェイン・スカイナイトじゃない。

 熾烈な弾幕に身を晒しながら、決意したウェインは――――急加速。背中のプラーナウィングを大きくはためかせると、バシュンと風牙目掛けて一直線に突進を仕掛ける。

 バトルキャリバーで光の矢を斬り払い続けながら、でも幾らか掠めるのは仕方ないと割り切って。そのままウェインは弾幕の中を強引に押し通り、風牙との距離を一気に縮めんとするかのように突っ込んでいく。

「うおらぁぁぁぁぁっ!!」

 猛スピードの勢いを乗せたバトルキャリバーを振り抜いて、重い斬撃を叩き込む。

「んにゃろ……ぅっ!?」

 それを風牙は手繰り寄せたフェイルスピアでどうにか防いでみせたが、しかし天雷の手から伝わるじんとした斬撃の重さに、思わず顔をしかめてしまう。

「ヘヘッ……捕まえたぜ!」

「しつっこいんだよ、この野郎……っ!?」

 防がれたウェインはすぐさま刃を返し、二の太刀、三の太刀と続けざまにバトルキャリバーの刃を叩きつける。

 それを風牙は苦い顔をしつつもフェイルスピアで捌きつつ、合間を見て反撃の刺突を繰り出していく。

 が……ウェインはその刺突を上手く躱して、尚も猛烈な斬撃のラッシュを風牙に叩き込む。

「ッ……インパルスショット!」

「喰らうかよ! お返しだ――フレイムシュートォッ!!」

「うおっと!? ふざけんなよこの野郎、危ねえじゃねえか!?」

「うるせえ!」

「いやうるせえのはお前の方だ!」

「んだとてめえ!?」

「おおっと、隙ありだ! ――――必殺雷鳴! インパルス……ブレイカァァァァッ!!」

「へえ、そう来るかい! ――――プロミネンス……バァァァァストッ!!」

 幾度も刃を交わしながら、時に弓を放ち、時に高位魔術同士をぶつけ合い。互いに一歩も退かぬ、熾烈な魔術と剣戟の応酬をウェインと風牙は繰り返していた。

 そんな言葉と刃の応酬を繰り返す中……ふとウェインが口にしたのは。

「よお……ちょいと訊きたかったんだがよ」

「なんだよ、こんな時に!」

「お前、フィーネのどこが気に入ったんだ? 前から不思議だったんだよ」

 という――――猛烈な斬り合いの真っ最中にはあまりに似つかわしくない、今更にも程がある疑問だった。

 戦いの場には、大喧嘩の真っ最中にはどうしようもなく場違いな、素っ頓狂にすら聞こえる問いかけ。

 だが風牙も意外に律儀な男で、フェイルスピアを振り回しながら、戦いながらその問いに応じるのだった。

「だから一目惚れだったってクドいぐらい言ってんだろうが!? もう忘れてんのか、鳥頭かてめえは!?」

「誰が鳥頭だ! ……それじゃ理由になってねえから訊いてんだよ!」

「ンなもんそれ以上の理由なんざあるワケねえだろうが! あの日、初めて会ったあの時だ! お前の隣に立ってたフィーネちゃんが……俺には女神に見えた! 運命すら感じたね! この()と俺は巡り会うべくして巡り会ったんだってな! だったら……何としてでも手に入れたい、振り向かせたい! そう思うのは当然のことだろうが!!」

「ケッ、くっだらねえ……」

「くだらねえだと!?」

「くっだらねえよ、マジにくっだらねえ。馬鹿らし過ぎてあくびが出ちまうぜ。

 ……てめえ如きにあのフィーネ・エクスクルードが乗りこなせるとでも、本気で思ってんのかい?」

「馬鹿言ってんじゃねえ、何事もやってみなきゃ分かんねえってんだ! だから……俺はお前に勝ってフィーネちゃんを手に入れる! 手に入れて……振り向かせんだよ、運命の相手のこの俺にぃぃっ!!」

「バーカ、てめえにゃフィーネは乗りこなせねえってんだよ……かくいうこの俺だって、アイツの尻に敷かれっ放しなんだからな」

「尻に敷かれるって? ――いいねえ! 俺はそっちの方が好みなんだよ! 強い女の子は大好きだ! 俺を好き勝手に引っ掻き回すんなら余計にタイプだね! 気に入ったぜ……俄然(がぜん)やる気になってきたぁぁっ!!」

「て、てめえ……まさかそういう趣味だったのか?」

 予想だにしていない、まさかまさかの風牙の答え。

 それにウェインが困惑気味というか、どこかドン引きしたような反応を見せると。風牙は「悪りいかよ、この野郎!」とライトニングアローからバシュンっと束ね撃ちをしながら言う。

 すると、ウェインはくくくっ……と腹の底からおかしそうに、愉快そうに笑って。

「いんや……俺たちよ、随分と――――気が合うじゃねえかァァァァァァァッ!!」

 振り上げたバトルキャリバーを、眼前の風牙に向かって笑顔で振り下ろす。

「んだよ、結局お前もそういう趣味なんじゃねえかよ!?」

「そういうこった! 要はてめえも俺も似た者同士ってことだよ!」

 腹を割って叫び合い、刃をぶつけ合う二人。

 その顔には、もう互いへの怒りや憎しみなんてものは欠片もなく、そんな感情はとうの昔に消え失せていて。二人の顔に浮かぶのは、ただ……心底楽しそうな笑顔だけ。

 二人が満面の笑顔でそんな馬鹿馬鹿しいにも程がある声を上げていれば、ある時スタジアムに木霊するのは。

『お、お前ら……こんな時に何を話しているんだ! 馬鹿なのか!? 聞かされる私の身にもなってみろぉっ!!』

 という、フィーネの――どうやらまたエイジからインカムを奪い取ったらしい彼女の、なんとも羞恥に満ちた叫び声。

 二人から彼女の顔なんて見えるはずもないが、きっと恥ずかしさで真っ赤になっていることだろう。フィーネのそんな顔なんて滅多に見られるものじゃないから、ウェインは少し損した気分にもなってしまう。

『ふふふっ……いいじゃないですか、お二人とも楽しそうですし』

『は、はははは……も、もう全部大目に見ることにしましょうか……』

 フィーネの叫び声の後で、聞こえてくるのはフレイアのくすくすと楽しそうな笑い声と、もうどうにでもなれ、といった風なエイジの投げやり気味な苦笑い。

 そんなフィーネたちの声を、二人は敢えて無視しつつ――――バッと同時に飛び退くと、一度大きく間合いを取る。

〈……頃合いです、次で勝負を仕掛けましょう〉

 天高く飛び上がって、眼下のグラウンドに立つ天雷を静かに見下ろしながら、ポツリと呟くファルシオン。

 それにウェインは「おうよ」と頷き返し、

「俺もそのつもりだったよ。それに……野郎も、きっと同じはずだ」

 言いながら、グラウンドからこちらを見上げる天雷を――風牙を見る。

 上空のウェインを見上げながら、静かに左腕のライトニングアローを構える風牙。思った通り、どうやら向こうも勝負に打って出るつもりらしい。

〈ですが、これを外せば勝機は失われます。ブラスターは強力ですが……一度撃てばパワーダウンを起こし、動けなくなりますから〉

 そうして睨み合いながら、ファルシオンが低い声で呟く。

 ――――ファルシオンには、まだ隠している切り札がある。

 それも、一撃でこの勝負を決することが出来るほどの大技中の大技だ。

 しかし……その技にはひとつ、重大な欠点が存在する。

 ファルシオンが一度それを撃てば、過負荷を受けたファルシオンは一時的にその能力が大幅に低下してしまい、僅かな時間ではあるものの……全身から力が抜け落ちるように、ほぼ行動不能の状態に陥ってしまうのだ。

 つまり、外せば完全無防備なところを狙われたい放題。パワーダウンから回復する間もなく、風牙にやられてしまうだろう。

 ……ファルシオンというナイトメイルが、元は二〇年前に未完成で放置されていたものを無理に組み上げたもの、というのは前に述べた通りだ。

 だからファルシオンは未だ不完全な状態で、そのために多くの致命的な弱点を抱えてしまっている。その内のひとつが……例の大技を撃てば、パワーダウンを引き起こして大きすぎる隙を晒してしまうことだ。

 それでも普段の戦いであれば、行動不能に陥ってもジークルーネが上手く補ってくれていた。何よりもそれ以前の話として、大技を撃って敵を取り逃がしたことは一度もない。

 だから、致命的な欠点なれどウェインもフィーネも大して問題にはしていなかった。

 …………しかし、それが今になって懸念点となってしまうとは。

 当たれば一撃、外せば確実に負けてしまう。

 まさにイチかバチかの大博打だ。しかしこのまま戦い続けても決着が付く様子はない。ウェインも風牙も、ここはお互いに勝負に打って出るしかないのだ。

 伸るか反るか、ここ一番の大勝負。

 だが……だからこそ、ウェインは心躍らせていた。

「そん時はそん時よ、やってみるっきゃねえだろ?」

〈ふふっ……貴方のそういうところ、私は嫌いじゃありませんよ〉

「ま、無茶は無茶だろうがよ。でも……付き合ってくれるよな、相棒?」

〈無茶はいつものことです、最後まで付き合いますよ〉

 ウェインがニヤリと不敵に笑みながら言えば、ファルシオンも小さく笑いながら、いつも通りの冷静な声で返してくれる。

「へへっ、そうこなくっちゃな……!」

 満足げに笑いながら、ウェインはスッと左手のバトルキャリバーを構え直して……そして、風牙に向かってこう叫ぶ。

「気に入ったぜ、お前……刻んでやるよ、俺の胸に。雪城風牙……そうさ、俺ァお前を心底気に入った!」

 すると、風牙も笑いながら叫び返してくる。

「そりゃあこっちの台詞だぜ! ウェイン・スカイナイト……俺も刻むぜ、お前の名を! 今から俺たちゃダチ公だ……勝負なんてもう関係ねえ、決闘なんて知ったこっちゃねえ! どっちが勝とうが負けようが恨みっこなし、関係なしだ! さあ来やがれウェイン! 俺の全力で……てめえを叩き落としてやる!!」

「ハッ! 良いねえ……そうこなくっちゃなぁ、風牙ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 笑い、叫びながらウェインは左手をバッと振るい……握り締めていたバトルキャリバーを放り捨てる。

 その直後……上空のファルシオンを見上げていた風牙は想像を絶する光景を目の当たりにしていた。

「…………おい、一体何が起こってんだ………………?」

 そこにあったのは、地鳴りのような唸り声とともに、眩い緑色の輝きを身体中から放ち始めた――――白い翼のファルシオンの姿で。

「さあいくぜ風牙! 俺はてめえをブチのめす! 俺の……俺たちの、全力でだァァァァァァッ!!」

 空気中のプラーナが震えているのが、肌で分かる。あの光は……ファルシオンの放つあの緑色の輝きは、ウェインの力に共鳴したプラーナの輝きそのものだ。

 身体中から溢れんばかりの、目も眩むほどの眩い閃光を放つファルシオン。ウェインの昂ぶる感情に呼応するかのように、空気中のプラーナが共鳴し……震えながら、彼の下に集まっていく。

 そうして昂ぶったプラーナが更に激しく輝きを放てば、バッと突き上げたファルシオンの左腕が……その装甲が、不思議なことにバカンと大きく開いたではないか。

 白い鎧の繋ぎ目から割れるように、まるでつぼみが花を咲かすように……大きく口を開いた左腕。

 すると緑色に煌めいた強烈なプラーナの光が、掲げた左手に……その手のひらに集まっていくのが、地上で呆然と見上げる風牙にもよく見えていた。

「っ、ヤベえぞコイツは……!!」

 そんな、あまりにも異様な光景を目の当たりにして、風牙は直感的に危機を感じ取る。

 だが――――そんな状況下だからこそ、むしろ彼の心をより熱く滾らせていた。

「いいねえ、それがウェイン……お前の切り札ってわけかい!」

 ニヤリと楽しげに笑い、上空のウェインを見上げながら、風牙が左腕のライトニングアローに(つが)えるのは……天雷の身の丈ほどもある巨大な光の矢。

 それは、風牙と天雷の最後の切り札といえる一撃……ディスチャージ・アローだ。

 ウェインが切り札を切ってくるというのなら、自分もまた最後の切り札を切らせて貰う。それが風牙なりの、ウェインに対する礼儀のつもりだった。

「これが俺の全力全開だ! ――――ディスチャージ……アロォォォッ!!」

 ギュッと弓を引き絞り、バシュンとライトニングアローから撃ち放たれた、巨大な光の矢。

 そんな迫り来るプラーナの矢を、強烈な稲妻を纏った光の矢を前に――――ウェインはフッと小さく笑うと。

「来やがれ、風牙ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 雄叫びを上げながら、ウェインは……ファルシオンは、緑色の閃光を放つ左手をバッと風牙に向かって突き出した。

「――――――ファルシオン・ブラスタァァァァァァァァァッ!!」

 直後、ファルシオンの左手から閃光が迸る。

 それは――緑色に光り輝く巨大なビーム。ファルシオンの身の丈を遙かに超えるほどの大きさの、常軌を逸した熱量を持った純粋なプラーナエネルギーの塊だ。

 ――――『ファルシオンブラスター』。

 超高密度にまで臨界収束させた猛烈なプラーナビームこそ……緑色の閃光こそファルシオンの切り札、あらゆる敵を一撃で叩きのめす、恐るべき必殺の一撃だ。

 撃ち放たれた猛烈なプラーナビームは、迫り来るディスチャージ・アローの稲妻を纏った光矢と真っ正面から激突し……互いに空中で押し合う形で拮抗し合う。

 緑色の巨大なプラーナビームと、稲妻を纏った大きな光の矢とがぶつかり合い、空中で火花を散らして拮抗する。

 だが、それもほんの数秒だけのこと。やがて光の矢はその力を失い――――緑色のビームに、ファルシオンブラスターに呑み込まれるようにして消えていく。

「んなくそ……ぉぉぉぉっ!!」

「これで……決まりだぁぁぁぁっ!!」

 ディスチャージ・アローの光の矢を掻き消したブラスターのプラーナビームは、そのまま風牙の天雷を呑み込んで……その姿を、緑色の閃光の中に消してしまう。

「ぐっ……!」

〈ウェイン、もう限界です! これ以上は……!!〉

 そうしてプラーナビームが天雷を呑み込んだ直後、静かに着地したファルシオンもまたがっくりと膝を折った。

 左腕は伸ばしたまま、力なく膝を折るファルシオン。凄まじい熱量を伴ったビームの照射は止まり、全身から蒸気を吹き出しながら……まるで糸の切れた人形のようにぐったりとうなだれたまま、膝を突いたファルシオンはぴくりとも動かなくなる。

 ――――パワーダウン。

 これが、ファルシオンブラスターの抱えた重大な欠点。一度撃てば……過負荷を受けたファルシオンはこのように全身から力が抜け落ちて、ほぼ行動不能の状態に陥ってしまう。

 だが、そんなファルシオンが伸ばした左手の向こうで……天雷は、まだ立っていた。

「くそっ、仕留めきれなかったか……!?」

 全身が黒焦げにこそなっているが、しかし天雷はまだそこに立っている。

 それを見て、ウェインは悔しげに舌を打つ。

 ――――しかし、その直後。

「……マジ、かよ…………こんなのって、ないぜ…………っ」

 最後に風牙が呟けば――――天雷は、そのままドスンと前のめりに倒れてしまった。

 左手を突き出したまま膝を折ったファルシオンと、力尽きて前のめりに倒れた天雷。

 瞬間、スタジアムを支配するのはしんとした沈黙。観客席の誰もが言葉を発せないまま、ぴんと張りつめた緊張感の中……ただ、静寂のみがスタジアムを支配していた。

 そうして、奇妙なまでに静かな時間が流れること数秒。その沈黙を打ち破る声がひとつ。

『……戦闘終了(ノック・イット・オフ)

 スタジアムに木霊したのは、エイジの号令。戦いの終わりを告げる一言で。

『――――勝者、ウェイン・スカイナイト』

 僅かな静寂の後、今一度スタジアムに木霊するのはそんな……ウェインの勝利を告げる、エイジ・モルガーナの号令だった。





(第十章『ファルシオン』了)

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