第七章:風の牙と金色の姫騎士と/01
第七章:風の牙と金色の姫騎士と
「――――お二人とも、おはようございます」
それから二日後、週明けの月曜日。早朝に203号室を出たウェインとフィーネは、またいつかのようにフレイアと寮の廊下で鉢合わせしていた。
「おう、奇遇だな」
「……その、お二人とも……先日は申し訳ありませんでした」
ウェインが挨拶を返した直後、フレイアは突然そう言って二人に頭を下げてきた。
理由も分からず急に詫びられたウェインが「んん?」と首を傾げて、横でフィーネが「急にどうしたんだ……?」ときょとんとしていれば、フレイアは頭を下げたまま一言。
「風牙のことで、謝らせて頂きたいのです」
と、突然詫びてきた理由を呟いた。
「私があの時、もっとちゃんと風牙を止めていれば……決闘なんてことにはならなかったはずです。あの日に謝りそびれましたから、改めて……今、お詫びしたいのです」
申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げるフレイア。
そんな彼女に「お前が謝ることじゃねえって」「うむ……頭を上げてくれ」と二人がそれぞれ言って、フレイアに頭を上げさせる。
そうしてフレイアに言った後、続けてフィーネはこうも彼女に言う。
「それよりも、良かったのか? 私の見立てが正しければ、むしろお前の方がアイツのことを……」
「えっ、私が風牙を……ですか?」
言われたフレイアはきょとんとすると、すぐにクスッとおかしそうに笑い出す。
――――むしろフレイアの方が、風牙のことを……好いているのではないか。
フィーネが含ませたのは、そういう意味だ。それを理解したフレイアはおかしそうに小さく笑うと、こう言葉を続けた。
「確かに、フィーネさんにそう思われても仕方ないかも知れませんね。ですが……私も風牙も、お互いそんな風には思っていませんよ?」
「ううむ……しかし、お前たちは幼馴染なのだろう?」
「ふふっ、確かに幼い頃から風牙とは一緒ですし、お互いのことはよく分かっているつもりです。けれど……私にとって、風牙はあくまでも幼馴染のお友達ですから。そういう……恋愛感情、のようなものはありません」
微笑むフレイアの言葉を聞いて、フィーネは心底驚いた顔をしていた。
「そうか、本人が言うならそうなんだろうが……しかし、まさか私の勘が外れるとはな……」
続けて意外そうな顔でひとりごちる彼女に、ウェインは「そりゃあ外れることもあるだろうよ」と尤もなことを横から言う。
しかしフィーネは「いいや、私の勘はよく当たるんだ」とすぐに返し、
「だが……私が勘を外すとは、珍しいこともあるものだな……」
「んだから、外れる時は外れるもんだろ?」
「ううむ……」
そんなウェインとフィーネのやり取りを、少し遠巻きに眺めながら――――。
「…………ええ、ありませんよ。あるはずが……ありませんから」
フレイアは小さな声で呟きながら、何故だか寂しげに目を細めていたが……ウェインもフィーネも、二人ともそのことには気付いていなかった。
「とにかく、風牙がとんだご迷惑をお掛けしてしまって……私が謝っても仕方のないことかも知れませんけれど、でも謝らせてください」
そんな風に寂しそうな顔をしたのもほんの一瞬のこと、すぐに元の調子に戻ると、フレイアは改めてぺこりと二人に詫びる。
「そして……ウェインさん、どうか勝利を。それが貴方がたにとって、何よりも風牙にとって……きっと、一番いいことですから」
続けてそうも彼女は言うから、ウェインも「ま、それが一番丸く収まるよな」と腕組みをしながらうんうんと頷いて。
「心配すんなよフレイア、俺は野郎に負けるつもりなんざ欠片もねえ」
「うむ、コイツの言う通りだ。私のウェインは誰にも負けん、だから安心するがいい」
横でフィーネも自信満々に頷く中、フレイアは「それを聞いて、安心しました」とホッとした様子で微笑む。
「では……そろそろ参りましょうか。始業まで時間もありませんし」
「おうよ」
「そうだな、行くとしようか」
そんなやり取りを経た後、フレイアに促される形で……彼女と一緒に、二人は学院に向かって歩き出した。




