第六章:少女たちの休日/05
そんなこんなで路地裏で風牙と別れた後、ウェインはまたフィーネにあちこち連れ回されて……数時間後、やっと帰りのモノレールに乗れていた。
「ふふっ……♪」
時刻はもう夕暮れ時だ。窓から眩しい夕日が差し込む中、乗客もまばらなモノレールの車内で……ウェインの隣に座るフィーネはどこかご機嫌な様子。鼻歌でも歌いそうなぐらいに楽しそうな雰囲気だ。
「その様子じゃあ、今日は随分楽しかったみたいだな」
そんなご機嫌なフィーネに言うウェインに、フィーネは「ああ!」と大きく頷いて。
「こんなの楽しかったのは久し振りだ!」
と、子供みたいに無邪気な笑顔を見せてくれる。
満面の笑みだ。面倒見のいい、どこか姉っぽい感じのいつものフィーネからは考えられないほど、無邪気で子供っぽい笑顔。
そんな彼女の笑顔を見ながら「そりゃあ何よりだ」と素っ気ない風に返すウェインも……浮かぶ表情は、同じようにどこか満足そうな感じだ。
確かに、休日をこんなに楽しめたのは久し振りだった気がする。
「――――なあ、ウェイン」
動き出したモノレールの中、あれがよかった、これが楽しかったと二人で他愛のない会話を交わしていれば。ふとしたタイミングでフィーネがそっと声を掛けてくる。
「ん?」
「ああ見えて意外といい男のようだな、奴は」
「……野郎のことか?」
訊き返すウェインに「そうだ」とフィーネは頷いて。
「私もお前と同じ気持ちだ、少しだけ見直した」
そう言うフィーネに「へえ、意外と惚れたか?」とウェインが冗談めかして言うと、フィーネはむっとして「冗談にも程があるぞ」と言い返す。
「確かにいい男かも知れんが、私はお前以外の誰も眼中にはない。だから……ウェイン、決闘も絶対に勝て」
〈そうですよウェイン、私も同意見です。何よりも任務に差し障りますから〉
フィーネが真剣な表情で言った直後、ウェインの懐から突然聞こえてくるのは……ファルシオンの声だ。
〈その通りよ、私だってお姉様が貴方とファルシオン兄様以外になんて……考えたくもないわ。任務のこともそうだけれど、何よりもフィーネお姉様のためにも……ウェイン、貴方には何としても勝って貰わないと困るわ〉
続けてフィーネの首元、下げた銀色のペンダントから聞こえてくるのはジークルーネの声。
そんな二人……二騎? の声に、ウェインは懐から白い短剣――スタンバイモードのファルシオンを取り出しつつ「お前らまでそう言うかよ……」と、参ったように大きく肩を竦める。
そんな隣の彼を見て、フィーネはふふっとおかしそうに微笑み。
「まあ、いいじゃないか」
と、そっと肩を叩きながら彼に言う。
「ルーネやファルシオンの言う通りだ、だから……必ず勝てよ」
続けて、フィーネは彼の顔をじっと間近で見つめながら……真剣な眼差しで囁きかける。
彼女に見つめられながら、ウェインは「へいへい……」と、また参ったように肩を大きく揺らす。
そんな彼の気怠そうな調子を見て、フィーネはまた小さく微笑むと。うーんと大きく伸びをしながら……心の底からの一言を、そっと呟いた。
「今日は本当に楽しい一日だった……ウェイン、また行こうな」
伸びをしながら、満足そうな顔で呟いたフィーネ。
そんな彼女に、ウェインもまた小さく笑いながら「……そうだな」と、頷き返していた。
(第六章『少女たちの休日』了)




