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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』
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第四章:茜空、終わる日と始まる日々/03

「お先だ、ウェイン。ニールとの定時連絡は終わったのか?」

「ん、もう終わったぜ。俺から全部おっさんに話しといた」

「そうか、じゃあ早く入ってこい。折角の風呂が冷めてしまうからな」

 バスルームから出てきたフィーネは、振り返って頷くウェインと言葉を交わしつつ、ベランダの窓の傍に座っていた彼の近くにとことこと歩いていく。

 風呂上がりのフィーネはラフな部屋着の格好。肌はほんのり上気していて、綺麗な銀髪はまだしっとりと水気を含んでいる。そんな彼女はウェインのすぐ隣に立つと、ふと彼の様子が……ぼうっと窓の外の夜景を眺めているのが気になって、

「何をボーっとしているんだ、珍しく物思いにでも耽っているのか?」

 なんてことを、何気なく訊いてみる。

 するとウェインは「珍しいってのは余計だ」とフィーネを見上げて言うと、また窓の外に視線を戻して。

「……平和なモンだな」

 と、遠くに見える街並みを見つめながら、小さく呟いた。

 それにフィーネは「……そうだな」と腕組みをしながら頷き返して。

「奴らの、超次元帝国ゲイザーの魔の手がすぐ傍に迫っているなんて、誰も思ってもみないのだろうな。……当たり前か」

 知っての通り、ウェインたちが追う超次元帝国ゲイザーの存在は秘匿されている。

 だから、その存在を知るのは限られたごく少数のみ。大多数の一般人はそのことを知らないのだ。

 当然、遠くに広がる街並みの……そこに住む人々もまた、誰一人として知らないだろう。学院に通う風牙やフレイアのような生徒だって同じことだ。

 それを思えばこそ、ウェインは憂いていたのかも知れない。この平和な景色も、いつ壊されてしまうのか分からないからこそ……ウェインの横顔には、どこか影が差しているのかも知れない。

 そのことを暗に察すればこそ、フィーネはほんの微かに表情を緩めて。

「ま、とりあえず今ある生活を楽しむことだ」

 と言いながら、すぐ隣に座るウェインの頭を小さく撫でてやる。

「ニールも言っていただろう、任務は任務として、花の学生生活も楽しんでこいとな」

「……そりゃあ、そうだけどよ」

「なんだ、私と一緒では不満か? 私は楽しみにしていたんだがな……お前と二人、年相応の青春を謳歌するのを。しかし肝心のお前がそうじゃなかったとは、少し残念だ」

「そうじゃねえって!」

 慌てて言い返すウェインに、フィーネはまたクスッと小さく笑んで。

「冗談だ」

 なんてことを言えば、また彼の頭を撫でてやる。

「任務だからな、お前が気を張っているのはよく分かる。だがこの部屋の中でぐらい気を緩めたって良いはずだ。あまり無理をするな、私と二人きりの時ぐらい……肩の力を抜けばいい」

 それは、きっとフィーネなりの優しさなのだろう。

 だからウェインはほんの少しの間だけ目を伏せて、小さく息をつくと。

「……そうだな」

 と、そっと肩の力を抜きながら、彼女に頷き返すのだった。





(第四章『茜空、終わる日と始まる日々と』了)

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