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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』
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第四章:茜空、終わる日と始まる日々/01

 第四章:茜空、終わる日と始まる日々



『――――へえ、いきなり模擬戦ってのもエーリスらしいな』

 一日の課程を終えた放課後、日暮れ時のエーリス魔術学院・学生寮203号室。窓の外に茜色の夕焼け空が広がる中、ウェインは大きな通信機越しにニール・ビショップと……スレイプニール局長の彼と顔を合わせていた。

 二つ折りの、一見するとノートパソコンのような形の通信機だ。特別製のスクランブラーで通信内容を高度に暗号化させる機能を持つ、スレイプニール特製のエージェント用の通信装置。そのディスプレイに映るニールと顔を合わせながら、ウェインは今日一日の状況報告をしていたのだ。

 話の内容は学院に関するあれやこれや。主に今日の実技でいきなり模擬戦をやらされる羽目になり、初日からファルシオンとジークルーネを多くの人目に晒したことについてだった。

「割と思いっきりやっちまったが、何か問題ってあったか?」

『……いや、特に問題はないと判断できる。お前たちの二騎が人目に晒されることは元から織り込み済みだからな。何よりお前たちのナイトメイル……特にファルシオンに関しては、お前も知っての通り普通の出自じゃない。調べようにも調べられない曰く付きだからな、問題はないよ』

「ま、おっさんがそう言うならいいけどよ」

『それよりも――――ウェイン、誰か目ぼしい奴は居たか?』

 小さく肩を揺らすウェインに向かって、ニールは今までの穏やかな表情から一変し……シリアスな顔と口調で問いかける。

 それにウェインもまた難しい顔を浮かべながら「なんとも言えねえな」と答えて、

「気になる奴といえば雪城風牙とフレイア・エル・シュヴァリエ、後は……強いて言うなら、担任のエイジ・モルガーナぐらいだけどよ」

 と、ニールの問いに対し――超次元帝国ゲイザーの内通者らしき奴は居ないかという問いに対し、パッと思いついた三人の名前を挙げた。

『ふむ、詳しく聞かせてくれ』

「先生に関しちゃ仮にも学院の教師だからよ、内通者ってのは考えにくいし考えたくねえ。他の二人に関しても似たようなもんだ。かたや雪城コンツェルンのお坊ちゃま、かたや名のある貴族のお嬢様だ。アイツらが内通者ってのは……どうにも違う気がする」

『なるほどな』

「……ま、それが今のところの俺の見解だ。他の連中に関しちゃよく分かんねえ。おっさんはどう思う?」

『お前が挙げた三人に関しては、俺もウェインと同じ意見だ。だけどなウェイン、分かってると思うが――――』

「先入観は捨てろ、って言いてえんだろ? 分かってるよ、おっさんに言われるまでもねえ。これはあくまで潜入任務なんだ……心構え、忘れちゃいねえよ」

 ニヤリと小さく笑いながら、ウェインはそう答える。

 ――――雪城風牙にフレイア・エル・シュヴァリエ、そして担任のエイジ・モルガーナ。

 ウェインが挙げた三人は、今日一日で特に印象に残った三人だ。

 別にこの三人だけを疑っているわけじゃなくて、学院に居る全員を平等に……という言い方は変かもしれないが、とにかく分け隔てなく疑っている。ただ質問されて、思いついた名前を挙げただけのことだ。

 だけど、この三人ともが内通者とは考えにくい立場にある。

 風牙は世界的な大企業連・雪城コンツェルンの跡取りになる御曹司だし、フレイアも帝国で有数の名門貴族のご令嬢だ。残るエイジに関しても、エーリス魔術学院の教師という立場がある。

 この三人が三人とも、その立場が立場だけにゲイザーの内通者とは考えにくい相手なのだ。

 でも油断してはいけない、こういう先入観が任務の妨げになることもある。

 …………ということをニールは言いたかったのだろうが、改めて言われなくたってウェインは十分すぎるぐらいに肝に銘じている。なにせ学院の転入生というのは仮初めの肩書きで、本来の彼はスレイプニールのエージェントなのだから……。

『ところでウェイン、フィーネはどうしたんだ?』

 そうしたやり取りの直後、ふと今更過ぎることに気付いたニールがきょとんとして訊いてくる。

 ウェインはまた小さく肩を揺らしながら「風呂だよ、風呂」と返し、

「任務のない日にゃ、いっつもこの時間に入ってたろうが。忘れたのか?」

 と、背後から微かに聞こえてくるシャワーの水音を聞きながら、呆れっぽい調子で言う。

『あー、そういやそうだったな』

「ったく……とにかく、俺からの報告は以上だ。おっさん、他に何かあるか?」

『いや、俺からも特にない。とりあえず二人とも学生生活を好きにエンジョイしてくれればいい』

 ただし、とニールは続けて。

『あくまで任務は任務だ、是非とも青春を謳歌して貰いたいところだが、そっちも忘れるなよ?』

 ニヤッと小さく笑いながら最後にそう言って、通信を終えた。

「へいへい……っと」

 プツンと暗くなったディスプレイに呟きつつ、ウェインは用を終えた通信機をパタンと閉じる。

〈――――ウェイン、少しよろしいですか?〉

 そうした時に懐から聞こえてくるのは、ニールとはまた別の声。ウェインにとっての相棒……ファルシオンの声だ。

 声が聞こえると、ウェインは「んだよ」とぶっきらぼうに言いながら、懐から取り出した白い短剣――スタンバイモードのファルシオンに視線を落とす。

 ナイトメイルにはそれぞれ固有の意志が宿っている、ということは前に述べた通りだ。

 だが展開時だけじゃなく、こうして手のひらサイズのスタンバイモード時にも魔導士とコミュニケーションを取ることができる。だからファルシオンの声が聞こえてもウェインは不思議がらなかったし、自然と懐の短剣に手を伸ばしていたのだ。

〈今日一日こうして学院に行ってみて、どうでしたか?〉

 相変わらずの穏やかな低い男声で話すファルシオンに「どう、って言われてもな……」とウェインは少しだけ言い淀んで。

「……ま、色々あったが意外と楽しかったのは間違いねえよ。普通の学生ってのはこういう風なんだなとも思った。目に見える何もかもが新鮮だったよ、俺たちにとっては」

 と、率直な感想を彼に述べた。

 するとファルシオンは〈そうですか〉と少しだけ嬉しそうな声で返し。

〈任務も勿論大切ですが、局長の仰っていた通り、まずは折角の学生生活を楽しむべきです。人よりも少し遅れてしまいましたが、お二人に年相応の青春を送って欲しい……というのは、私も局長と同じ気持ちですから〉

「けっ、分かったような口利きやがるぜ」

〈ええ、よく分かっていますよ。貴方と私との付き合いですから〉

「……そういや、お前と会ってもう随分になるんだよな」

〈フィーネとも、でしょう?〉

 小さく呟いたファルシオンに「……そうだな」と、ウェインは小さく目を伏せながら呟き返す。

 そうして呟いた後で、更にもう一言。

「……任務のことに関しちゃ、俺は大丈夫だ。でも……アイツが気負い過ぎてなけりゃいいが」

 と、遠くに聞こえるシャワーの水音を聴きながらウェインが呟く。

〈フィーネのこと、ですか。そうでしたね、彼女は……〉

 どこか神妙そうな声で言うファルシオンに、ウェインも目を細めながら「ああ」と頷いて。

「お前も知っての通りだ、アイツの家族は――――ゲイザーに殺されてるんだからな」

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