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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-04『正義に燃えよ烈火の拳』
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第七章:正義に燃えよ烈火の拳/01

 第七章:正義に燃えよ烈火の拳



「天竜活心拳、この羽衣涼音が相手になるわ! ……でやぁぁぁっ!!」

 最初に動いたのは、やはり涼音の方からだった。

 エイジが試合開始の号令を告げたのと同時に、ダンっと地を蹴った朱雀が飛び出す。

 身を低くしながら、弾丸のような勢いで目指す先にあるのは――無論、ファルシオンの懐だ。

〈ウェイン!〉

「皆まで言うな、対策済みだ! ――――プラーナウィィィングッ!!」

 涼音が踏み込んだのと同時に、ウェインも回避行動を取る。

 背中の四枚羽『プラーナウィング』をはためかせて、バッと高く飛び上がったファルシオン。

 涼音の朱雀は確かに素早く、とんでもない格闘戦能力を持つ強力な近接型ナイトメイルだ。

 ……が、それはあくまで地上での話。

 飛び上がってしまえば、そこはファルシオンの独壇場。不利が見え見えな地上での戦いを避け、彼女を否が応にも空中戦に、ファルシオンのメインステージに誘い込む――それが、涼音とフレイアの戦いを見たウェインの立てた対策だ。

 地上を走る朱雀と、飛び上がったファルシオン。二騎の高低差はどんどん広がっていく。

 だが――――その程度でどうにかなるほど、涼音は甘い相手じゃなかった。

「逃がさないわよ、ウェイン! とぉりゃぁぁぁっ!!」

 走りながら、涼音はまたダンっと力強く地を蹴ってジャンプする。

 そのまま右脚を突き出して、上昇するウェイン目掛けて繰り出すのは――斜め上に向けて放つ、鋭い飛び蹴りだ!

「喰らいなさいっ! ――――ブレイクシュートよっ!!」

 突き出したその右脚に紅蓮の焔を纏わせて、涼音が放つのは必殺の一撃。

 ブレイクシュート――あのフレイアを、デュランダルを圧倒した大技を、涼音はいきなり繰り出したのだ。

 焔を纏った右脚が、凄まじい勢いで上空のファルシオンに迫る。

「うおっと……!?」

 それに気付いたウェインは、回避が間に合わないと瞬時に悟ると翼を前面に出し、プラーナウィングを盾にして涼音の飛び蹴りを受け止めた。

 ファルシオンの白翼と、涼音の繰り出したブレイクシュートとが真っ正面からぶつかり合う。

「ぐっ……!?」

 激しい火花が散るほどの衝撃に、思わずウェインは表情を歪ませた。

 が、流石のプラーナウィングの防御力だ。涼音が初手から繰り出した強烈なブレイクシュートの一撃を耐え凌ぎ、負ったダメージといえば翼の表面が軽く焦げる程度に留まった。

 少なくとも、ファルシオン本体は無傷のままだ。

「へえ、思った以上に硬いわね!」

「お褒めにあずかり光栄……って、言ってる暇ねえわなっ!」

 ブレイクシュートを防がれたことに驚き、同時に歓喜の声も上げる涼音にそう返しつつ、ウェインはすぐに反撃の回し蹴りを繰り出した。

 しかし、涼音はそれを軽く手で払いのけると。

「まだまだ、勝負はこれからよ! でやぁぁぁぁっ!!」

 今度は握りしめた両拳での、猛烈な打撃のラッシュを仕掛けてきた。

 繰り出す拳が速すぎて、その残像でまるで腕が何本もあるように見えるほどの猛烈なラッシュだ。

「うお……っ!?」

 そのあまりの拳速をウェインは躱し切れず、防御もままならないまま何十発ものストレートを浴びせられてしまう。

 胸部に腹、肩に頭部……あちこちを凄まじい速度で殴られ続けていれば、ファルシオンは決して軽くないダメージを負っていく。

 そうして拳のラッシュで攻め続け、ウェインの勢いを上手く削いだところで――――。

「たぁりゃぁぁぁぁっ!!」

 涼音は渾身の一撃を、ファルシオンの胸に叩き込んだ。

 強く、固く握りしめた拳で放つのは渾身の正拳突き。気合いの雄叫びを上げながら打ち込んだその一撃は、ファルシオンの胸部を大きく凹ませると……一気に地面へと叩き落とした。

 天使のような白いナイトメイルが、喰らった拳の衝撃で勢いよく墜落する。

 ダァンッと地響きが鳴るほどのスピードでファルシオンが背中から地面に叩きつけられた刹那、グラウンドに大きなクレーターが穿たれるとともに、大きな砂埃がスタジアムに舞い上がる。

「まだまだ! こんなもんじゃないわよ! ――――たぁぁぁぁっ!!」

 間違いなく、今のは痛烈な一撃だ。

 しかし涼音は満足せず、油断もせず。空中で身を捩って体勢を整えると、眼下のウェインに向かって鋭い飛び蹴りを繰り出した。

 急降下の勢いを利用した飛び蹴りだ。重力をも味方につけたその蹴り、喰らえば決してタダでは済まない……!

「貰ったわ、ウェイン!」

 流星のような勢いで迫る、深紅のナイトメイル。

 それを見上げながら、しかし仰向けに倒れたままのウェインには何をすることも出来ず、ただ見ていることしか出来ない――――。

「なっ!?」

 …………かと、観客席の誰もが思ったはずだ。

 しかし、驚愕に目を見開いた涼音の向ける視線の先で、彼女の放った飛び蹴りはファルシオンに直撃することはなく。紙一重のところで――両手で、その足首を鷲掴みにされていた。

「へへっ……ギリギリだったが、してやったぜ……!」

 朱雀の足首を力いっぱい両手で鷲掴みにしながら、不敵に笑うウェイン。

 そう、ウェインは涼音の蹴りが直撃する寸前――その足首を掴むことで、無理矢理に食い止めてみせたのだ。

 あのままでは、避ける時間などなかった。とはいえ、むざむざ大技を甘んじて受け入れるわけにもいかない。

 だったら、動かずに止めてしまえばいい――――。

 発想としては至極単純だが、しかし考えるのと実際にやってのけるのとでは話が別だ。猶予時間はコンマ数秒。その僅かな一瞬を見極め、涼音の足首を正確に掴めなければ……彼女の飛び蹴りが炸裂し、ファルシオンは撃破されてしまう。

 賭けとしては、あまりに分の悪い賭けだ。

 だが――――ウェインは、見事にその賭けに勝ったのだ。

 ウェインは必殺の一撃をどうにか凌ぎ切り、そして足首を彼に掴まれた涼音は今、もう身動きが取れない。

 即ち、形勢逆転。この反撃に転じるほんの僅かなチャンスを掴むため、ウェインは賭けに出て――そして今、それに勝ったのだ!

「きゃはっ! すっごい、よく止めたわねっ!!」

〈喜んでいる場合ではないぞ、我が主よ!〉

「お褒めにあずかり、光栄ってな……!」

〈今がチャンスです、ウェイン!〉

「おうよ! ――――ブレイジング・ノヴァァァァッ!!」

 涼音が心底楽しそうに笑い、朱雀が焦燥感に満ちた声で呼びかけて。そしてファルシオンが叫ぶ中、ウェインは反撃に打って出た。

 叫ぶ彼の周囲に、バッと巨大な火柱が何本も噴き上がる。

 噴き上がったその火柱はファルシオンを、そして朱雀を呑み込み……その灼熱で以て、両者をそのまま焼き尽くす。

〈自分ごと……なるほど、デュランダル戦でも同じことを!〉

 その火柱に焼かれながら、朱雀はウェインの意図するところを理解していた。

 ――――自分ごと、ブレイジング・ノヴァの灼熱で涼音にダメージを負わせる。

 それこそが、ウェインがこの賭けに打って出た真の理由なのだ。

 こうして拘束状態でブレイジング・ノヴァを発動してしまえば、いくら涼音の動きが身軽でも、いくら彼女の格闘戦能力が圧倒的でも……そんなのは関係ない。自分も焼かれる代わりに、涼音にも確実なダメージを与えてやる――それが、ウェインの思惑だった。

「こっから先は我慢比べだ……俺たちがくたばるのが先か、お前が黒焦げになるのが先か!」

「やるじゃない! そのガッツ褒めてあげるわっ!!」

 でもね――――。

「アナタ、ちょっと詰めが甘いわよっ!」

 歓喜の表情で涼音は言うと、ウェインに足首を掴まれたまま……ガンっともう片方の足で彼を蹴っ飛ばした。

 左の爪先がファルシオンの顎先に食い込み、蹴りがクリーンヒットした衝撃で思わずガクッと仰け反る。

 その瞬間、足首を鷲掴みにしていた両手の力が一瞬だけ緩む。

 涼音はその隙を見逃がさずに、すぐに拘束から離脱。そのままファルシオンを踏み台にして飛び退けば、噴き上がるブレイジング・ノヴァの火柱の中から一気に脱した。

〈してやられましたね、ウェイン……!〉

「いい作戦だと思ったんだがな、アイツの方が一枚上手だったってことか……!」

 涼音が火柱の中から抜け出したのを見て、ウェインもブレイジング・ノヴァを解除しつつゆっくりと立ち上がる。

 ゆらりと起き上がるファルシオンと、間合いを取った先でファイティングポーズを構える朱雀。

 両者がじっと睨み合う中、ウェインはくくっ……と笑い。

「やっぱスゲえなお前、素直に認めるぜ。でもな……こっからが本番だ、そうだろ?」

 鋭い双眸で睨み付けながら、バッと左手を前にかざす。

「第二ラウンド開始だ! いくぜ――――ファルシオン・バトルキャリバァァァッ!!」

 すると、その左手の中に長剣『ファルシオン・バトルキャリバー』を召喚。振り抜いたそれをバッと両手で構えて、その切っ先を涼音に突き付けた。

「きゃはっ! やっと剣を抜いたわね! いいわ……相手になってあげる、どこからでも掛かってきなさい!」

 それに対し、涼音は素手でファイティングポーズを取ったまま、クイックイッと指で手招きをする。

 まるで挑発するようなその仕草に、ウェインはフッと小さな笑みを浮かべて――――。

「なら、遠慮なく……叩き斬らせてもらうぜぇぇぇっ!!」

 背中のプラーナウィングをはためかせて、最大加速。ダンッと一気に踏み込むと、剣を振りかぶりながら……涼音の懐に向かって、とんでもない速度で飛び込んでいった。

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