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ダイバージェンス・フィーネ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『天翔ける白き翼の魔導騎士』
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第三章:天翔ける白き翼の魔導騎士/03

「先手必勝ぉぉぉっ!! ライトニングハーケンッ!!」

 まず最初に動いたのは、ウェインの方からだった。

 バッと小さく後ろに跳んだファルシオンの左手がサッと空を切り、そこから放たれるのは――鋭い光の槍。

 光属性の魔術『ライトニングハーケン』だ。ウェインは間合いを取りながら、それを数発フィーネに向かって撃ち放つ。

「間合いが甘いぞ、ウェイン!」

 だがフィーネはサッと小さく身を捩ることで難なくそれを回避。すぐさまダンッと地を蹴ると、ウェイン目掛けてジークルーネを突撃させる。

「だろうな……!」

 猛スピードで真っ直ぐ突っ込んでくるフィーネのジークルーネに対し、ウェインは更に何度か後ろに飛びながらライトニングハーケンを連射。突っ込む彼女を牽制しつつ距離を取ろうとする。

「甘いと言っている! ――フォトンシェード!」

 迫り来る幾つもの光槍に対し、しかしフィーネは一切避けようとせず、ただ右手をバッと前にかざす。

 すると――突き出したジークルーネの右手から輝く光の障壁が展開。飛んできたウェインのライトニングハーケンを全て明後日の方向に弾き飛ばしてしまう。

 そうして『フォトンシェード』で――光属性の防御魔術で張ったバリアを展開したまま、フィーネは真っ直ぐウェインに向かって突っ込んでいく。

「ガラ空きだなウェイン、お前の懐は! ……貰ったぁぁっ!!」

「んなくそ……ぉぉぉっ!」

 そのまま真っ直ぐに懐へ飛び込んできたフィーネは、突っ込んだ勢いのまま鋭い飛び蹴りをウェインに仕掛ける。

 まるで弾丸のような勢いで突っ込んできたジークルーネの飛び蹴りを、ウェインは咄嗟にクロスさせた両腕で防御。だが勢いまでは殺しきれず、衝撃で後ろに吹っ飛んでしまう。

〈ウェイン、一度上空へ! 立て直すべきです……ここは!〉

「んなこたあ分かってんだよ!」

 ファルシオンに言われるまでもなく、ウェインは吹っ飛ばされながら背中の翼を――『プラーナウィング』をはためかせ、一気に上空へと飛び上がっていく。

「ほう、逃げるのか?」

「空中戦は俺らの得意分野なんでね!」

 見上げるフィーネにウェインは言いながら、更にライトニングハーケンを連射して彼女を牽制する。

 無論、そんな攻撃に当たるフィーネではない。時に横に飛んで回避し、時に再展開したフォトンシェードで防ぎつつ、必要最小限の動きで躱していく。

 だがその隙に、ウェインも次の一手を打つ。

「行くぜ、ここからが本番だ! ――――ファルシオン・バトルキャリバァァァァッ!!」

 バッと左手を伸ばし、その先にプラーナを集めて……生み出した長い剣をファルシオンが掴み取る。

 ファルシオン・バトルキャリバー。

 まるで昔の騎士が振るっていたような両刃の剣、大型のロングソードだ。それをウェインは左手に直接生成すると、振り被りながらフィーネ目掛けて急降下。勢いを乗せた重い斬撃を叩きつけようとする。

「いいだろう、ならば私も……ミラージュレイピア!」

 そんなウェインを見上げながら、フィーネもまた左手を伸ばし……手のひらに生成した細い剣を握り締める。

 ミラージュレイピア、その名の通りにレイピア型の細身な剣だ。

 そのミラージュレイピアを構えて、フィーネは急降下してくるウェインと真っ正面から相対し……降ってきた縦一文字の斬撃を受け止める。

 だが、一撃を防がれた程度でへこたれるウェインじゃない。

 防がれれば飛び上がってまた一閃、それも躱されるとまた一度くるりと宙返りをしてから一閃……そうした一撃離脱戦法を取りながら、あくまで空中に留まったままフィーネに猛攻を仕掛けていく。

「くっ、流石に一撃が重いな……!」

「どうしたフィーネ、もう降参かぁっ!」

「馬鹿を言うな! 既にお前は……私の術中に嵌まっていると知れ!」

 無論、フィーネもまたやられっ放しじゃない。

 ウェインの仕掛ける高速空中戦、一撃離脱を徹底した斬撃を防ぎながら……僅かな隙を見出せば、彼女は逆転の一手を打つ。

「――――アレスターチェーン!」

 ザンッとまた一撃を仕掛けたウェインが飛び上がった瞬間、フィーネはバッと右手を伸ばし……その手首の裏から細長いチェーンを射出。飛び上がっていたファルシオンの片足を後ろから縛り上げてしまう。

「落ちろぉぉぉぉっ!!」

「な……っ!?」

 フィーネはそのまま力任せに右手を振り下ろし、驚くウェインを……離脱機動を取っていたファルシオンを地面に叩きつけた。

 白い巨体がズシンと重い地響きを立ててグラウンドに墜落すれば、フィーネはウェインの片足を縛り上げたまま、更なる一手を打って彼を追い詰めていく。

「さあウェイン、お仕置きの時間だ! ――――ショックバースト!」

 パシンと右指を弾いて発生させた強烈な電撃を、フィーネはアレスターチェーンに流し込み……そのままチェーンを通してウェインに猛烈な電撃を叩き込む。

 ――――『アレスターチェーン』。

 ジークルーネが手首の裏側から発射する細いチェーンは、こうして敵を拘束する以外にも魔術を流し込めば、攻撃にさえ転用できてしまう。フィーネの発想次第でどんな使い方も出来る、まさに攻防一体……搦め手が得意な彼女にピッタリの武器なのだ。

「んなくそ……ぉぉぉっ!」

〈ウェイン!〉

「分かってるよ! 脱出しなきゃどうしようもねえんだろ!? だったら……ライトニングハーケン、もう一発だぁぁっ!!」

 チェーンを通じて流し込まれた電撃で徐々にダメージを負いながらも、ウェインは再びライトニングハーケンを発射。片足を縛り上げていたアレスターチェーンを光槍で切断し、どうにか拘束状態から脱出。そのまま一気に飛び上がって離脱しようとするが……。

「甘いな! ……テンペストイリュージョン!」

 しかし飛び上がるよりも早く、ダンッと超高速で踏み出したフィーネは……一瞬の内に距離を詰め、左手のミラージュレイピアで攻撃を仕掛けてくる。

 それも、一度ではない。一瞬の内に何十回も……それこそ残像が見えるほどの速度で、分身しながら四方八方からウェインのファルシオンを斬り刻んでくる。

 ――――そう、これこそがジークルーネの真骨頂だ。

 ウェインのファルシオンが見た目通りに空中戦を得意とするナイトメイルなら、フィーネのジークルーネは地上での超高速戦闘……音速を超えたスピードでの戦いを得意としているのだ。

 だから、地上に叩き落とされた時点でウェインの不利は決まったようなもの。故にこうして彼女に圧倒されても仕方なかった。

「チィ……ッ!」

 しかしウェインも、巧みな剣捌きでそれに対応。四方八方から迫り来る分身したフィーネの猛攻を、かすり傷を負いながらもどうにか防いでみせる。

〈地上戦は向こうに分があります! ならばこちらは……!〉

「こっちの得意分野に引きずり込めば良いってことよ! 行くぜファルシオン!」

 そうして防ぎながら、一瞬の隙を突いてウェインは急上昇。プラーナウィングをはためかせながら一気に上空へと飛び上がる。

「逃がすものかぁぁぁぁっ!!」

 フィーネも大地を蹴って飛び上がり、それを追撃。握り締めたミラージュレイピアで鋭い刺突を放つが……。

「あらよっと!」

 しかしウェインはひらりとそれを回避。軽々とした身のこなしで宙返りをすれば、フィーネの背後に回り込み……さっきまでの劣勢が嘘のように、今度は攻勢に転じる。

「忘れたかよ、俺たちの本領は……空中戦だってなぁぁっ!!」

 不敵に笑いながら、ウェインはフィーネ目掛けて左手のバトルキャリバーを振り下ろす。

 それをフィーネはやはり素早い動きで回避するものの……地上でのそれと比べて、どこか精彩を欠いている。

 やはり、ジークルーネは一転して空中ではファルシオンに不利なのだ。

 そのことを見抜いてか、ウェインは上下左右、あちらこちらにひらりひらりと舞いながらバトルキャリバーを振るい、重く強烈な斬撃のラッシュを彼女に浴びせていく。

「くっ……やはり空中戦では分が悪いか……!!」

 降り注ぐ剣の雨あられをどうにか躱しながら、フィーネはすぐさま急降下。ダンッと地響きを立ててグラウンドに着地すると、再びウェインを地上戦に引きずり下ろすべくアレスターチェーンを射出。上空の彼を縛り上げようとするが。

「二度も効くかよ、ンなもんがよぉぉぉっ!!」

 真っ直ぐに飛んできたチェーンを、ウェインは難なく斬り払ってみせる。

「やるな……ウェイン!」

「へッ、お前こそ相変わらずの頭の切れで安心したぜ!」

「だが安心するのはまだ早い! ――――刺し穿て、テンペストランサァァァッ!!」

「フィーネ相手に油断なんか出来るわけねえだろうが! ――――プロミネンス……バァァァァストッ!!」

 互いの実力を称え合い、小さな笑みを向け合って。そうしながら地上のフィーネは細長く鋭い風の槍を上空目掛けて撃ち放ち、ウェインは右手から超高熱の真っ赤な焔の奔流を、地上目掛けてブッ放す。

 風属性と炎属性、『テンペストランサー』と『プロミネンスバースト』。二つの強力な攻撃魔術が空中で激突して互いに相殺し、スタジアムに吹き荒れるのは火の粉交じりの猛烈な突風。

 そうして互いの魔術が破られれば、ウェインは更に高く飛び上がって間合いを取ろうとするが。

「逃がさん……!」

 フィーネは三度目のアレスターチェーンを射出。今度は斬り払われることなく、バトルキャリバーを握るファルシオンの左手首をギュッと締め付ける。

 そのままフィーネは勢いをつけてウェインを地面に叩き落とそうとしたが――――。

「だから言っただろうが! 二度も……同じ手が効くかあぁぁぁっ!!」

 しかしウェインは背中のプラーナウィングを全力ではためかせると、叩き落とそうとするフィーネに抗い……逆にジークルーネを力づくで引っ張り上げてしまう。

「な……っ!?」

 これには流石のフィーネも面食らい、目を丸くして驚いてしまう。

 その間にもウェインは強引な上昇を続けて、フィーネを空の上へと引きずり上げていく。

 無論このままでいる彼女ではなく、フィーネはすぐにアレスターチェーンを解いて地上に戻ろうとする。

 だが、ここは既に上空だ。即ち空中戦――――ファルシオンの独壇場だ!

「オラァァァッ!!」

 自由落下で逃走を図るフィーネに対し、すぐに反転したウェインは猛スピードで急降下。そのまま彼女の横を通り過ぎて……背中側に回ると、振り向きざまの一閃をバトルキャリバーから放つ。

 全力で振るう、重い刃の一閃がジークルーネの背中に襲い掛かる。

 それをフィーネは避けようとはしたものの……しかしここは空の上だ。得意な地上ならまだしも、空中ではどうしてもファルシオンより動きは鈍くなってしまう。

「ぐっ……!?」

 だから避ける間もなく、ウェインの放った一閃はジークルーネの背中に直撃。マント越しの背中から火花を散らしながら、フィーネは思わず眉をひそめる。

「この……っ! テンペストランサァァァッ!!」

 それでもフィーネは反撃に転じようと、振り向きながら再び風の槍『テンペストランサー』を撃ち放ったが。

(しまった……!)

 振り向いた先に、もうファルシオンの姿はなく。放った風の槍はただ虚しく空を切るのみ。

 ハッとした頃には既に遅く、ジークルーネの背後には……一瞬の内に回り込んだ、白き翼の魔導騎士の姿があって。

「――――貰ったぜ、フィーネぇぇっ!!」

 フィーネが振り向くより早く、ウェインは右手に集めたプラーナを真っ赤な焔に変えて、灼熱を手のひらに迸らせる。

「ッ、一本取られたな……!!」

「プロミネンス……バァァァァストッ!!」

 ウェインは燃える右手をダンッと背中に叩きつけて、迸る灼熱をジークルーネに零距離で叩き込む。

 火柱となって放たれた、超高熱の真っ赤な奔流。密着状態から撃ち放たれたそれは、ジークルーネの背中を焼きながら……そのままの勢いで彼女をスタジアムの地面にダンッと叩きつけた。

 ジークルーネの落下と同時にドンっと激しい土埃が巻き上がり、その姿を一瞬だけ覆い隠す。

〈これで決まり、でしょうか〉

「油断すんなよ相棒、あのフィーネがこの程度でどうにかなるとは思えねえ」

 そんな景色を上空から見下ろしながら、ファルシオンとウェインが言葉を交わし合うこと数秒。

 そうした数秒後、土埃が晴れた先に見えたのは――――傷付きながらも立ち上がる、青い魔導騎士の姿。

 ミラージュレイピアを杖代わりに、よろめきながらも立ち上がるジークルーネの姿がそこにあった。

「ふふっ……ウェイン、中々やるじゃないか。力任せにも程がある……お前らしくて好きだぞ、そういうところは」

「褒めたって何も出やしねえよ、っつーか今ので倒せねえのかよ」

「当たり前だ、私とルーネはその程度で倒れはしない。それよりも……まだ勝負はこれからだぞ」

「わーってらい。グダグダやってもしょうがねえ、とっとと決着つけるとしようぜ」

「ああ、全力で来いウェイン! 明日のランチは負けた方の奢りだ!」

「うげっ!? そりゃあ勘弁してくれよ!?」

「だったら構えろ! 嫌ならこの私を倒してみせろっ!!」

「へいへい……わーったよ! お前にゃ敵わねえなホントによ……!」

「ふふっ、それでこそだ……それでこそ私のウェインだっ!!」

 どこか気の抜けたようにも聞こえる言葉を交わし合いながら、ウェインはバトルキャリバーを、フィーネはミラージュレイピアを再び構えて、更なる攻撃を繰り出そうとするが――――。

「――――戦闘終了(ノック・イット・オフ)、お二人ともそこまでにしておきましょう」

 しかしどこか無粋ともいえるタイミングで響いてきたエイジの声が、二人の戦いに中途半端なところで終止符を打つのだった。

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