プロローグ:セカンド・イグニッション‐烈火の少女‐
プロローグ:セカンド・イグニッション‐烈火の少女‐
空が茜色に染まる頃、夕暮れ時のエーリス魔術学院の校舎屋上。そこに独り立ち、ただ静かに風に吹かれている……そんな少女の姿があった。
「…………」
少女は赤色の髪を――ロングツーサイドアップに結った髪を揺らしながら、じっと無言のまま風に吹かれている。
憂うように細めた双眸、ターコイズブルーの瞳が見つめるのは、遙か遠くの水平線。
誰も居ない屋上で独り、夕焼けに染まる水平線を見つめる少女の顔は、どこか憂いの色を帯びているようだった。
「この風、あんまりいい感じじゃないわ。すごく嫌な風ね……アタシには分かるの」
〈うむ。このまま何も起きなければよいのだが〉
呟いた少女にそう返すのは、どこからか聞こえてくる寡黙な男声。
低く落ち着いたその声の主は、少女が右の手首に着けた深紅の数珠――彼女のナイトメイルだ。
「でも、こんな予感は得てして当たるものよ」
そんな相棒の声に、しかし少女は右手首のそれに視線を落とさず、ただ水平線の彼方を見つめたままで呟く。
〈……この学院には、奇妙な気を漂わせた何者かが潜んでいる。その気配は主殿も感じているはずだ〉
「当たり前よ。普通じゃ分からないかも知れない、けれどアタシはちゃんと感じてる」
〈私は……それが、どうにも気掛かりでならん〉
「この風も、時折感じるあの邪悪な気も。その全部が不吉の前兆だって――朱雀、アナタそう言いたいんでしょう?」
〈……うむ〉
「アタシも同じ気持ちよ。でも例え何があったって、ここにはアタシとアナタが居るじゃない? なら絶対に大丈夫よ、何が起きたって……このアタシの拳が、全部砕き折ってやるんだから」
憂いの色を秘めた声の相棒に言って、少女はグッと拳を握り締める。
「他の誰でもない、このアタシの――――天竜活心拳の誇りに懸けて、必ずね」
風の吹く屋上、茜色の空を頭上に仰ぎながら――――烈火の少女、羽衣涼音は己が拳を強く、強く握り締める。
ほんの少しずつ、物語の歯車は……でも着実に、次の段階に向かって動き始めていた。
(プロローグ『セカンド・イグニッション‐烈火の少女‐』了)




